テスト前の混沌 2

 テレビが同じ情報を流し始めてしばらくすると、担任の墨田すみだ先生が戻ってきた。

 そして大きな声で伝える。


「いいかお前ら、今日から4日間は特別授業になった。詳しい話しは後でするが、テスト対策の授業だと思ってくれ」


 ヤン太が手を挙げて質問をする。


「授業はどんな感じになるんですか?」


「基本的に授業は、テストに出てくる『国語』『数学』『社会』の三教科のみだ。内容は、ほぼ中学生までの復習と思ってくれて良い」



「中学までの内容だったら余裕よね」


 僕らの中で最も成績が悪く、頭の改造に近そうなミサキが余裕の表情で言った。

 ……本当に大丈夫だろうか?


「余裕なら良いけどな。これから小学生の漢字の小テストをするぞ」


 そういって墨田先生は大量のプリントを配り始める。


 プリントを配り終わると、小テストが始まった。



 小テストは、小学生一年生から始められる。

 さすがにここら辺の漢字は余裕だ。あっという間に時間は過ぎ、小テストが終わる。


 いつもならここでプリントを回収して、先生が採点をするのだが、今回は違った。


「今回は先生ひとりで全員分を採点しようとすると時間が足りない。

 そこで、採点は自分でしてもらう。正解を黒板に書くから、各自、自分でチェックをしてくれ」


 そう言って黒板に答えを書き始める。

 確かにその通りだ、先生がいちいち採点をしていたら、そこで授業が止まってしまうだろう。時間がもったいない。



 こうして、小テストをガンガン回していく。

 学年を徐々に上げ、テストの難易度が増していく。

 ただ、難しいといっても所詮は小学生だ。ほとんどの問題は即答出来る難易度だった。


 そして小学生4年あたりまでの小テストが終わると、時間切れとなった。


「各自、出来なかったところは復習をしておいてくれ。あと、漢字以外で分からない事があったら質問をまとめておいてくれれば答えられる。ホームルームは省略だ、じゃあ勉強を頑張れよ!」


 そういって墨田先生は教室を出て行った。

 とても忙しそうだ、この後も色々とあるのだろう。



 放課後になった僕らは、先ほど受けた小テストを見ながら会話をする。


「まあ、これなら何とかなりそうだよな」


 ヤン太がそう言うと、ミサキが答える。


「そ、そうよね。なんとかなるかもね」


 そんな返事をしながら、先ほど受けた小テストのプリントを後ろに隠した。


「ちょっと見せてよ」


 ジミ子が隠そうとしていた小テストを取り上げ、机の上に広げる。

 するとそこには10点満点中、5点とか6点といった微妙な点数があった。

 しかも採点は極めて甘く、ゴニョゴニョと不鮮明ふせんめいな線を引いている漢字も、正解にしていた。


 僕の感想が思わず口からこぼれる。


「これは酷いかも……」


「いや、アレよ、これからちゃんと復習するから平気よ」


 ミサキはつくろうが、本当に大丈夫だろうか?

 このテストの結果を見て、不安になったのは僕だけではないらしい。


「近くの公民館で勉強会がやってるぜ、行ってみるか?」


 キングがスマフォで調べてくれた。

 僕らは放課後、そこへ向う事にする。



 目的地に到着すると、いつもはほとんど人が居ない公民館に、ある程度の人が来ていた。集まって来ている人は、中年からお年寄りに掛けてがほとんどのようだ。


 入り口の場所では、印刷されたプリントが置いてあり、自由に持っていって良いようになっている。

 いくつかジャンル毎に区分けされているが、僕らはその中で、漢字の書き取りのプリントを取っていく。


 プリントには小学生で使う漢字一覧が載っている。

 僕らは図書室の空いている机に移動すると、このプリントに従ってノートに書き写し始める。

 漢字は書いて覚えるしかない。僕らは黙々と繰り返し書いていると、早くもミサキが飽き出した。


「ねえ、もう大丈夫じゃない? 一通り書いたし」


 小学校で習う漢字は、およそ1000文字。10回繰り返しで書いたとしたら1万文字である。

 書き始めてからまだ15分ほど、普通に考えると終わる訳はない。


「ちょっとみせてよ」


 僕がそういうと、渋々ノートを見せてくれる。

 そこには、おそらく難しいと感じた漢字が、一回だけ書き写されていた。全部で500文字も無いだろう。


「これじゃあ覚えられないんじゃないの?」


 ジミ子が指摘すると、ミサキは反論をする。


「だ、大丈夫だって。小学生の問題なんだから」


「じゃあ、俺ちょっと小テストの問題をもってくるよ」


 キングが小テストのプリントを持って来てくれた。

 これをミサキにやらせてみる。



 そして5分ほど経っただろうか。


「全問正解のはずよ、ちょっと見て」


 ミサキが自信満々にテストの解答を出してきた。


「どれどれ、ちょっと採点してみるか」


 ヤン太が解答用紙を広げると、いくつか間違いがあった。


『鏡に【うつ】る』には『写』の文字がある。これは正しくは『映』の方だ。


 他にも『【いぎ】を唱える』には『意義』と書いてあった。これも間違いで『異議』のはずだ。


 ミサキにその事を指摘すると、こんな言い訳が返ってくる。


「『意義を唱える』でも間違っていないんじゃない。辞書を見てみると『意義』には『重要性』って意味もあるし。『重要性を唱える』は間違いじゃないでしょ」


 と、屁理屈へりくつをこねてきた。

 確かに『重要性を唱える』と自信満々じしんまんまんに言い切られてしまうと、間違いでは無い気がするが……



 この後、何度か小テストを繰り返して、僕らは帰宅する。

 問題に『【いぎ】を唱える』が出ない事を願おう。ミサキの言い訳の才能は凄いが、宇宙人に通用するとは思えない。

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