バスとバイトとエレベーターガール 1

 夕飯を食べ終えて、リビングのソファーでテレビを見ながら、スマフォをイジっていると、姉ちゃんが帰ってきた。

 姉ちゃんは僕の顔を見ると、こんな話をしてくる。


「弟ちゃん。バイトの話があるんだけど、どうする?」


 僕らは夏休みに入ってから何日かバイトをやって、そこそこのお金を稼いだが、ミサキはほとんど使ってしまった。

 みんなで遊びに出掛ける為にも、少しバイトをやっておきたいが、姉ちゃんの持ちかけてくるバイトは怪しい物が多い。まずは内容を詳しく確認してみる事にした。


「どんなバイトなの?」


「うーん、そうね。ちょっと説明するのが難しいけど、一番近い仕事はエレベーターガールかしら?」


「エレベーターガール? 僕らがデパートとかで何かやるの?」


「いえ、違うわ。都心を走る路線バスのエレベーターガールよ」


「??? 何それ?」


 姉ちゃんが訳の分からない事を言い出した。



「あー、そうね。ちょっと話が分かりにくいわよね。順を追って話すわ、まずはコレを見て」


 姉ちゃんが仕事に持って行っている鞄から、タブレット端末を取り出す。

 いくつか操作をして、僕に画像を見せてくれた。


 画面には、小型の水上バスのような乗り物が映っていた。


「何これ? 水上バス?」


「いいえ違うわ。これからマスコミに発表するけど、空中を浮遊するバスよ。車幅3.7m、全長16m、76人乗りの大型バスなの。試験運転で都会のゴチャゴチャとした細い道を走らせる予定よ」


 なんと、今度は空中を走るバスを開発したらしい。



 交通量の多そうな都会の道路を、渋滞を無視して空中を自由に走れるこのバスは、とても理想的に思える。

 ただ、僕はこのバスの欠点らしき物を見つけてしまった。


 僕は姉ちゃんに欠点を指摘する。


「この空中バス、狭い道に対して大きすぎない? 普通のバスって大きさはどれくらいなの?」


「だいたい大型バスで、車幅2.5m、全長12mくらいかしら?」


「お客さんを乗り降りさせるには、地面に降りる必要があるじゃない。車幅3.7mだと反対車線の道路もふさがないかな?」


「大丈夫よ、ちょっとコレをみて」


 そういって姉ちゃんがタブレットを操作する。

 すると、空中バスの最後尾に着いている、サンルームのような小部屋が、本体から分離して下降を始めた。



「なにこれ? この部分が別れるの?」


「そうよ、後ろの部分が別れるの。ちょうど母艦と子機みたいな感じでね。

 母艦は空中に留まったままで、子機の部分だけがエレベーターみたいに地上に降りて、お客さんを乗せたり降ろしたりするの。これなら道を塞がなくても済むでしょう」


「すごい! 良くできてる」


「そうでしょ。ちなみに、この乗り降りする為の子機は、2機、3機と増やす事もできるわ。乗り降りの激しい路線でも複数の子機を使って対応が可能よ」


 姉ちゃんが得意満面で語る。これは本当によく考えられたシステムだろう、これからの交通が変わるかもしれない。



 このバスに興味を持った僕は、姉ちゃんにいくつか質問する。


「これで、飛行機が作れるんじゃないの?」


「うーん。このシステムはあまり速度が出ない設計だから、飛行機の代わりはちょっと難しいかな。使おうと思えば使えるけど」


「速度が出ないって、どのくらい?」


「これは車を元に規格を考えたから、だいたい時速150キロくらいね。飛行機の4分の1から、5分の1くらいの速度だから、外国への長時間の移動は厳しいわね」



「そう言えば法律的には運転免許は、何が必要になるの?」


「完全な無人運転ね。今週発表された自動運転のシステムで、色々と法整備が進む予定なの。無人運転の許可が降りるようになるから、それに向けての開発と試運転ね」


「バスの運転手さんは、この空飛ぶバスに職業を奪われるじゃない? 反対しないの?」


「今のところ反対は起こっていないわね。このバスを導入するのは、運転手も嫌がるゴチャゴチャした路線がメインになる予定だからね。値段も値段だし、全てのバスを直ぐに入れ替える訳にもいかないと思うから」


「これって、いくらなの?」


「えーと、最低限のオプションを付けて7000万近くかな」


「……売れるの、それ?」


「たぶん問題はないわ。大型バスでも3000万~4500万くらいするらしいから、まあ大丈夫でしょう」


 とんでもない値段の気もするが、調べてみると大型のジャンボジェット機は一台100億円以上するらしい。

 そう考えると、この空飛ぶバスの値段が安く感じた。



「弟ちゃん。それでバイトはどうするの?」


 話がかなり逸れてしまった。僕はバイトの内容に話を戻す。


「そうだった。僕たちはバイトで何をすれば良いの?」


「都会の路線バスで、エレベーターガール兼、車掌しゃしょうをやってもらおうと思ってるわ。ロボットにやらせても良いんだけど、やっぱり人間のほうが親しみが湧くじゃない?」


「都会とか、僕ら土地勘とちかんとか無いし、お客さんに『○○の停留所に止まりますが?』とか尋ねられても答えられないよ」


「大丈夫よ。車掌の支援システムもあるから、そこら辺は問題ないわ。なんなら対応はロボットに任せて、ただニコニコと愛想あいそを振りまいているだけでも構わないから」


「バイト代は幾らなの?」


「一日6時間労働で1万3千円、とりあえず試験運転が3日間だから、合計で3万9千円ね」


「分かったよ。とりあえずみんなに聞いてみるね」


 Lnieでメッセージを送り確認してみると、みんなOKの返事が返ってきた。


 僕は姉ちゃんに報告する。


「みんな引き受けるってさ」


「じゃあお願いね、詳しい日程は後で送るから」


 こうして僕らはエレベーターガールっぽいバイトをする事になった。

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