コンタクト 2

 ある日の事、体育の授業が終わり、教室へ戻ってくると見慣れない物があった。

 それはピンク色のドア。誰もが知っている漫画の『どこだってドア』というワープ装置を真似た物だろう。


 そんな物が、なぜか教室の隅に立てかけてある。



「なんでこんな物があるんだ?」


 ヤン太がマジマジとドアを見る。


「誰かが置いたのかな?」


 僕も不思議になって周りを調べるが、ちょっと厚みのある、ごく普通の板にしか見えない。


 他の人も気になり、ドアの周りに集まって居たら、担任の墨田すみだ先生がやってきた。


「ほら、お前ら席に着け、これから大事な話がある」


 不思議なドアをよそに、僕らは席に着かされた。



 墨田先生は教壇につくと、僕らに説明をしだした。


「いいか、これからアンケートを取る……

 いや、アンケートというか性格判断に近いかな。まあ、そういったものを取る。

 日本の高校生を代表しての調査なので心して答えるように」


 僕が手を上げて、気になった点を質問する。


「何で僕らが高校生の代表に選ばれたのでしょう?」


「『平均的な高校』として『誰か』から紹介されたらしい。

 うちの学校の偏差値は、ほぼ50だからな。ちょうど良かったんだろう」


 なるほど『平均的な高校』か。それならウチの高校が選ばれた理由が分かる。

 ウチの高校は勉強だけでなく、運動もパッとしない。

 平均的なサンプルとしては適切かもしれない。



 続けて墨田先生はこう言った。


「いいか、ちょっと驚くかもしれないが、静かにするように」


 そう言うと、墨田先生はどこかへ電話をする。

 すると、あのピンク色の『どこだってドア』がガチャリと開いた。

 そして中からは、例の身長3メートルの『フラッドウッズ・モンスター』の宇宙人が、のそりと出てきた。


「ヤア、君たちは平均的な高校生ダネ、チョット実地調査に協力してヨ」


「うおっ」「やべー」「本物だ!」


 教室内が当然、ざわつく。


 墨田先生は「静かにしろ」と思いっきり怒鳴るが中々静かにならない。

 無理もない、テレビでよく見ている『芸能人?』いや、『有名人?』…… まあ、人と言っていいのかよく分からないが、そんな人物が健全な高校生の前に現れた。騒ぐなと言われても無理がある。


 しかし、こうして見るとやはり3メートルはでかい、そして間近で見ると、その容姿はとても不気味だ。

 これから宇宙人が何を調査するのか、全く分からないが、僕は一つだけ分かった事がある。


 墨田先生は、このクラスの事を「『誰か』から紹介された」と言った。

 つまり、もう僕は姉ちゃんの顔しか思い浮かばなかった……



 2~3分ほどかけて、ようやくクラスは落ち着きを取り戻す。

 静かになると、墨田先生は


「これからプレアデス星団の宇宙人の方から説明がある。日本の高校生を代表してちゃんと聞くように」


 と、念を押して主導権を宇宙人へと移す。

 バトンを渡された宇宙人はゆっくりとしゃべり出した。


「デハ、良いかネ。本日は君たちに実地調査に協力して欲しい。

 その理由ハ、報道番組で字幕を表示するシステムを君たちは知っているカネ?」


「「「知っています」」」


僕らは素直に答える。


「そのシステムで、誤差が出てしまってネ。『270円』の所を『280円』と表示されたのヨ。

 この国の国民の感情は分かりにくい。ソコデ、実地調査に協力してもらって精度を上げたいのネ」


 270円を280円に表示した所で特に問題はなさそうだが……



 ミサキが勢いよく手を上げた。何か質問があるらしい。


「ハイ、ソコの人」


 宇宙人が指でさしならが、発言を受け付ける。


「実地調査とは何をするのでしょうか?」


 ミサキがもっともな質問をする。


「思った事を何でもしゃべって貰えば良いヨ」


「でも、それだとプライベートな事とかどうするのでしょうか?」


 珍しくミサキがまともな反論をした。


「プライベートな事もしゃべって欲しいネ。もちろんタダとは言わないネ、協力費として一人3万円払うネ」


「わかりました、ありがとうございます」


 ミサキはこころよく了解の返事をする。どうやらその金額に満足したらしい。



 高校生に3万円は大金だ、僕もかなり心が揺らぐ。


 教室のどこからかは、

「3万円何に使う」「どうしようか?」「あれが買えるわね」

 と、ひそひそ話が聞こえてきた。


 だが、3万円でプライベートを売り渡すような事があって良いのだろうか?


 こんどは僕が手を上げた。


「ハイ、そこのツカサくん」


 ……名指しで指名してきた、だが、僕はそんな事ではひるまない。


「僕らにとってプライベートは重要です。

 この調査に参加したくない人が多く居るかもしれません。

 クラスで多数決を取って、参加したくない人が過半数を超えた時には、調査に参加しないと言う選択肢はあるでしょうか?」


 3万円でベラベラとプライベートの事を話したくは無い。

 クラスにはそう言った人も多くいるだろう。僕は賭けに出た。


「プライベートは大事…… ソウネ、強制的は良くないネ。多数決を取るネ」


 宇宙人は僕の賭けに乗ってくれた。


「デハ、大事な事らしいので、金額を上げるヨ。協力費として5万円。協力してもイイ人は手を上げてネ」


 これにクラスのみんなは大挙たいきょして手を上げる。


 身近な友達からは

「よくやったツカサ」「ツカサくんすてき」

 とか声が聞こえるが、そうじゃない。


 5万円はあまりにも魅力的すぎた。

 僕の賭けは大敗で負けた。



 宇宙人は念のため挙手の数を数える。

 そして満場一致で、調査協力は可決された。


 つまりそれは僕も賛成に含まれているという訳だ……

 5万円の魅力の前に僕も屈してしまった。



 宇宙人が僕らに確認を取る。


「協力してくれるようだネ」


「「「はーい」」」


 みんな笑顔で返事をする。


「デハ、5万円を配るヨ。ソレと本音をしゃべって貰う為に自白剤じはくざいを投与するヨ」


 ……宇宙人は何かとんでもない事を言い出した。

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