全滅 1

 食事の終わった午後の授業のひととき、Lnieのメッセージが届く。

 ちらりとスマフォの画面を覗くと、それはキングからだった。


「放課後、よければ付き合ってくれ」


 特に用事のない僕らは、それに付き合う事となった。



 そして放課後になり、僕らは教室で集まる。


「なんだ、どこに付き合うんだ?」


 ヤン太が軽いきもちでキングに質問すると、キングは深刻な顔をしてこう答える。


「いや、大変な事になった。全滅したんだ……」


「なに? ゲームの話かな。前に言っていたギルドのメンバーの事でしょ、最近あまりゲームに来ないって言っていたし」


 僕は思い当たる出来事を聞いてみる。すると以外な答えが返ってきた。


「違う、Gameゲームの話じゃないんだ……」


 僕の予想は大きく外れた、まさかゲーム以外の話題を振られるとは……

 つづいてキングは今置かれた状況を語ってくれる。


「服が…… 服が全滅してしまった」


 ……まあ、あれだけ痩せてしまえば今までの服は着られなくなるだろう。


「しょうがないね。それで買い換えるんでしょ?」


 ジミ子が言うとキングが気まずそうに答える


「ああ、悪いけど付き合って欲しいんだ」


「それくらいなら、いくらでも付き合うぜ。さっさと出かけよう」


 ヤン太にせかされて、僕たちは出かける事となった。



 ぼくたちは地元の小さな服屋へと移動する。

 2階建ての建物で、1階部分は店、2階部分は自宅。この服屋は取り扱う種類が極めて少ない。それでも経営してられるのは、いわゆる学校指定の制服を扱っているからだ。


「昨日、電話をして、俺のsizeサイズの在庫がある事は確認したんだが……」


 キングの身長は180近くある、それは痩せてしまった今でもたいして変わりない。


「まあ、とりあえず店に入ろうよ」


 ミサキにうながされて、僕らは店へと入る。



 店に入ると、人のよさそうなおばちゃんが対応してくれた。

 キングが少し恥ずかしそうに用件を言う。


「あの、真山まやまですけど」


「昨日、電話を頂いた真山さんですね、用意していますよ。ご試着下さい」


 そういって女性用の制服を出してきた。


「あの、男性用はもうないんですよね?」


 キングがそう定員さんに聞くと、しれっと答えを返す。


「ええ、生産してませんからね。もう、どこの店に行っても無いと思いますよ」


「……そうですか」


 シュンと塞ぎ込んだキングは、女子の制服を片手に試着室へと向う。

 まさか自分が女子の制服に身を包むとは考えてもいなかったのだろう。



 みんなで更衣室に向うと、キングが神妙しんみょうな顔でつぶやいた。


「スカートってどうするんだ……」


「はいたことないの?」


 僕がそういうと、真面目な顔で返事が来た。


「はいたことないぜ、やり方を教えてくれよ」


「しょうがないな、私が教えてあげるよ」


 身だしなみに一番ズボラなミサキが、この役を名乗り出た。

 するとキングはそれを拒否した。


「いや、ちょっと女子に見られるのは恥ずかしいぜ……」


 その発言にジミ子がツッコむ。


「いやいや、キングは立派な女子でしょう」


「まあまあ、ここは僕らに任せてよ」


 僕がそういってミサキとジミ子をなだめる。

 女子に見られると少し恥ずかしい気持ちも分かる。


「まあ、いいわ。じゃあ終わったら声をかけてね」


 そういうとミサキとジミ子は席を外して、店内を物色しはじめた。



 うちの学校の女子の制服はブレザーだ。

 学ランと違いネクタイをしなければならないが、上の部分は特に問題は無い。


 キングはYシャツに袖を通して、おぼつかない手つきでネクタイを締める。

 ゲームの最中では、狂ったようによく動く指も、ネクタイを締めるときはたどたどしい動きしかできないようだ。


 少し時間をかけてネクタイを締め終わると、次はいよいよ下に移る。


 キングは、はいていたズボンのベルトを少しだけ緩める。するとズボンがストンと落ちた。

 ズボンはブカブカで、ベルトを使ってかろうじて止めていただけのようだ。

 ちなみにトランクスのパンツもブカブカで、ずり落ちそうになっている。



 僕とヤン太はキングにスカートのはき方を教える。


「ここで止めるだけだよ、ここにはポケットがついてるよ」


 僕が説明すると、ヤン太がぽつりと言う。


「なれると意外と楽だぜ」


 あきれ顔でキングが答える。


「なれたくないな……」


「でもこれからはスカートだろ?」


 ヤン太が真顔で問う。


「まあ、そうだな。このズボンはもう使えないかもな……」


 ちょっと残念そうにキングは答えた。



 制服を着け終わると、ミサキとジミ子に声をかけ、キングの新たな姿をお披露目となった。


「すごいじゃん、似合ってるよ」


「モデルみたい」


 ジミ子とミサキは素直に褒める。


「ああ、ありがとう。でもスカートはちょっとスースーするな」


 足をちょっとモジモジと恥ずかしそうに動かす、するとパサッと音を立て、キングのゆるゆるのパンツが落っこちた。


 硬直し耳まで赤面するキング。


 僕は慌てて更衣室のカーテンを閉めた。

 中から「Shitくそ!」とか汚い言葉が聞こえてくるが、僕は聞こえないふりをした。


「こりゃ、下着も必要だな」


 ヤン太の一言にみんながうなずく。



 引き続き、僕らは下着を買いに移動する。

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