第17回目の改善政策 2

 僕は訳あって明石市立天文科学館の展望台に居る。

 第17回目の改善政策の放送に付き合う為だ。


 現場のスタッフは10人ほど、5分ほど前には忙しく動き回って居たが、今は息を殺して静かに放送を見守っている。


 やがてオンエアーのキューが出されて、放送が始まった。

 福竹アナウンサーと宇宙人のいつもの挨拶から始まる。


「こんにちは、今日は第17回目の改善政策の発表です」


「ヨロシクネー」


「さて、今週はどのような発表があるのでしょうか?」


「先週の動物ノ王国の国王のレオ吉くんって覚えているカナ?」


「ええ覚えていますよ、素敵な方でしたね」


「そのレオ吉くんが会社を設立する予定ダヨ」


「なんと、どのような会社なのですか?」


「ソレハ、本人から説明するヨ」



 姉ちゃんに背中を押されるように、レオ吉くんがカメラの前へと進み出た。

 そして僕の方を見つめてから、原稿を読み始める。


「この度、私ことレオ吉は、動物ノ王国の人材派遣会社を設立する事になりました。

 ロボットの派遣のように、動物ノ王国の住人を、要望に応じて派遣します。

 動物ノ王国の住人は、私のような人間にちかいタイプと、見た目はほとんど動物ですが、知能は人間並のタイプがおり、要請のある場所にご要望に合わせて派遣をする予定です。

 派遣の他にも、いくつかの実験的な経営をします。

 皆様の人間の社会と有効的な関係が築けたら良いと考えております」


 原稿を一通り読み終わると、深くお辞儀をする。

 そしてお辞儀を終え、頭を上げると、今度は姉ちゃんがカメラの前に立つ。


「どうも、笹吹ささぶきあやかと申します。現在、ロボットの派遣会社のCEOをやらせて貰っています。 このたび新たな派遣会社のグループ企業を作り、私のロボット派遣会社や、レオ吉国王の動物ノ王国の派遣会社は、そのグループに属する予定です。

 今のところ、グループ会社の資本比率は、私が代表を務めているロボット派遣会社の資本が97パーセントなので、私がそのままグループ会社の会長を務めさせて頂きます。

 今後ともよろしくお願いします」


 深々とお辞儀をする姉ちゃん。

 姉ちゃんがグループ会社の会長なるのか……

 レオ吉くんの会社の行き先が不安になってきた。



 一通り説明が終わると、福竹アナウンサーが質問を投げかけてくる。


「動物ノ王国の企業の規模はどのくらいでしょうか?」


 その質問に姉ちゃんが答える。


「まだ、派遣社員を募集している段階でなんとも言えませんが、およそ4000人規模の会社になる予定ですね」


「結構、大きな会社ですね」


「ええ、国営企業のようなものですから」


 そんな会話が交わされている中、後ろでレオ吉くんが大きな目を見開いて驚いている。おそらく想像以上に大きな会社だったのだろう。いきなり大きな会社を任されて明らかに動揺していた。



 続いて福竹アナウンサーから、こんな質問が出てきた。


「実験的な経営とありますが、どのような業種に関わっていくのでしょうか?」


 その質問にも姉ちゃんが答える。先ほどのレオ吉くんの様子をみると、おそらく挨拶以外の話しは聞かされていなそうだ。


「経済的には、ごく小規模の業種ですね。いま準備をしているのは動物に関しての事業、ペットショップのグッズなどを取り扱う予定です。

 主力商品になりそうなものはワンちゃん用の靴ですかね。アスファルトは夏は熱く、冬は凍てつくので、散歩の時には着けてあげた方が良いです。現在、市販されているものは履き心地が悪いらしいので、住民からリサーチを取りながら、現在開発中です」


 なるほど、今までは犬用の靴は人間が勝手に作ったものだが、本人が履きやすいようなものを作るのが一番だろう。


 レオ吉くんも感心して聞いていた。うん、やはり間違いなく話しを知らされていない。



「人材派遣などの問い合わせ先はどこにすれば良いですかね?」


「ロボットの派遣業務の窓口と同じ連絡先で構いません。どのような人材が居るのか、など、資料請求も気軽にして頂いて下さい。連絡をお待ちしています」


 そういって姉ちゃんはテロップを掲げてお辞儀をする。そして、ちょっと遅れてレオ吉くんもお辞儀をする。



 一通り説明が終わると、姉ちゃんとレオ吉くんがカメラの前から退場した。


 そしていつも通りのアンケートが始まる。


「さて、アンケートの時間が参りました。皆様、ご協力をお願いします」



 僕はレオ吉くんを応援する意味も含めて「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票した。


 やがて結果が表示される。



『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 97%


   悪かった 3%



 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 74%


   支持できない 26%』



 どうやらほとんどの人が賛成のようだ。

 たくさんの支持を受け、レオ吉くんは控えめにガッツポーズを取っていた。



 こうして僕らはテレビ出演を終え、教室へと戻ってきた。

 すると拍手喝采が起こる。なぜだろうか?


 疑問に思っていると、ミサキがその理由を教えてくれた。


「凄いじゃない、レオ吉くん。ちゃんとスピーチが出来たよ」


「そうですね。偶然ですが上手くいったみたいです」


 照れ笑いを浮かべるレオ吉くん。


 言われてみれば、レオ吉くんは見事にスピーチをこなしていた。

 先週は酷いものだったが、これならどこへ行っても大丈夫だろう。



 この日はレオ吉くんが来てから6日目。

 レオ吉くんの滞在期間は1週間の予定だ。

 別れの時が近づいていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る