格安の宿 2

 僕たちはスマフォを使って宿を探し始めた。ミサキは1万円しかお金を持っていないので、あまり高い場所は選べない。


 しばらくスマフォをイジっていると、ミサキが声を上げる。


「ねえ、見て。ここ素敵じゃない?」


 そういってホテルの写真を僕らに見せる。

 かなり広そうな室内、お洒落な食事、真新しい清潔なベッド。どう見ても予算オーバーにしか見えなかったが、広告には『特別提供プラン、9800円』と、予算ぎりぎりの値段が提示されていた。


「窓からの眺めも最高らしいわよ」


 ミサキは更に写真を見せる。そこには部屋の窓から見渡した、海と港の絶景があった。


「かなり良い部屋だな…… ん?」


 ヤン太がホテルの情報をチェックしていると、何かを見つけたようだ。


「この部屋。平日限定になってるぞ」


「別に平日に行けば良いじゃない。夏休みなんだし」


 ミサキが、さも当然に答えるが、そう上手くは行かないらしい。ヤン太がある一文を指さしながら言った。


「ここを見てくれ。『※ただし、夏休み期間の8月いっぱいは除く』と、書いてある」


「あっ、本当だ……」



 キングが同じホテルの情報を調べながら言う。


「その特別提供プラン、一組のペア限定だな。ちなみに9月一杯の予約も埋まってるぜ。もし、普通のプランで泊まろうとすると1万6千円はするな」


「そのホテルってどこにあるの? 交通費、いくらくらい掛かりそう?」


 ジミ子が場所について聞く。するとキングはこう答える。


「ええと海沿いの町で、ここからだと、直線距離で150キロはあるな、交通費は片道2500円はかかるな……」


 ジミ子があきれながらミサキに質問をする。


「交通費、足りないじゃない。どうするつもりだったの?」


「ええと、自転車で……」


「150キロも?」


「無理かなぁ……」


「無理よ、はぁ……」


 ミサキのあまりの無計画っぷりに、ジミ子がため息を付く。

 計画性の無いミサキが、旅行のプランを作るのは不可能だろう。ミサキの分も僕たちが調べなければならない。



 この後、様々なサイトを探すが、条件に合う宿が見つからない。

 日付の範囲を入れて検索すれば、出てくる事は出てくるのだが、良い場所は既に予約で埋まっている。予約が空いていても、とんでもなく僻地へきちで、車でしか行けない場所や、夏休みの特別料金アップで予算オーバーの物件、他に条件に合うのは都心のカプセルホテルくらいしか見つからなかった。


 かなり探し回ったが、良い場所は見つからない。みんな諦めかけていたが、僕がたまたま、ある宿屋のホームページを開く。そこにはこんな見出しが書かれていた。


『安らぎの温泉宿。限定格安プランは一泊3200円から』


「あったよ」


 僕は思わず声を上げてしまった。



「どんな宿? 安いわね、大丈夫?」


 ミサキは僕のスマフォをのぞき込んで言う。確かにこの値段なら酷い部屋しかないだろう。

 そう思ってホームページを見てみるが、綺麗な部屋の写真しか出てこない。


「良いじゃない!」


 ミサキが写真を真に受ける。こういった写真は、写真写りの良い物しか使わないのだが……


「もう部屋に空きが無いんじゃねーか?」


 ヤン太に言われて僕が空室を確認する。


「大丈夫みたい。とりあえず格安プランは空いているよ」


「悪くなさそうね」


 自分のスマフォで、この宿屋のホームページを見ていたジミ子がつぶやく。たしかに、この写真を見る限りでは、少なくとも最悪の事態になる事はないだろう。



「どこにあるのかしら?」


 ミサキに言われて、僕は最寄り駅を調べる。すると、聞いた事も無いような駅名が出て来た。


「えっ? ここはどこだろ?」


「ちょっと調べて見るぜ」


 キングがすぐに交通手段を調べる。


「ええと、特急で約2時間30分。料金は片道が4200円だな」


「それだと交通費だけで8400円。宿代が3200円で、合計11600円。ちょっと予算をはみ出すわね」


 ジミ子が即座に値段を計算する。このままでは予算オーバーだが、ヤン太がこんな提案をする。


「確か、電車賃が安くなるヤツあるだろ? 特急とかはダメで普通列車しか使えないヤツ」


 その言葉にキングが反応をする、スマフォで調べながら答えた。


「ああ、丁Rていあーる青舂せいしょう18切符があったな。あれは…… 一日2370円か。これだと予算以内に収まるな」


「じゃあ、ここに行きましょう!」


ミサキが目を輝かせながら言う。



「でもちょっと安すぎない?」


 僕は改めて疑って掛かる、この宿代はあまりにも安い。ヤン太もこの点は心配らしいが、とりあえず行動に移す事にしたようだ。


「まあ、そうだけど、他に良い宿もなさそうだし、まずは電話をして聞いてみよう。それで問題がなさそうなら予約を入れるけど良いかな?」


「いいよ」「いいわよ」「構わないわ」「いいぜ」


 それぞれがOKの返事をすると、ヤン太が宿屋に電話をする。



 ヤン太はかなり長い間電話をしていたが、やがて手でOKマークを僕らに出す。


「はい、じゃあ5人で予約、お願いします」


 そういって電話を切った。


「問題はなさそうだった?」


 僕が質問をすると、ヤン太はこう答えた。


「大丈夫そうだった。ここが安いのは『時季外れ』だかららしい。周りには『ブドウ狩り』や『林檎狩り』が出来る場所があるんだが、」


「行きましょう!」


 会話に割り込んでミサキが言う。ヤン太があきれた様子で説明を続ける。


「だから『時季外れ』だって。ブドウも林檎もまだ早すぎる。この時季は温泉以外、何も無いらしい」


「なんだぁ~残念」


 ミサキがちょっと落ち込む。


「まあ、何も無いって事はないだろう。何かあるはずだぜ!」


 キングに励まされて、この後、僕らはこの宿屋の周りで遊べる施設を探すのだが、何も見つからない。


 散々さがして、ようやく見つかったのは、ラブモンGOの出現マップだった。この場所ではレアなラブモンがよく出現するらしい。

 まあ、たまには温泉宿で、何もせずゆっくり過ごすのも悪くないかもしれない。



 この後、準備などをして、やがて旅行の当日となった。

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