火星歴元年 3
姉ちゃんの説明が一通り終わると、いよいよ火星へと移動する。
「では、火星へと移動しましょう。火星にはこのように移動します。弟ちゃん達、準備は良い?」
「いいですよ」
ミサキが返事をすると、次の瞬間、僕らは空中に吸い上げられた。
会議室の天井に設置されているモノリスに吸い寄せられ、気がつけば銀色の月の内部に居る。
姉ちゃんは、相変わらず僕らに対しては、説明が少ないようだ。
銀色の月の中で待機していると、しばらくして残りの参加者達がやって来る。
全員が揃うと、今度は火星行きのドアをくぐって、あっという間に火星に到着した。火星に着くと体が軽い、確か重力は3分の1ぐらいだった気がする。
到着した場所は、空港のような場所だった。広いロビーのど真ん中に僕らは出てくる。姉ちゃんは、どこからか旅行ガイド用の旗を取り出し、それを掲げて大きな声で言う。
「まずは今日の宿泊場所に行きます。宿泊場所と言ってもホテルなどではなく、普通の住宅です。ではみなさん、付いてきて下さい」
空港のロビーのような場所を、歩いて抜けると、車が何十台も待機している場所に出た。
地球上だと、おそらくタクシー乗り場と言った所だろう。
待機している車は全て同じ車種で、軽自動車のワゴン車にの後ろに、さらにトラックの荷台をくっつけた様な変わった形をしている。そして、全ての車にタイヤが付いていない。おそらく空飛ぶ車なのだろう。
「一台が6人乗りなので、3台に分かれて移動します。大きな荷物は荷台の方へお願いします。全ての車が自動運転なので、運転免許などの心配はいりません」
姉ちゃんが参加者を車に振り分ける。全員が乗り込むと、車は発進した。
僕たちは姉ちゃんとは別の車に乗ったのだが、車で移動している最中も、翻訳用のイヤホンを通じて説明が聞えてくる。
「火星上では、音声認識による、様々な支援が受けられます。例えば、照明器具のオン・オフ。テレビのチャンネルの変更などといった、スマート家電のような機能から、公共施設の予約や、タクシーの手配と言った物まで対応しています。
支援システムの名前は『フォボス』と言います。『フォボス』と言った後に、要件なり質問をして下さい、何らかの答えが返ってきます。さて、もう目的地に着きました」
3分ぐらいだろうか。僕たちを乗せたタクシーは動き始めたと思ったら、もう停止した。
まあ、居住地の大きさは、一辺が4.5キロの正六角形と言っていたので、端から端まで移動しても10分も掛からないのだろう。
車を降りると、そこは団地の中にだった。
4階建ての集合住宅が、幅の広い道路に沿って続くのだが、集合住宅の形がちょっと特殊だ。
階ごとに部屋をわざとずらして、建物が階段状になっている。段々畑のようなマンションと言っても良いだろう。そんな、ちょっと変わった建物がたくさん建っていた。
全員が降りた事を確認すると、姉ちゃんはこう言った。
「いったん部屋に入り、荷物を置いて下さい。この後、レクリエーションがあるので、トイレを済ませて、動きやすい格好に着替えて、15分後にはこの場所に戻って来て下さいね。部屋の場所は『フォボス』に聞いてみて下さい」
「フォボス、どこに行けば良い?」「フォボス、部屋はどこ?」
参加者がそんな質問を投げかけると、質問をした人の前に光の矢印が現われた。そのナビゲーションに従い、それぞれ用意された部屋へと移動する。
僕らも移動を開始する。4階建ての建物の2階にある部屋。ここが僕たちに割り当てられた部屋らしい。
「フォボス、鍵は掛かっているの?」
僕がそう質問すると、こんな答えが返ってくる。
「登録者、又は管理者がドアノブを触ると、鍵は自動で外れマス」
「じゃあ、時間もないし、開けてみよう」
ヤン太が扉に手をかけると、鍵など掛かっていないように扉は開く。
玄関で靴を脱ぎ、中に入ってみると、中はかなり広い。
メインとなる部屋は、20畳を超えるキッチン付きダイニングの部屋だ。
個人用の部屋も6つあり、試しに扉を開けると、中は10畳くらいありそうな広い部屋だった。
「広すぎて、逆に落ち着かないかもね」
ジミ子がちょっと笑いながら言った。確かにこの部屋は僕らには広すぎるかもしれない。
トイレを手早く済ませて、僕たちは再び外へ出る。
すると、他の人はまだ誰も来ていなかった。
おそらく、念入りに部屋を物色しているのだろう。定住を考えて居る他の参加者は、これから住むことになるかもしれないので真剣だ。
時間ギリギリになると、他の参加者達が帰ってくる。
参加者達は、顔を見合わせると、それぞれ感想を言う。
「いやぁ、清潔で広い部屋でした。今すぐにでも引っ越したいです」
満点に近いような答えをする人もいれば、
「ちょっと狭いですね、今住んでいる場所の半分くらいしかないです」
と、不満を言う人もいる。
話を聞いてみると、不満を言った人は、アメリカの人だった。
やはりアメリカは家が広いのだろうと思っていたら、他のアメリカ人が反論をする。
「俺はニューヨークに住んでいるが、あんな家に住めるのは、一部の金持ちだけだぜ!」
どうやら同じアメリカでも、都市部と田舎ではだいぶ差があるようだ。
一部の人は不満らしいが、大半は満足したような答えだった。
「部屋は良いのですが、私は、あのインテリアは頂けませんね」
「照明はもっと、オレンジ色っぽい方が」
「はい、それではレクリエーションの場所に向いましょう。タクシーに乗って下さい」
参加者同士で、軽い討論が始まりそうだったので、姉ちゃんが話に割って入る。
無理矢理タクシーに押し込めて発進すると、また、姉ちゃんが解説を始めた。
「この場所は『学業施設、運動施設』がメインのエリアです。先ほどの住居から、大学の中枢部までは、歩いても10分ほどです。充分に徒歩圏内ですね。大学では様々な授業が無料で受けられ…… おっともう着きますね。あとで大学のカタログを差し上げます」
車で2分ちょっと移動すると、僕らは運動場の一角に着いた。
高いフェンスで覆われたコートがいくつもある。コートの大きさと形状から、どうやらテニスコートのようだった。
「姉ちゃん、レクリエーションでテニスをやるの?」
僕が質問すると、姉ちゃんはハンドボールくらいのボールを取り出しながら言う。
「いいえ違うわ、小学生でも楽しめる球技、ドッジボールをやってもらうのよ」
確かにテニスと違ってドッジボールなら初心者でも楽しめるだろう。
それに、重力がおよそ3分の1の、火星上で行なうドッジボールは面白そうだ。
「クックック、低重量でのドッチボール、楽しめそうね!」
ミサキが上から目線で、偉そうに言う。
確かにミサキは運動神経は良いが、はたしてどうなるのだろうか?
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