教育実習生の留学生 7

 午後の授業とホームルームが終わり、放課後へと突入する。


 今日はレオ吉くんも一緒だ、僕らは放課後どこへ行こうかと話し合いを始めた。


「やっぱり、食べ物を喰える場所の方が良いよな」


 ヤン太が提案すると、一同はうなずく。


「そうね、この間の和菓子店さんが良いんじゃないかな、上品だったし」


 ジミ子が僕らの行った事のある中で、最高級の店を挙げた。

 たしかにあの店は美味しかった。ただ、量が少ないのでレオ吉くんが食べるとなると数が居る。もらったおこづかいで間に合うだろうか。


「3つほど離れた駅に、皇室御用達こうしつごようたしのお店があるらしいぜ、そこでも良いんじゃないかな?」


 キングがスマフォをかざしながら言う。

 たしかに皇室が使っていれば間違いはないだろう。


「この間のケーキバイキングの場所はどうかしら?」


 ミサキは、ケーキの食べ放題の店を押してきた。品質は少し劣るかもしれないが、少ない量で色々な種類を食べられるのは楽しいかもしれない。



 色々な候補が挙がる中、僕は本人の意見を聞いてみる。


「レオ吉くんはどういった店に行きたいですか?」


 するとこんな答えが返ってきた。


「みなさんが日常的に使っているお店が良いですね。普段、どのようなお店に通っているか興味があります」


 そう言われて思い当たる店が一つだけある。

 それはハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥだ。


 ただ、あの店は連れて行っていいものか悩む。

 なにせカテゴリー的にはファーストフード、別名ジャンクフードと言われるたぐいの店だ。値段は安いが、品質はお世辞にも良いとは言えない。


「安くてあまり美味しくない店なのですが、それでも良いですか?」


 僕がちょっと含みを持たせて言う。するとレオ吉くんはこう言った。


「頻繁に行くお店なので、そこまでは酷くないんでしょう? ボクも皆さんと同じ物が食べたいです」


「そこまで言われたら、行くしかないか」


 ヤン太を先頭に、僕らはいつもの店へと移動を開始した。



 メェクドナルドゥに着くと、僕らはお決まりのメニューを注文する。

 レオ吉くんにはお金を渡して、自分で注文をして貰う。

 ちなみに、こういったセルフサービスの店で注文するのは初めてらしい。


「ええと、期間限定のこのハンバーガーのセット、ポテトLで、このシェイクでお願いします」


 レオ吉くんが注文をすると、カウンターの人が固まった。ちょっと間を置いて動き出す。


「て、て、店長、今すぐ来て下さい」


 すると奥から年配の人が出てきた。


「どうしたんですか? なにかありました?」


「こ、国王様です、国王様がご来店です」


 慌てながら状況を説明するカウンターの人。


「何を言っているのですか…… 本当だ、これはこれは国王陛下、こんな店に何のご用でしょうか?」


「あっ、期間限定のこのハンバーガーのセットを食べに来ただけです」


「本当にうちの店でよろしいのでしょうか、うちのハンバーガーは不味まずいですよ?」


 店長が自分のところのハンバーガーを不味いと言い切った。

 たしかに美味しいとは言い難いが、大丈夫だろうかこの店は。


「ええ大丈夫です。ハンバーガーのセットを下さい」


「かしこまりました。ではお待ちください」


 僕らの注文を差し置いて、優先してレオ吉くんのセットが作られた。



 しばらくして、全員の注文がそろうと僕らは席に着く。

 そしていよいよ食べ始めようとしたときだ、深刻な問題が起こった。


「レオ吉くんの注文したの、もしかしたら期間限定のオニオンフライを挟んだハンバーガーですか?」


 ジミ子がレオ吉くんのメニューを確認する。


「ええそうです。美味しそうに見えたので、コレにしました」


「もしかしたら、それは食べられないかもしれません、猫科と犬科は玉ねぎが毒だったはず……」


 ジミ子が申し訳なさそうに言う。するとレオ吉くんが残念そうに答えた。


「しょうがないですね、じゃあこのチョコレートシェイクを飲んでみましょう」


「ちょっと待った、チョコレートも猫には毒じゃなかったか?」


 ヤン太が声をあげる。キングがスマフォで情報を調べると、その通りだった。

 そして更にキングが悪い知らせを言う。


「ナス科もさけた方が良いらしい。ナス科でここにあるのはポテトとケチャップかな……」


 なんと、レオ吉くんの持って来たものは全て食べられないものだった。


「そんなぁ」


 ちょっと涙目のレオ吉くん。かわいそうだが仕方がない。

 するとミサキがこんな事を言った。


「お姉さんにレオ吉くんが食べられるかどうか聞いて見てあげてよ」


「分かった、直ぐに聞いて見るね」


 ボクは姉ちゃんにLnieでメッセージを投げると、直ぐに返事が返ってくる。


『レオ吉くんはもうほとんど人間だから、人間の食べられるものなら何でも食べられるよ』


 との事だった。大丈夫なので、僕がその事をレオ吉くんに伝えると。


「やった、では、いただきます」


 そう言ってすぐにハンバーガーにかぶりついた。


「十分美味しいですよ。価格を考えると頻繁に利用するのも分かります」


 喋りながら豪快に食べるレオ吉くん。相変わらず食べている時は幸せそうだ。

 そしてその様子を柱の影から覗いて、ほっと安心するメェクドナルドゥの店長。

 たしかに店長としては気が気でないだろう


 この日、レオ吉くんはさらに違う種類のハンバーガーを二つ食べ、僕らと一通り雑談をして帰路につく。

 僕らの距離はだいぶ縮まった、親しい友人と言っても差し支えがないだろう。


 雑談の内容は、ほとんど食べ物の話題だった気がするけど……



 ちなみに、家に帰ると、この日も豪華な晩ご飯が待ち構えていた。

 レオ吉くんはこれらも難なく平らげる。酷使されるレオ吉くんの胃袋が、ちょっとだけ心配になった。

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