朝顔の観察日記 2

 台風がやって来て、2日間ほど雨が続いた。


 3日目の朝、僕は起きると窓を開けて外の天気を見る。

 昨日までの重苦しい空は嘘のように晴天の空が広がり、月と銀色の月が見えた。


 今日はミサキの家で朝から勉強会を開いて、宿題をやる予定になっている。


 朝食を済ませ、ミサキの家にいくと、ちょっと驚いた。

 おとといまでは25cmくらいしかなかった朝顔がとんでもない事になっていた。


 朝顔の植木鉢を見ると、根っこは植木鉢からあふれるようにはみ出ていて、ウネウネと周りに広がっている。

 視線を上を見上げると、茎は運動会の綱引きのロープのように太く、下からでは朝顔の先がどうなっているのかよく見えないが、2階の屋根に到達していてもおかしくはない感じだ。


 花壇や家庭菜園を見てみると、せいぜい僕の腰ぐらいまでしかなかった植物が森やジャングルのように成長していた。どう考えても、あの怪しい成長液のせいだろう。



 家の惨状を横目にミサキの家の玄関の方へ回る。

 すると、家の前には他のみんなが集まって居た。


「どうしたの?」


 僕が聞くと、ヤン太が答える。


「まだ寝ていて起きて来ないんだと」


「ミサキの事だから、まだ寝てるんだろうね」


 そんな話をしていると、玄関のドアが開いて、ミサキのおばさんが顔を出す。


「とりあえず、みんな家に上がってちょうだい。ツカサくん、悪いんだけどミサキを起こしてきて」


「分りました、行ってきます」


 みんなはミサキのリビングに待機して、僕だけが2階のミサキの部屋へと向った。



 一応、女子の部屋なのでノックをしてから入る。


「ミサキ、入るよ~」


 部屋の中に入ると、朝顔のツルにからまったミサキがそこに居た。


「おはようツカサ。助けて!」



 朝顔のツルはミサキをベッドの手すりに縛り付けるように絡まっている。ミサキはそこから無理やり抜け出そうとしたのか、顔が押しつぶすように変な顔になり、手足はよく分らない感じで、更にこんがらがった状況だ。ちなみに30センチを超える、大きな青い朝顔も咲いていた。


 とても一人では対処できそうにないので、僕はみんなを呼んだ。


「ちょっと、みんな手伝って」


 僕が大声で叫ぶと、みんながやってきた。

 この惨状を見て、ヤン太が声を上げる。


「なんだこりゃ?」


 ヤン太が驚いている一方、キングはスマフォを取り出して写真を撮りだした。


トゥイートつぶやきえする絵だ。朝顔の花が鮮やかだぜ!」


「写真を撮ってないで助けて! 早くお花を摘みに行かないと!」


 ミサキがちょっと焦った様子で怒鳴る。


「お花って何? 朝顔の事?」


 僕は不思議に思い聞いてみると、ミサキから直接的な答えが返ってきた。


「トイレよトイレ。おしっこ漏れちゃいそう!」


 その言葉を聞いて、僕らは急いでミサキを助け出す。



「えっ、ここ、どうなってるんだ?」


「ここを通せば抜けれるんじゃない?」


「俺がツタを抑えているから、力ずくで通そう」


「いた、いたた、お腹だけは押しちゃだめ! 漏れる!」


 そんなやり取りをしながら、かなり強引にミサキ引きずりだし、なんとか救出をする。

 自由になったミサキはダッシュでトイレに向っていった。



 しばらくするとミサキは、すがすがしいさわやかな笑顔で帰ってくる。


「ふう、危うく高校生になって、おねしょをするところだったわ」


 ミサキのおねしょに興味は無いので、僕は朝顔について聞く。


「この朝顔、どうしたの?」


「昨日の晩のうちに伸びてきたみたい。雨がやんだと思って、窓を開けたのは失敗したわ」


 ミサキの返答に、ジミ子が冷静に突っ込む


「そうじゃなくて、普通はこんな状況にならないじゃない。また何かやらかしたんでしょ?」


「そんなことはないわ。私は、普通に肥料を与えただけよ」


 肥料をやる時、僕はチラッと見ただけだが、アレはかなり怪しそうだった。

 どんな肥料だったのかミサキに確認をしてみる。


「あの肥料、どんなヤツだったの?」


「ええと、ちょっと待ってね。たしか空の容器がまだあったはず……」


 ミサキは部屋の隅のゴミ箱をあさると、空になった肥料の容器が出て来た。

 容器のラベルには、こう書いてある。


爆発的植物成長液ばくはつてきしょくぶつせいちょうえき! 宇宙人の技術と中国の秘術が奇跡の融合!!』


「なんだこれ……」「怪しいな……」


 ヤン太とキングが眉間にしわを寄せて、顔を見合わせながら言った。



 僕は容器の後ろに書いてある、注意書きを読み上げる。


『本製品はナノマシン配合で、植物に効率的にまんべんなく肥料を循環させます』

『肥料を与えた後、過度な水やりは控えて下さい、必要以上に成長してしまう恐れがあります』

『この製品は業務用です、希釈きしゃく1000倍でお使い下さい。10リットルの水に対し、キャップ1杯が目安です』


「ええと、ミサキ。水で薄めずにコレを使ったよね?」


 僕が注意をすると、ミサキ必死にごまかした。


「そ、そうだったかしら? ま、まあ、それより宿題よ宿題。まずはこの朝顔の観察日記をつけましょう」


 みんなはあきれた顔をしていたが、まあ、これがいつも通りのミサキかもしれない。



 この後、僕たちは朝顔の測定をした。

 ツルの長さ4メートル70センチ。花の大きさ、直径37センチ。どれも規格外の大きさだ。


 朝顔の測定が終わると、ミサキは庭の様子を見ながら言う。


「うちの野菜、ちょっと食べて見ない?」


 そこには肥大ひだいした、家庭菜園の植物があった。

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