第11回目の改善政策
『第11回目の改善政策の発表』とタイトルが表示され、お昼休みにいつもの番組が始まる。
「本日も明石市立天文科学館お送りします。第11回目の改善政策の発表です」
「ヨロシクネ」
福竹アナウンサーと宇宙人が登場して挨拶をした。
「さて、今週はどのような政策ですか?」
「チョット待って、先週のダイエット薬でクレームが出てきてネ」
「どのようなクレームです?」
「『胸が痩せた』トカ『お尻が減った』というクレームが来てネ、そこで胸とお尻を太らす薬を発売するヨ」
……これはおそらく僕らが体験した、胸を大きくする薬だろう。
福竹アナウンサーがさらに話を聞く。
「そうですか、どのくらいのサイズが上がるのでしょうか?」
「人によって様々ネ、1~2サイズか上回るっぽいネ。しかし『痩せたい』とか『太りたい』とか、この惑星の文化は良く分からないネ」
ちょっと切れ気味の宇宙人を福竹アナウンサーはなだめる。
「まあまあ、人によって理想は様々なので。ところでお値段はいくらでしょうか?」
「痩せ薬の部分用と同じ値段。7200円で売ろうと思うヨ」
「まあ分かりませんが、そのくらいが相場なんじゃないでしょうか?」
意外にも福竹アナウンサーが値切らずに、話を流した。
前回、痩せ薬の値切った価格が満足できるものだったのか、それとも全く関心がないのか。
いずれにしても、不安な番組のスタートとなった。
「サテ、前の話だけど第8回目の改善政策で、ワレワレは警察に協力して捜査する事になったネ」
「ええ、そうですね。あの取り締まりは厳しすぎるという話がありますが……」
「ソウネ、加害者だけでなく警察からも文句が出てきたから変えるネ」
「警察からもですか?」
「小さな犯罪まで処理しようとすると、手が足りないっていう話ネ。
人手が足りないなら『ロボットを派遣する用意があるヨ』って提案したけど断られたネ」
「ええ、まあそうですね。警察にも色々とメンツがあるでしょう」
「ソレニ、政府が『被害届が出てない軽犯罪は摘発しない』という法案を通してきたヨ」
「まあ、分かります。本当にどうでも良い規制が多いですからね」
「ドウデモ良ければ規制しなければイイのにネ」
「まあ、そうなんですが…… 言われてみればそうですね、なんで規制したんでしょうね?」
「マア、軽犯罪については被害届と警察から捜査の要請が無い限りは見逃す方針になったヨ」
「わかりました。ちなみに今までの軽犯罪はどうなります?」
「政府から今までのも見逃して欲しいと言われてネ、軽犯罪のデーターはいったんリセットするヨ」
「了解です。よくわかりました」
言われてみれば確かにそうだ。例えば自動車なら、多少速度オーバーしても、一時停止ラインを徐行で通過しても、事故さえ起こさなければ問題ないのかもしれない。
「今週の改善政策のテーマはこの『軽犯罪への対応』でしょうか?」
福竹アナウンサーが宇宙人に質問する。
「イヤ、今のは政府の要請に対する対応ネ、今週のテーマはこれネ」
宇宙人がテロップを出すと、そこには『刑務所の設営』と、書かれていた。
「刑務所ですか?」
「ソウネ、軽犯罪は見逃したけど、それでも刑務所がたりないと言う話しが出てきてネ、そこでワレワレが刑務所経営に乗り出す事になったヨ」
「なるほど。それはどのような刑務所なんでしょうか?」
「重犯罪者の専門の刑務所ネ、終身刑トカ、100年以上の刑期の囚人の専門ネ」
「それは…… 大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ネ、刑務官はうちのロボットだけで運営する予定ネ」
「たしかに、あのロボットなら大丈夫ですね」
戦車砲にも耐えられるロボットだ、福竹アナウンサーが言うとおり、凶悪犯が相手でも平気だろう。
「ところで、刑務所は新たに建設するんですよね?」
「ソウネ、新築ネ」
「周りの住民の同意は大丈夫でしょうか? こういった施設を建てるとなると、反対されると思いますが……」
宇宙人の建てる建物から脱走は出来なさそうだが、重犯罪者の刑務所を作るとなると、間違いなく近隣住民に反対されそうだ。
「大丈夫ネ、近隣住民から意見は聞いてないけど反対されないネ」
宇宙人は根拠のない自信を見せた。それを福竹アナウンサーは否定する。
「いや、まずいですよ、近隣住民への説明会をしないと後々問題になると思います」
「問題にはならないネ、近隣住民は居ないからネ」
「えっ、それはかなりの
確かに宇宙人の技術を持ってすれば、僻地の島や、南極にだって建てられそうだが……
「僻地といえば僻地ネ、火星だヨ」
「……火星ですか? ああ、それは説明会とか要りませんね」
宇宙人は、とんでもない地域の名前をだして来た。確かにあそこには近隣住民などいないだろう。むしろ住人がいるのなら、どんな生物なのか見てみたい。
「ところで、なぜわざわざ火星に刑務所を作るのでしょうか?」
「土地代がタダだからネ」
「え、ああ、まあそうですが」
「脱走のしようが無いネ」
「それもそうですね」
「アト、これから人類が火星に進出する為のベース基地にする予定ネ。彼ら重犯罪者を使って色々とテストをするネ」
「ああ、はい、そうですね」
人権に問題が出そうな発言だったが、福竹アナウンサーはさらりと聞き流して、そのまま番組を進行する。
「そろそろアンケートの時間です、よろしいでしょうか?」
例のアンケート入力画面があらわれた。
僕は、「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票する。
しばらくすると集計されたアンケート結果が表示される。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 96%
悪かった 4%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 95%
支持できない 5%』
アンケートの結果をみると、非常に高い支持率を得ているようだ。
犯罪の取り締まりではやりすぎたけど、これで少しはまともになるだろう。
今週の政策は僕らに関係ないと安心していたら、
「アア、ソレと、火星の刑務所の署長、以前この番組に出てきたウチの秘書『
「覚えていますよ話題の女性経営者の方ですね。それでは来週もお会いしましょう」
「マタネー」
こうして番組は終わった。
最後にとびきりの不安材料が出てしまった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます