バイトと水族館 4

 僕らは二つ目の水族館へと来ていた。

 イルカショーを見てミサキはずぶ濡れになったが、僕らは気にせず水族館の中を見て回る。


 最初の水族館より大きな水槽が多いが、展示してある魚はどれも地味なものばかりだ。

 イワシ、サバ、アジなど、どこにでもいるような地元の魚がほとんどだった。

 ちょっと珍しいのはマンボウくらいだろうか。僕らは少し足を止めて見ていたが、あまりに動きがのろいのですぐに飽きて次の水槽へと移動する。


 歩き回っていると、一つ、大きな水槽があった。横10メートル、縦5メートルくらいの水槽で、中には地元の魚とあまり大きくないサメが泳いでいた。


「おっサメだ。だけど小さいな」


 ヤン太が少し興味を持つ。


「他の魚は、このサメに食べられないのかしら?」


 ジミ子がちょっと疑問に思ったようだ。

 すぐにキングがネットを調べ始めた。


「結構、喰われるらしいぜ。イワシやサバは頻繁に補充されるらしい」


 ここで僕はある物を見つける。


「水槽の中に、魚のウロコが漂っているね。何かに喰われたみたい」


「まあ、犯人はコイツだろうな」


 ヤン太がサメを指さす。


「食べ放題なんてうらやましいわね」


 ミサキが泳いでいるイワシを見て言った。


「まあ、多少はしょうがないでしょうね。次へ行きましょう」


 ジミ子に言われて僕たちは再び歩き出す。



 この水族館はそこそこの広さだったと思うが、魚に特に感心のない僕らは、およそ15分で見終わってしまった。ベンチのある休憩場所で座りながら、もう一周するか、もうちょっとここでダラダラするか話し合う。

 せっかく来たんだから、という話になり、再び歩きだそうとした時に、姉ちゃんから僕に連絡が来た。


「こっちの打ち合わせは終わったわ。まだ見せたいものがあるから、戻ってらっしゃい」


「うんわかった。じゃあ戻るね」


 返事をして、姉ちゃんの場所に戻る。



 姉ちゃんはミサキを見るなり、驚いたようだ。


「ミサキちゃんどうしたの? ずぶ濡れで」


「ちょっとイルカショーを見てたらかけられちゃって」


「すぐに、着替えてらっしゃい」


「いや大丈夫ですよ。乾いてきたし」


「風邪を引いたらどうするの、自宅の目の前に『どこだってドア』で繋げるから時間はかからないわ」


 そういって姉ちゃんはロボットに合図をした。すると『どこだってドア』を持ったロボットが現われ、この場所とミサキの自宅前と繋げる。


「じゃあ、ちょっと着替えてきますね」


 そういってミサキは『どこだってドア』をくぐって着替えに行く。


「うちらも柔道場へいったん戻るわよ」


 姉ちゃんに言われ、僕らも設置してある大きめの『どこだってドア』をくぐり、他の水族館へ繋がるドアが10個ほどならんでいる柔道場へと戻ってきた。

 ちなみにミサキのくぐったドアも、あちらと繋がったまま持って来ているので、着替え終わったら問題なく合流できるだろう。



 ミサキが帰ってくるまでの時間、姉ちゃんは僕らに水族館の感想を聞く。


「どうだった、今見てきた水族館は」


「イルカショーはグレイトだったぜ!」


 キングがちょっと興奮気味に言う。するとヤン太が相づちを打つ。


「凄かったな、あんな高さまでジャンプできるとは思わなかったぜ」


「確かにあれは凄かったわね」


 なにかと評価の厳しいジミ子も賞賛する。みんな高評価だ。



 すると、最初にいた水族館の館長も張り合ってきた。


「うちのアシカショーも素晴らしいですよ。是非見ていって下さい」


 そう言われて、僕はちらりと時計を見る。

 アシカショーは2時間半ごとに行なわれ、次のショーまで、まだ1時間以上ある。

 僕は疑問が湧いてきた、ちょうど良い機会なので館長に質問をぶつけてみる。


「そういえば、イルカのショーも2時間ごとだったんですが、もうちょっと間隔を短くする事はできないんですか?」


 僕の質問に、館長は難しい顔をして答えてくれた。


「うーん、ちょっと厳しいですね。スタッフは他の仕事もありますし、なにぶん海獣達が疲れてしまいます。うちでは日に3回のショーを行ないますが、海獣の健康を考えると、日に4回が限度ですね」


「なるほど、そうなんですね」


 するとジミ子がこんな事を言い出す。


「まあ、複数の水族館で行き来ができるようになるんだから、ショーをハシゴしてみれば良いんじゃないの?」


 確かに、10の水族館があればどこかでショーをやって居るだろう。次々と見て回れるはずだ。


「ちょっと気になった事があるんだ。それをやるとショーを見る人数が多くなるだろ? アシカショーもイルカショーも会場はいっぱいだったぜ、会場のキャパシティは大丈夫なのか?」


 キングが問題点を言うと、姉ちゃんがそれに答えた。


「大丈夫よ。うちのグループ会社が会場を増設するから。それに、もし増設だけでおぎなえない場合は、いくつかのショーの開始時刻を同じにして、人を分散するようにするわ」


「それなら大丈夫そうだね」


 僕がうなずく。人の流れなど、普通は管理できそうにないが、宇宙人のAIで計算すれば、なんとかなるだろう。



「他に何か感想は無いかしら?」


 姉ちゃんがそう言うと、ヤン太がちょっと申し訳なさそうに、こう言った。


「水族館て、もっとデカい水槽があるもんだと思ってたんだ、それが案外小さいのが多かった。全部デカくするのは無理でも、ドーンと一個、大きいのを見てみたい」


 これには僕も賛成だ。ジミ子もこの意見に乗っかる。


「確かに、目の前に広がる大きな水槽があれば、水族館の売りになるわね」


 僕らの注文に水族館の館長は渋い顔をして答える。


「確かに、大きな水槽は作りたいんですが、費用がね。あと維持費もバカになりません。うちの水族館は小さいですが、光熱費と水道代が月に100万程度はかかります」


「100万も!」


 ジミ子が大声を上げた。確かにあの小さな水族館で、光熱費と水道代が月に100万円もかかっているとは思わなかった。館長はさらに説明を続ける。


「ええ、ですから大きな水族館なら、光熱費などの経費だけで1000万以上かかるでしょう。

 それに機械や施設の改修費用もバカにならないんですよ。海水で機器が傷みやすいので30年くらいで、大幅な改修工事が必要になってきます。

 大阪にある大型の水族館は、建設費が200億円かかったそうですが、改修工事の費用が100億円かかる見込みらしいですよ」


「「「…………」」」


 僕らはあまりの費用に言葉を無くす。これなら大型の水族館の入場料が高いのも納得できる。



 気まずい雰囲気が流れる中、姉ちゃんがニヤけながら僕らに聞いてくる。


「でも、大型の水槽。見たいよね?」


「そりゃ見たいけど、費用的にむりじゃない?」


 僕がそう返すと、姉ちゃんはこう言う。


「だから共有の水槽をグループ会社で作っちゃった。この高校の体育館にね」


「えっ、維持費の話とか聞いてたよね? どうするの? ちゃんと採算取れるか計算はしたの?」


「まあ、なんとかなるでしょ」


「…………」


 困ったぞ、これは何も考えずに、実行に踏み切ったパターンだ……



 僕があきれていると、ミサキが着替えて帰ってきた。


「ただいま~」


「ミサキちゃん、大きな水槽とか見たくない? 作ったヤツがあるのよ」


 姉ちゃんが声を掛けると、この場の空気を読まずにミサキは元気に返事をした。


「そんな物があるんですか? 見たいです!」


「じゃあ、みんなで体育館へ移動しましょう」


 僕らは移動を開始する。

 どんな大きな水槽を作ってしまったのか……

 色々と考えると頭が痛い。

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