バイトと水族館 5
巨大な水槽は維持費がバカにならないらしい。それなのに姉ちゃんは
僕は、巨大水槽が出来るだけ小さい事を願いながら、体育館に向う。
柔道場と体育館は隣同士に建っていて、20メートルも歩かずに到着した。
体育館の重い鉄のドアを引いて、中に入る。
すると、そこに水槽などは無かった。体育館の広い空間の中央に、モノリスのような大型の『どこだってドア』が、円を描くように10個ほど立並べてあるだけだ。その様子はイギリスにあるストーンヘンジを
「あれ? 水槽は?」
ミサキがキョロキョロと周りを見ながら言う。すると、姉ちゃんはこう答えた。
「ああ、ごめん。言い方が悪かったわね。巨大水槽じゃなくて、巨大水槽の代わりを作ったのよ。どう?」
「『どこだってドア』があるだけじゃない。どうもこうもないよ」
僕が反論すると、姉ちゃんは
「そうね。まずは体験してもらわないと、分からないわよね。とりあえず『1番~10番』まであるんだけど、順路に従って『1番』から入っていきましょう」
そういって『どこだってドア』の方向へと歩き出す。僕らは姉ちゃんの後に付いていき『1番』のドアをくぐった。
ドアの向こう側は、海の中に設置されたガラスの部屋だった。
大きさは幅は10メートル、長さ30メートルちょっとくらい。天井はアーチ状になっていて、高い所は4メートルくらいだろうか。部屋全体はカマボコのような形をしている。
海の中の部屋に放り込まれた僕たちは、その光景に息を
薄暗い海の中、水面から光が差し込む。そして目の前の巨大な
その丘は一枚の岩で出来ているように見えた。所々に階段のような段差があり、スキューバダイビングの人が何人も居て、海中を散策している。
「すげぇ」「凄いわ」
みんなから
「本物の海の底に、観賞用の部屋を作ったわ。これなら維持費もかからないでしょ。
ちなみにここは、沖縄にある『海底遺跡』と呼ばれている場所よ。あの巨大な岩は、長さ100メートル、幅60メートル、高さ25メートルで、一節にはアトランティス大陸の遺跡ともムー大陸の遺跡とも言われているわ。まあ自然に出来たという人もいるけどね」
「すごいよ姉ちゃん」
僕が素直に褒めると、姉ちゃんは
「そうでしょ。地元の観光業界の人と打ち合わせが大変だったんだから」
そう言うと、ジミ子がこんな事を聞く。
「よく許可をしてくれましたね。これを作ると、地元を訪れる人が減ってしまいますよね」
「大丈夫よ。ちゃんと観光客が増えるように対策はしたから。ほら、あそこに見えるでしょ」
姉ちゃんは部屋の一角を指した。そこには『どこだってドア』が置いて有るだけだ。
この部屋には『どこだってドア』が三つある。
一つ目は、僕たちが来たドアで、体育館に繋がっている。
二つ目は『2番』と番号が振られているので、つぎの観賞用の部屋に進むのだろう。
三つ目は、ちょっと小型のドアで、準備中の張り紙が貼ってあった。これは、どこに繋がるのか想像が出来ない。姉ちゃんは、この三つ目のドアを指さしている。
「姉ちゃん、このドアはどこへ繋げるの?」
「それは、この海底遺跡がある地元の観光協会へ繋がるわ。ここで見て実際に潜りたくなっちゃったら、気軽に行けるようにしたの」
この部屋から外を見ると、ダイバー達は遺跡の様々な場所を自由に散策している。
確かにこの光景を見ていると、実際に潜りたくなるかもしれない。
この
「ほらほら、そんなに時間を掛けていると、1時間後に始まるアシカショーに間に合わないわよ。次に行きましょう」
僕らは背中を押されて次の観賞用の部屋へと移動をする。
次の部屋に入ると、こんどは半球状の部屋だった。
スノードームのような部屋の外には、この空間を覆い尽くすように、無数のクラゲが漂っている。
「わぁ、すごい」「アメージングだな!」
歓声が上がると、またも姉ちゃんが得意気に解説をする。
「この場所は、通称『ジェリーフィッシュ・レイク』といってクラゲがたくさんいる湖ね。見ての通りクラゲだらけよ」
壁の外を見ながら、ミサキが質問する。
「このクラゲかわいいですね、どんな種類なんですか?」
「ええと、何て言ったかしら。館長わかります?」
隣にいる水族館の館長に話しを振る。
「特徴から見て『タコクラゲ』ですね。八本の足みたいな物がみえるでしょう。だから『タコクラゲ』です」
館長が説明が終わると、なぜか姉ちゃんがドヤ顔をしながらこう言った。
「ですって。さあ時間がないから次へいきましょう」
またも姉ちゃんに急かされて、移動をする。
この後も部屋も凄かった。
沈没船の直ぐそばの豊な
いずれもじっくり見ていたかったが、姉ちゃんに急かされ足早に通り過ぎる。
ちなみに魚の説明は、全て館長に話しを振っていた。
そして最後の『10番』の部屋の前に来た。
「最後は凄いよ。ちょっとお金を掛けているからね」
どうやらこれまで以上の風景が見られるらしい。僕らは高鳴る期待を胸に、扉をくぐり抜ける。
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