ちょっとだけ帰ってきたレオ吉くん 1

 宇宙人が侵略を行なったあの日以来、お昼休みはテレビが付けっぱなしになっている。もちろん改善政策がある日は番組を見る必要があるが、それ以外の時は、気が向いたら人がなんとなく見る、そんな流れになっていた。



 そんなある日、お昼を食べていると、顔見知りの人物がテレビのニュースに出てきた。その人物は動物の王国の国王、レオきちくんだ。

 レオ吉くんは、このクラスに留学していた。クラスの人気者だった人物がテレビに出てきたので、みんなが騒ぎ出した。


「レオ吉くんだ」「元気でやっているみたいね」「どんなニュースなのか見てみようぜ」


 クラスメイト達はテレビに注目する。



 ニュースの内容はこんな感じだった。


 動物の王国で選挙が行なわれ、国会議員が決まり、初めての国会が開かれるらしい。

 国会が開くときは天皇陛下からご挨拶を頂くように、動物の王国では、国王であるレオ吉くんが挨拶をするようだ。


 レオ吉くんの挨拶のシーンがニュースで流れてくる。

 するとジミ子がボソッとつぶやく。


「スピーチ大丈夫かしら……」


 確かに、レオ吉くんは僕がいないと、人前でまともにしゃべれなかった。

 大丈夫だろうか? あのクセが直って入れはいいのだけれど……


 心配している僕らの前で、テレビの中のレオ吉くんはしゃべりだした。


『このたび、無事に選挙を終え、第1回目の国会を開く事ができました。これから動物の王国の住人が平和で過ごしやすい国を作る為、幅広く意見を聞き、議論を交わさなければなりません。より良い国を作る為、みんなで頑張って行きましょう』


 演説が終わると、拍手が起こる。

 レオ吉くんは立派にスピーチが出来るようになったようだ。

 僕たちは安心してニュースの続きを見る。



 続いてカメラは国会議員を映していくのだが、日本の国会に比べて変化に富んでいた。

 動物そのままの姿を留めた犬や猫。かなり大きめに作られた議席と馬や牛の議員。

 その中には、ほとんど人の姿と変わりの無い、元動物の人達も多い。


 アナウンサーは原稿を読み上げる。

『動物の王国の有権者数はおよそ47万人です。今回選ばれた議員数は70名。投票率はなんと72パーセントでした。国民の関心が極めて高いようです。これからどのような独自の政策を打ち出すか、注視して行きたいと思います』


 ニュースは動物の王国の選挙事情を一通り伝えると、別のニュースに移った。


「レオ吉くん、元気そうだったね」


 ミサキが笑顔で言う。


「そうだね。ちゃんとしゃべれるようにもなってたし、上手くやっているみたいだね」


 僕が返事をすると、ヤン太がニュースの内容に触れる。


「動物の王国の議会では、何を話し合うのかな?」


 すると、キングがこんなことを言った。


「元はイギリスと同じ法律のハズだったから、そんなに変えるとこないんじゃないか?」


「そうね。何も変えなくても問題は起こりそうにないわね」


 ジミ子が少し考えてから返事をする。たしかに、あまり手を加える必要はないのかもしれない。



 この日、僕らはいつも通りにハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに寄り道をする。レオ吉くんや、動物の王国の話しをしながら、時間を過ごす。


 充分に話した後、僕らは解散した。



 ミサキと別れ、家の玄関を抜けると、台所の方がどうも騒がしい。お客さんがきているようだ。


「ただいま~、誰かお客さんが来てるの?」


 僕は母さんに呼びかけたつもりだったが、そのお客さんの方が真っ先に駆け寄ってきた。


「ツカサくん、ひさしぶりです~」


 そういって顔を見せたのは、レオ吉くんだった。

 両手を広げて近寄ってきたので、僕もそれに応えるように受け止める。

 お互いが深くハグをする。


「本物のツカサくんだ、ツカサしゅうがする」


 抱き合ったまま、僕の臭いをぐレオ吉くん。


「ちょっと、変な臭いだから嗅がないで」


 僕はレオ吉くんを注意するが、全く言う事を聞いてくれない。


「良い匂いですよ。いつまでも嗅いでいたいです」


 レオ吉くんからは、強めのアルコールの臭いがただよってきた。

 どうやらかなり酔っているらしい。



 レオ吉くんから少し遅れて、姉ちゃんが玄関にやってきた。


「ほらほら、弟ちゃんが嫌がってるよ。あまりしつこいと嫌われちゃうよ」


「嫌われては困ります!」


 慌てて離れるレオ吉くん。

 これでようやく落ち着いて話せる状態となった。


「今日はどうしたの? 仕事の方は大丈夫?」


 質問を浴びせる僕を、姉ちゃんがたしなめる。


「ほら、玄関で立ち話もなんだし、積もる話は食事でもしながらしましょうよ」


「そうだね。あっ、その前にちょっとシャワー浴びてくるね」


 僕がそう言うと、レオ吉くんが止めに入る。


「そのままでも良い匂いですよ。シャワー浴びなくてもいいですよ」


 ……完全に酔っているのだろう。

 姉ちゃんが、レオ吉くんの肩を押さえ込みながら言った。


「シャワー浴びてきちゃいなさい」


「うん、わかったよ」


 そう言って洗面所に入る。

 

 後ろからはレオ吉くんの


「そんなぁ~」


 といったなげく声が聞こえてきたが、僕は聞こえない振りをした。

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