別れと……
早いものでレオ吉くんが来てから一週間が経った。
今日はレオ吉くんと居られる最終日。
いつもと変わらないような会話をしているが、どことなく意識してしまう。
時折、沈黙の時間が流れる。
授業は淡々と進み、お昼休みの楽しい時間が過ぎ、最後の授業の時間に入ってしまった。
最後の授業は、担任の
この日の授業は、特別にお別れ会を開く事となった。
一応、国語の授業なので、授業の一環としてレオ吉くんが講演をする事になる。
僕は相変わらずレオ吉くんの真正面に座らされ、スピーチが始まる。
「皆さん、この一週間、ありがとうございます。ボクはこの一週間で様々な事を学びました。なかでも朗読の仕方、そして現代社会の授業は、これからのボクの業務に役立ちそうです。
そして学んだ事は勉強だけではありません、人と人の関わりが分かりました。友人も出来た気がします。
本当はまだまだ、このクラスで勉強をしたいですが、今日、ここでお別れです。
また会うことがあったらよろしくお願いします」
そう言って薄らと涙を浮かべる。
レオ吉くんは、この一週間で本当によく成長した。
一週間前は、怖がって外をまともに歩けなかったし、朗読は出来なかったし、空気も全く読めなかったが、今では人並みにこなせるようになった気がする。
レオ吉くんの挨拶が終わると、こんどはクラスメイトの一人一人と両手で握手をしていく。
みんなは、「頑張れよ」「元気でね」「無理するなよ」などと声を掛けるが、僕はどんな言葉を掛けて良いものか分からない。
何も思い浮かばないまま、時間だけが過ぎていき、やがて僕の番になった。
ジッとレオ吉くんを見つめ、僕はなんとか言葉を押し出す。
「……また会おうね」
「……そうですね、また会いましょう」
レオ吉くんがハグをする体勢を取ったので、僕は懐に入り込む。
ゆっくりと、長いハグをする。レオ吉くんは少し震えていた。
クラスメイトとの挨拶が終わると、僕らはしばらくパーティーゲームをする。
先生が出題するクイズに答えたり、王様の決まっている王様ゲームを楽しんだ。
そしていよいよ終わりの時間が近づいた。
すると、こらえきれなくなったのか、ミサキが泣き出した。
「レオ吉くんと別れたくない、どうにかならないの?」
その問題に答えられる人はいない、クラスに沈黙が漂う。
しばらくすると、ジミ子がつぶやく様に言った。
「お姉さんなら、お姉さんなら何とかできるかも?」
言われてみれば、確かにこの教室にレオ吉くんを送り込んできたのは姉ちゃんだ。
もしかしたら姉ちゃんなら何とかなるかも知れない。
「あまり期待しないでね、とりあえずメッセージを送ってみるよ」
僕はLnieでメッセージを送った。
しばらく待つと、返事が返ってくる。
『会社の立ち上げで忙しくて、しばらく無理だけど、業務が落ち着いてきて暇な時には学校に通っても良いんじゃないかな?』
なんともあっさりと了承の返事が返ってきた。
それをレオ吉くんに伝えると、これまでの緊張が解けたようだ。力なく笑った。
「いや、ほんと。別れなくて良かったです。みなさんと一緒にまだまだ勉強したいです」
そう言ってまた涙目になる。
「また一緒にメェクドナルドゥに行こうぜ」
キングが拳を突き出すと、それに合わせるようにレオ吉くんも拳を合わせる。
「ええ、もちろん。それと、ゲームが下手なので教えて下さい」
ニヤリと笑うレオ吉くん。
ヤン太が後ろからレオ吉くんに飛びついた。
「心配かけやがって」
そのままレオ吉くんの頭をぐしゃぐしゃになで回す。
「えへへ」
ちょっと照れ笑いを浮かべるレオ吉くん。
気づけばヤン太も少し涙目だ。やはり別れは辛かったんだろう。
「レオぎちくうぅん~」
ミサキが鼻水を垂らしながらレオ吉くんの胸元へと飛び込む。
かなり汚いが、レオ吉くんは嫌がることなく、それを受け入れた。
ミサキはしばらく泣きじゃくっていたが、しばらくして落ち着いたのか顔を上げてこう言った。
「よかったね!」
「はい、よかったです!」
レオ吉くんもとびきりの笑顔で返す。
ミサキとレオ吉くんがじゃれ合っていると、ジミ子が口を挟んだ。
「ちょっと私は心配な事があるんだけど、良いかしら?」
「はい、なんでしょう?」
キョトンとするレオ吉くん、そこにジミ子はこんなリクエストをする。
「ちょっとだけ今の気持ちをスピーチしてもらえる」
「いいですよ、今の気持ちはですね……」
「スピーチはちょっと待って。ツカサ、悪いけど廊下に出ていてくれる?」
「なんで? まあ良いけど」
そう言って僕は廊下に出た。そして教室の中からレオ吉くんの声が聞こえてきた。
「ぼ、ぼ、ボク、ボクは、大変、すごく、うれしっいです」
……この学校に来た当時と、同じようなスピーチが聞こえてくる。
もう、僕がいなくても何とかなると思っていたのだが……
レオ吉くんがこの学校で学ぶ事は、まだまだ多そうだ。
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