飛行船クルージング 1
父さんと母さんと僕で晩ご飯を食べていると、姉ちゃんが帰ってきた。
姉ちゃんは帰ってくるなり、僕らにこんな質問をする。
「母さん、父さん、弟ちゃん、今週の金曜の夜から土曜にかけて、予定は空いている?」
「空いているが、どうした?」
父さんが、そう答えると、姉ちゃんは鞄から封筒に入ったチケットを出してきた。
「今週の改善政策で、
「ああ、そんな事をいっていたな」
「その飛行機が出来上がったのよ。それで飛行機を製作した会社さんが、自社の社員さんの家族や友達を呼んで、大々的な試運転をする予定になったのね。その流れで、協力会社の私にも声がかかって、無料の『家族招待券』をもらって来たんだけど、どう? 行く?」
「おお、それは行ってみたいな」「是非、乗ってみたいわね」
父さん母さんは、迷わず参加の返事をする。
「弟ちゃんはどうする? お友達の分もあるわよ?」
「じゃあ、みんなに聞いてみるよ」
宇宙人の作った低速の飛行機に乗れるらしい。実際に乗るとなると、どんな飛行機なのか、かなり興味がわいてきた。
宇宙人が設計した飛行機はどんな形だろう?
一般的な飛行機の形をしているのか、それとも、いかにもUFOといった形をしているのだろうか?
色々と考えを巡らせていると、ふと疑問が頭をよぎる。
「今週、製作を発表したばかりだよね? いくらなんでも出来るのが早すぎない?」
「実は4カ月間くらいからプロジェクトは動いていたのよね。
「じゃあ、セクシー発言も予想されていたんだ」
「いや、温暖化対策について言う事までは予測ができていたらしいけど、あんな言い方をする所までは、予測できなかったみたいね」
「ふーん。そうなんだ」
なるほど、宇宙人の技術でも、予測出来ない部分もあるらしい。
「どんな飛行機なのかしら?」
母さんが姉ちゃんに質問をすると、姉ちゃんは鞄からパンフレットを取り出しながら言う。
「まだ、作りかけのパンフレットなんだけど、こんな感じ。主翼とか一切無くて、見た目は飛行機というより、飛行船って感じね」
パンフレットの表紙には、ゲームに出てくるような、かなり丸っこい飛行船の写真と、
普通の飛行船と決定的に違うのは、窓の数がやたらと多い。本来ならガスの詰まっている気球の部分に、ビルのように窓が整然と並んでいる。おそらく気球にあたる部分の全てが乗客スペースなのだろう。
「なんか凄く大きそうだけど」
僕が質問をすると、姉ちゃんは自慢気に答える。
「全長68メートル、全幅52メートル。中は6層からできていて、旅客定員1132名よ」
「ちょっと大きすぎない?」
「大丈夫よ。船だと、こんな乗務員数は平気であるらしいから」
姉ちゃんの言ってる事が信じられず、後でネットを調べてみると、普通の長距離用のフェリーでも800名とか1000名近く乗れるらしい。世界最大の豪華客船では5000人が乗れるそうだ。そう考えると、1132名でも妥当な気がしてきた。
「なんだか豪華そうね」
母さんがそう言うと、姉ちゃんは少し申し訳無さそうに言った。
「残念だけど、この船はあまり豪華ではないの。料金の高い富裕層向けの豪華客船というより、生活密着型のフェリーって感じね。だけど、精一杯、良い部屋を用意したわ」
そういって姉ちゃんはチケットを配る。
父さんには『ロイヤルルーム』。僕には『ファーストクラス ツインルーム』というチケットが3枚渡された。
「父さんと母さんは、ロイヤルルームね。弟ちゃんはファーストクラスの部屋よ」
「おお、すごい」「これは高そうね」
父さんと母さんがちょっと嬉しそうに声を上げる。
「飛行機と比べると、そこまで高くないかもね。企画段階の料金だと、東京とグァムの片道料金が、エコノミーだと1万2000円、ビジネスは1万6000円、ファーストクラス2万4千円、ロイヤルルーム5万円、ロイヤルスイートルーム9万円の予定よ」
「安すぎない、大丈夫なの?」
僕がそう心配をすると、姉ちゃんは言い切った。
「大丈夫よ。サービスは最低限に抑えたから、これでも採算は十分取れるわ。それにこの料金だったら、福竹アナウンサーから文句も出ないでしょう」
確かにこの料金だと福竹アナウンサーは何も言わないだろう。だけど、福竹アナウンサーを基準にすること自体が間違っている気もする……
僕がLnieでみんなにメッセージを打とうとして、手が止まる。
「そう言えば、どんな日程なの?」
「今週の金曜の夜の出発ね、夜の7時30に私の会社の前に集合。どこだってドアで移動して、船に乗り込み8時に出港。翌朝グァムに到着して、そこから折り返しで帰ってくる予定ね」
「グァム?それだとパスポートいるよね? 僕ら持ってないから、取得するとなると、間に合わないんじゃ……」
「申し訳ないんだけど、向こう側に着いても、許可がまだ降りてないから、地面には降りれないのよ。だからパスポートは要らないわ。行って帰ってくるだけの試運転なんだけど、本当にそれでも行く?」
「うん。それでも満足できると思うよ」
「それならよかった。ファーストクラスの部屋だと色々と備品が着いているから、手荷物は最低限の着替えくらいでOKよ。あと、6人まで行けるから、もう一人、誘ってみれば?」
「分った、ちょっと考えておくね」
僕は概要をみんなにLnieで伝える。
すると、すぐ参加すると返事が返ってきた。
翌日、僕らは地元のメェクドナルドゥに集まった。
姉ちゃんから作りかけのパンフレットを貰い、僕がそれを見せながら、詳しく説明をする。
「こんな感じらしいんだ。目的地で降りれなくて返ってくるだけなんだけど、どう? 参加する?」
「行きたい!」「参加する!」「いくぜ!」「いくわ!」
飛行機の図を見せ、詳しく状況を説明すると、みんなはますます乗り気になった。
その中で、ミサキがちょっとだけ不満を漏らす。
「ここの情報が無いのが、ちょっと残念だわね」
それはレストランの紹介ページだった。レストランのページはまだ空白で、『参入業者、交渉中』と、一言だけ書かれてあった。おそらく、どこかの飲食チェーンあたりと提携するのだろう。
ミサキの悩みは大したことないので、放っておいて、僕は話を進める。
「今回のチケットで参加できるのは6名。もう1人、誘えるんだけど、誰かいるかな?」
「うーん、居ないわね」「一人だと、ちょっと困るな」「妹は今週末は林間学校だし……」
それぞれ考えるが、思い当たる人は居ないらしい。
しばらく悩んでいると、ヤン太の携帯が震え出す。
僕がその事を指摘する。
「何かメッセージが来てるよ」
「ああ、ちょっと確認するか。……またアイツからか」
「アイツって誰?」
「隣の高校の
すると、ミサキがこう言った。
「ちょうど良いんじゃない。今回の旅行に誘えば?」
「マジか!」
ヤン太があからさまに嫌な顔をする。
「別に俺は構わないぜ」
キングは特に気にしていないようだ。ジミ子がこんな事を言う。
「キングが良いなら良いんじゃないの? まあ、さすがにキングと二人部屋はマズいと思うけど」
「マジか~、まあ、いいや。その流れで連絡を取ってみるわ」
ヤン太が話を持ちかけると、白木くんは、すぐにOKの返事を出してきた。
こうして白木くんを含め、僕ら6人が空の旅を体験する事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます