第4回目の改善政策 2

「ベーシックインカムを導入する理由とはなんでしょうか?」


 福竹アナウンサーが宇宙人に質問する。


「前回の改善政策の実施で、ヘアカラー、ヘアマニキュア業界が打撃を受けたケド、これからワレワレが改善政策を打ち出す上でいくつかの企業が潰れるカモしれないネ」


「そうですね」


「そのための救済策ダト思ってくれても構わないネ」


「なるほど、社会を改革していく上で仕方ないかもしれません」


「キミ達の社会でも、社会の変化に対応出来ずに潰れていく会社も多いデショ」


「ええ、そうですね。うちの国だと年間およそ7000~8000社くらいは潰れて居ます」


「ツマリ、改善政策でそのくらいの会社が潰れても許容範囲トいう事ダネ」


「……出来るだけ、おてやわらかにお願いしますね」


 どうやら結構な数の会社が日常的に潰れているらしい。

 身近な話だと、姉ちゃんの前の会社が潰れていたりする。


 まあ、今は新たな職場に着いては居るけど、その職場は……



 僕の悩みなどお構いなしに宇宙人は話を続ける。


「他にも理由があるヨ」


「どのような理由ですか?」


「貧困層、特にワーキングプアと呼ばれる人々への救済ダネ」


「ワーキングプアとは、低賃金で長時間、身を粉にして働かされていて、それでも生きていくのがやっとのお金しかもらえない労働者層の人たちの事ですね」


「ソウダネ。体を壊してまで働くのは馬鹿らしいジャナイ」


「ええ、そうですね」


「それに中には、『過労死』って死ぬまで働く人達もいるそうじゃナイ。

 死ぬまで働くって、どういう文化なの?

 そういう文化は廃止していかないとネ」


「それは全くもってその通りです」


 福竹アナウンサーが深く相づちを打つ。

 これは僕も同意見だ。珍しく宇宙人の意見が正しく聞こえる。



「一つ、私に懸念点けねんてんがあるのですが、質問をよろしいでしょうか?」


 福竹アナウンサーが宇宙人に聞きたいことがあるようだ。


「ナンダネ?」


「私たちの社会には人気の無い職場というものがあります。

 代表的なものは、3Kと言われた『きつい』『汚い』『危険』と呼ばれる職種ですね。例えば、ゴミ収集や下水処理の関係など。

 こういった職場は人気は全くありませんが、必要不可欠な職場でもあります」


「確かに、必要だネ」


「働かなくても生きていける場合、こういった人気の無い職場には人が全く集まらず、社会的に機能不全に陥る可能性もあると思います。そういった場合はどうするんでしょうか?」


「人類ハ、ラクして楽しい仕事ダケしようヨ」


「え、ええと、そうですね。出来ればそうしたいのはやまやまですが……」


「嫌な仕事は、押しつければイイじゃナイ」


「ええ、まあそうなんですが。その相手が居なくなるんじゃないかと……」


「ソコデ、コレだヨ」


 宇宙人は新たなテロップを取り出す。

 この宇宙人、最近テレビ慣れしてきたな……



 宇宙人の取り出してきたテロップには、こう書かれている。


『人材派遣するヨ』


「人材派遣ですか……」


 福竹アナウンサーは眉間にしわを寄せながら答えた。

 いったい誰を派遣するのだろう。

 宇宙人が直々にやってきて、例えばトイレ掃除などをやるのだろうか……


「ソウダヨ、ワレワレはロボットを人員として派遣する用意がアル」


 ……なるほど、それなら僕にも理解できる。



「ロボットの派遣ですか。それはどのようなものでしょう?」


「監視に使用しているロボット、このロボットと同型のモノ。もしくは業種ごとにカスタマイズしたロボットを派遣するネ。

 人の嫌がる単純作業などハ、ロボットが請け負うヨ。コレで、人材不足は解消するネ」


「なるほど、確かに。それならば問題なさそうです。

 ちなみに派遣料金はどのくらいなんでしょうか?」


「人の賃金をベースにするネ。料金は最低賃金から、時給10,000円くらいマデを想定してるネ。

 ロボットは賃金に見合ったスペックに落として貸し出すネ。

 例えば、バイトの料金なら、ロボットはバイト並の働きしかしない。

 時給10,000円なら、その職種のエキスパート並の働きをするネ」


「時給が10,000円を越えるような、専門的な特殊な職業でもその値段ですか?

 たとえば外科手術のエキスパートとかでも10,000円で雇えるのでしょうか?」


「その場合は、10,000円を越える時給になるヨ。特殊なケースは個別相談デ請け負うネ」


「わかりました。値段相応といった感じですね」


「ソウダネ。ちなみにこの事業で得られた収入は、ベーシックインカムの方に回すネ」


「了解しました。ではそろそろお時間です。アンケートを取りましょう」



 福竹アナウンサーがそう言うと、いつものごとく、アンケート集計画面が表示された。


 僕は「今週の製作は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。

 宇宙人を『支持できる』に投票するのは初めてだが、こういった政策なら歓迎だ。



 しばらくすると、アンケートの集計が終わる。

 アンケートの結果は、


『1.今週の政策はどうでしたか?

   よかった 83%

   悪かった 17%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?

   支持する 29%

   支持できない 71%』



「今週はなかなか盛況でしたね」


「ソウダネ。この調子で支持を得たいネ」


「それではそろそろお時間です。また来週お会いしましょう」


「マタネー」



 第4回目の改善政策の発表は無事に終わった。


 少しずつだが、宇宙人の支持率が上がってきているようだ。

 第1回目の大失敗さえなければ、もっと支持率は上がっている気もするのだが……

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