第10回目の改善政策

 いつものように改善政策の発表が始まった。


 普段なら不安のかたまりのような番組なのだが、今日は安心して見ていられる。

 それは今日の内容の予想がついているからだ。例のダイエット薬の発表だろう。


「はい、それでは第10回目の改善政策の発表を行ないましょう。今日の政策はなんでしょうか?」


「今日ハ、政策というより、製薬の発表ネ」


「ほう、なんでしょう?」


「ソレハ、これダヨ」


 宇宙人がテロップを出すと、そこには予想通りの『ダイエット薬 <痩せる薬>』との文字が。



「先週、食糧問題を解決したデショ」


「ええ、しましたね。作物なので収穫までもう少し時間が掛かりますけど」


「そうなったらネ、秘書がネ、今度はダイエット薬が必要ダト言うのヨ。

 たくさん食べられるようになったら太るっていうのヨ」


「そうですね、太る人は多くなるでしょうね」


「チョットおかしくナイ? 必要以上に食べなければイイだけじゃナイ?」


「理論的にはそうなんですが…… 難しいですね」


「ドウシテ?」


「ええとですね、人類の歴史上、常に食料が足りていた訳ではなんですよ」


「ソウネ、現に足りてないところもあるしネ」


「人類は余分に食べると脂肪として蓄える事ができます。つまり食べれない時に備えて食べられる時に食べておく生き物の習性だと思います」


「ナルホドネ」


「ちなみにこの習性は人類だけではありません。この星の動物や生き物の全てに言えると思います」


「ソウイウ習性なら、しょうがないかもネ」


 福竹アナウンサーが上手く説明をした。それに宇宙人も納得したようだ。



「デハ、あらためてダイエット薬の宣伝をするヨ」


「はい、出す事は分かりましたが、その手の薬はいくつも世に出ています。

 効果はどれほどなのでしょうか?」


「ココにサンプルの写真があるネ」


 そういって宇宙人は太った人物の写真を出す。

 写真の顔の部分にはモザイクが掛かっていて誰だか分からないようになっているが、僕らクラスメイト達は、その人物が誰だかすぐに分かった。どうみても痩せる前のキングだ。


「コノ人物が二日でこうネ」


 こんどは痩せた後のキングの写真がテレビで紹介された。

 現場のスタッフの声だろうか、「おおー」「すげー」と言った声が入ってきた。


 それは福竹アナウンサーも同じようだ、驚きの声を上がる。


「おお、すごいですね。わずか二日でこんなに変わるのですか?」


「ソレなんだけどね、ちょっと効果がキツすぎたらしいから、緩和かんわするヨ。2~3週間でこのくらい変わると思ってくれて構わないネ」


「それでも十分だと思います。副作用とか気をつける事とかありますか?」


「チョット、ウンチが油っぽく柔らかくなるネ」


「まあ、そのくらいはしょうがありませんね。本気で痩せるとなると大変ですからね。それでお値段の方はどのくらいでしょうか……」


 福竹アナウンサーの目が、獲物を狩る野生動物のような鋭い目つきになる。

 だが、宇宙人はそれを上手くかわした。


「マッテ、実は製品は一つデハないのヨ、複数用意しているのヨ」


「他の製品はどういった効果があるのでしょうか?」


「イヤ、効果は同じなんだケドネ」


「効果が同じ…… それは複数用意する必要はあるのでしょうか?」


「ソウネ、無いと思うんだけど、必要だという意見をもらってネ、作ってみたのヨ」


「??? なにが違うのですか?」


「『下腹部』『腰回り』『太もも』『お尻』『あごの下』『二の腕』……、ソンナ感じで特定部位の脂肪を分解する感じなんだケド、これって必要ナノ?」


「ああ、そういう事ですね。必要でしょうね、私も下腹部と顎の下のヤツは欲しいです」


「ちょっとメタボぎみだからネ」


 たしかミサキが『部位ごとに痩せたい』といった要望を出していた。

 どうやら望みは受け入れられたらしい。



「他にも、栄養摂取阻害薬えいようせっしゅそがいやくを発売するヨ」


「なんですかそれ?」


「エエト、必要以上にカロリーの吸収をしないようにする薬カナ、これも必要ナノ?」


「必要ですね、特に甘いものは重宝されると思います」


「ヤハリ、よく理解できないネ……」


 宇宙人は不可思議な顔を浮かべた。



 番組は終盤に入り、いよいよ本番になる。


「そうですね。それでお値段の方はおいくらですか?」


「全体的に痩せられるモノが7000円、各部位に対応したモノが11000円、栄養摂取阻害薬は1日分200円の予定ネ」


「全身より部位の方が効果が限定的なのに、値段が上ですか。ちょっと以外ですね」


「全身の方は体の箇所を支持しなくてイイからネ、部位の方はナノマシンをつかって、薬を所定の部分に運ぶカラ、ちょっと高いネ」


「なるほど、それでもちょっと高いですね」


 福竹アナウンサーの目がキラリと光った気がした。


 ここからはひたすら値下げが繰り返される。

 時には宇宙人を持ち上げて、時には視聴者を担ぎ出して。


 最終的にはこのダイエット薬の値段は、全身用が4700円、部分用が7200円、栄養摂取阻害薬は1日分160円まで値下げとなった。



 長い値下げ合戦が終わり、時計の針をちらりと見た福竹アナウンサーは焦ったようすで話を切り出す。


「おっと、時間ギリギリです。アンケートを取ります」


 いつもの画面が出てきた。


 僕はあまり太っていないが、肥満は成人病に直結するという話は聞いたことがある。

 キングもあのままの体型だと、なんらかの病気にかかっていたかもしれない。

 この薬の発売自体は好ましいだろう。


 僕は、「今週の政策は『よかった』」「宇宙人を『支持する』」に投票する。


 やがて集計されたアンケート結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 97%

   悪かった  3%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 90%

   支持できない 10%』



 どうでも良いような政策…… いや、商品の発表だったが、『よかった』を投票した人が97%をしめている。

 まあ、肥満とは言えないミサキや、むしろ痩せ気味のジミ子でさえ気にしていたので、美容的な側面から『よかった』を投票した人がこの中に多くいると思う。



 アンケートの発表が終わると、そそくさと福竹アナウンサーが最後の挨拶をする。


「それでは来週も、この時間お会いしましょう」


「マタネー」


 こうして番組が終わった。



 今週は通販番組を見せられた気分だ。

 しかも、この番組は見ることを義務づけられているので始末が悪い。

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