終業式とスポーツ施設 3

 僕たちはビリヤードで遊ぶことにした。

 僕とヤン太とキングのビリヤードの経験は3~4回くらい、ミサキとジミ子は未経験だ。


 ビリヤードのルールは幾つもあるが、ナインボールで良いだろう。一番簡単だし、僕は他のルールを知らない。



 まずは未経験の二人に、基本的なやり方を教える。


「この長い棒が、キューといってビリヤードの球を突く道具だよ。そして、このキューで直接突いて良いのは白い球だけなんだ」


「他の番号の付いている球は付いちゃいけないのね?」


 僕が説明すると、ジミ子が質問をしてきたので答える。


「そう。白い球を突いて、数字の付いた球に当てて、ボールを穴へと落としていくんだ」


「球を当てて落とすのは知ってるわ。テレビやマンガとかで見たことがあるから」


「細かいルールは後で説明するから、試しにまずは球を突いてみて」


 ジミ子はキューを持ち、台の横に立つ。一応、形はあっているが、ぎこちない。肩に相当力が入り、両足は思い切り踏ん張っていた。



 それを見てキングがレクチャーをする。


「もっと力を抜いて、普通に立っているだけでいいぜ。こんな感じに」


「こ、こうかしら?」


 キングを真似してジミ子が素振りをする。何度かやっているうちに、だいぶ動きが滑らかになってきた。

 僕がジミ子の前に白い球を置いて言う。


「じゃあ、球を突いてみよう。ボールの真ん中を狙って突いてみて」


「分かったわ」


「壁に当っても跳ね返るから、それも確認してみて」


「テレビで見た通りね、ちょっと色々と試してみるわ」


 何度か練習をするジミ子。一方、同じ未経験のミサキは特に何もしない。


「ミサキは練習しなくて大丈夫?」


 僕がそう言うと、ミサキはちょっと含み笑いを浮かべながら答えた。


「しょうがないわね。じゃあ、ちょっとだけ練習を見せてあげましょう」


 そういって、キューをバトンのようにクルクルと回したり、ひねったり、高くかかげたりしだした。


「うん。だいたい良さそうね。バッチリよ」


 ……何がバッチリなのだろうか? ミサキの練習は訳が分からない。



「とりあえずゲームをしてみようぜ」


 ジミ子の練習が終わると、ヤン太はそういってボールを並べ始めた。

 スマフォでボールの並べ方を確認しながら、1~9番のボールを並べる。


 ミサキとジミ子の為に、僕がおおざっぱにルールを教える。


「さっきも言った通り、キューで突けるのは白い球だけね。

 それで、この9番のボールを、穴の中に落とした人の勝ち。

 ただし、白い球は、最初に一番数字の低い球に当てなきゃならない。今は1番~9番のボールがあるから1番だね」


 キングがさらにルールを補足する。


「ボールを穴に落とす事が出来たら、何度でもショットを続けられるぜ。ちなみに数値の低い球に当てられなきゃファールだ、白い球がポケットに落ちてもファールだ。ファールの場合は次の人が自由に突ける」


「あのマンガ、そういうルールで戦ってたのね……」


 ミサキが小声で独り言をつぶやいた。とりあえずミサキがまるでルールを把握していない事は分かった。



 説明ばかりしていては面白くない。

 細かいルールは後から説明するようにして、とりあえずゲームを初めてみる。


「まずはジミ子からどうぞ」


「それじゃいくわよ。ここら辺から突けばいいのかしら? よっと!」


 ジミ子が突くと、白い球は1番の球に当り、ボールは四方に散らばる。しかし勢いが弱い。

 微妙にかたまりが崩れただけで、次の人の番となった。


 続いてヤン太、キング、僕の順でボールを突いていく。

 僕たちは、簡単な位置にある分には入れられるが、ちょっと難しくなると、全く入らない。


 ボールを1番、2番と、2個ほど穴にいれてミサキの番となった。


「いよいよ私の番ね、9番の球を穴に入れればいいのよね、見てなさい。一撃で残った3番から4番、5番と、次々に連続で当てていって9番を穴に入れてあげるわ」


 ミサキはいまいちルールを把握していないようだ。僕が説明する。


「違うよ、3番のボールに当てさえすれば良いんだ。3番を当ててから9番を穴にいれたらミサキの勝ちだよ」


「あら、そんな簡単で良いの? 楽勝じゃない。とりゃ!」


 カスゥッ。


 力んだミサキのキューは、白い球をちょっとだけかすっただけで終わる。


「……もう一度、突いていいよ」


 僕がもう一度突くようにうながす。

 本来ならファールだが、初めてなので見逃す事にしよう。

 ジミ子のように練習をすれば、ちゃんと突けたはずなのだが……


「じゃあ、もう一度、とりゃ!」


 こんどは上手く突けた。白い球は力強く7番のボールに辺り、いくつかの球が穴に落ちる。


「やった! ボールが落ちたわ!」


「盤面上に残る一番小さな数字。この場合3番の球に当らなかったのでファールね」


 落ちたボールをテーブルに戻しつつ、喜ぶミサキに僕がファールを告げる。


「えっダメなの?」


「ダメです。ルールをちゃんと把握してよ」


「ちぇっ、オマケしてくれても良いじゃない」


 初めてなので少しくらいはオマケしてもいいが、これはさすがにダメだろう。

 ゲームそのものが破綻してしまう。



 その後も順調にゲームが進んでいく。

 ジミ子の番になったが、テーブルの上のボールは、あまり良い状況に無い。

 白い球で6番のボールを当てなければならないが、手前に8番のボールがあり、直接狙えない位置にある。


「どうすればいいの……」


 呆然ぼうぜんとするジミ子に、ヤン太がアドバイスをする。


「こういった場合は、ここら辺の壁にバウンドさせて当てるしかないな。上手い人はカーブとか回転を掛けてどうにか出来るんだが、初心者には無理だ」


「分かったわ、ええと、入射角と反射角は同じだから、ここら辺ね、やっ!」


 ジミ子の狙い通り、壁に当ってから目的のボールに当る。


「やった上手く当ったわ!」


 軽く飛び跳ねながら喜ぶジミ子。

 上手い人は、これでもボールを穴に入れられるのだが、僕たちは当てるのがせいぜいだ。

 狙い通りの球に当っただけで、上出来だろう。



 その後、何回か順番が巡った後、ミサキも同じような状況になった。

 手前に9番があり、奥には当てなければならない7番がある。


 難しい状況なのだが、ミサキは笑みを浮かべながら得意気に言う。


「私は曲げて当てるわよ。スーパーショットをみてなさい」


 そういって、キューを手元でグルグルと回し始めた。


「ダブル・スネーク・ヘッド・ショット!」


 必殺技の技名のような掛け声と共に、ミサキのショットが放たれた。


 キューをグルグル回したおかげで狙いは定まらず、球はあらぬ方向へと進んでいく。白い球は他のボールに当ることは無く、何度か壁をバウンドして、やがて止まった。、何度か壁をバウンドして、やがて止まった。


「あれ? おかしいわね?」


「おかしいのは、そのショットだ!」


 ヤン太が我慢できずに突っ込んだ。


「いや、マンガだと、こう、ググッと曲がって、スコーンとボールが落ちるのよ。

 名前を間違えたかしら?『スネーク・ヘット・ダブル・ショット』だったかしら?」


 頭をひねるミサキを放っておいて、僕らはゲームを続ける。

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