事故と自信

 危険運転の取り締まりをしてから数日後、僕たちは、地元でちょっと買い物をする事にした。


 みんなで本屋に行き、マンガの新刊をチェックした後、夏休みの宿題の読書感想文用の本を購入する。次に、スーパーで音楽CDの特価処分があるので、有名なアーティストのCDを、ためしに2枚ほど買った。


 その後、ファッションセンターしまぬらに行き、宇宙人の開発した浮遊機能のある水着を僕が買った。

 ジミ子に「お姉さんからもらった、あの水着があるじゃない」と、ちょっとからかわれたが、あの露出度の高すぎる水着を着ることは、もうないだろう。



 一通り買い物が終わると、ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに入って休憩する事にした。

 期間限定のチョコミントのシェイクを買ってテーブルに座る。


「このチョコミント、すごいミントが強いわ」


 ミサキが硬くてあまり吸い込めないシェイクを、強引に吸いながら言う。ジミ子も、なんとか一口だけ飲み込んで、感想を言った。


「本当ね。それより今週の改善政策、凄く良かったわね」


 ヤン太が硬すぎるシェイクをストローでかき回しながら答える。


「そうだな。これで交通事故が激減するよな」


「激減じゃなくて、これから先は事故が、まったく無くなるんじゃない」


 ミサキは得意な顔で言うが、ヤン太が驚いた様子で返事をする。


「昨日のニュース見てないのか?」


 どうやらミサキは知らなかったようだ。



 僕がスマフォを見せながら、昨日のニュースを説明する。


「昨日、コンビニに老人の運転する車が突っ込む事故があったんだ」


「なんで? 宇宙人の作った『危険運転の防止装置』でも、防げない事故があるのかしら?」


 ミサキがニュースの記事を全く見ずに反論をする。しょうがないので、僕は一つ一つ説明をする事にした。


「違うよ。事故を起こした車には『危険運転の防止装置』を付けていなかったんだ」


「どうして? 知らない……ってことは無いか。あの番組は見なきゃいけないし。もしかして装置の在庫が無くなったとか?」


「いや、装置の数は充分にあるよ。運転をしていた老人が『自分は運転が上手いから事故を起こさない』って思い込んでいて、装置を付けなかったみたいなんだ」


「事故が起きてるじゃない……」


 あきれた様子のミサキに、思わずジミ子が横から口を挟む。


「そうよ、起きてるわよ。でもなぜか変な自信を持っている人が多いのよ」


 キングがスマフォを差し出しながら言う。


「最近、ネットで話題になっているのは、この動画だぜ」



 キングのスマフォには、一人の老人と、その家族と見られる人が何人か映っていた。どうやら車の運転で揉めているらしい、こんなやり取りが行なわれていた。


「もう82歳なんだから、いいかんげんに運転は辞めて下さい。危険運転すると、重罪になるようになったんですよ」


「儂はまだまだ現役だ。運転の腕は衰えておらん!」


 若い人が、老人の説得をしているようだ。

 老人は聞き分けがないようで、若い人の説得が続く。


「この間、ガードレールに車をこすったじゃないですか。運転するなら、せめて『危険運転の防止装置』を付けてください。この装置を付ければ事故が起こらなくなりますから。自動運転の機能もあるので、運転をしなくて楽もできますよ」


「要らん! そんな不気味な装置は儂には必要ない!」


 老人は家族の制止を振り切り、無理矢理に車のエンジンを掛けて、どこかへ出掛けようとする。

 すると、プレアデス・スクリーンが現われ、機械音声で警告が響き渡る。


「アナタは年齢により、筋力、判断力、反射神経、が低下していマス。安全に運転をする基準に至ってまセン。このままの状態で運転をすると『危険運転』とみなされマス」


「な、な、なんだとー! 儂を馬鹿にするのか! 機械の分際ぶんざいで!」


「馬鹿にしていまセン。事実デス」


「その態度が馬鹿にしていると言っているのだ!」


 老人がますます激怒する。この状態がまずいと思ったらしく、家族の一人が車の鍵を抜き取り、どこかへ走って逃げた。


「鍵を返せ! 馬鹿者が!」


 老人が、家族の一人をふらふらと追いかける。

 あまりの激昂げっこうっぷりに、家族では手に負えないと判断したらしく、誰かが警察を呼んだ。


 やがて警察がやって来て、この老人に言い聞かせるように説得する。


「あのまま車を運転していたら、危険運転で死刑か無期懲役ですよ。この装置を付けるだけで良いんですからそうしましょうよ。わかりましたか?」


「……分かりました」


 警察に強く言われて、渋々従う老人。かなり人騒がせな人物だ。



 動画を見終わると、キングがミサキに解説をする。


「自分は絶対に事故は起こさないと思ってる人が、けっこう多いらしいぜ」


「危険運転とかすると重罪になるのに?」


 ミサキの質問に、あきれながらヤン太が答える。


「ああ、それがなぜか絶対の自信を持っているらしい」


 ジミ子が突き放すように言い放つ。


「こういう人達は、逮捕されなきゃ分からないかもね」


「ふーん。まあそうなのかもしれないわね」


 みんなに言われて、ミサキがちょっとだけ納得をする。


 変な自信に満ちあふれた人達は、一定数は居るみたいだ。

 こういった人達がいる限り、地球上から事故が無くなるのは、もう少し先の事になるかもしれない。

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