生まれてきて最も長い午後の時間 2
6時限目、数学の授業となる。
数学の
一言しゃべってはため息、二言しゃべってはため息と、そうとう重傷だ。
他の男子も授業に身を入らず、ボーッとしていたり、ブツブツと独り言を言っているヤツもいる。
時間が無駄に過ぎていき、数学の授業は終わった。
ホームルームを終え、僕らは学校から解放される。
「ねえ、ハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに寄っていかない」
ミサキがみんなに声をかける。
「いいぜ」「いいわよ」「OKだぜ」
僕も「いいよ」と返事をして、いつものメンツでハンバーガーショップへと向かった。
ハンバーガーショップに入ると、いつもの安いセットを頼み、みんなは席に着く。
今まで生きてきて『食事が喉を通らない』などといった状況に出くわしたことはなかったが、僕は今まさにその状態にあった。
ハンバーガーの包み紙を開く気にもならない。
席につくと、どうもヤン太の様子がおかしい。
もじもじと変な動きをしていた。
「なあ、俺はそろそろ限界なんだが。どうすりゃいい?」
なるほど、トイレが近いのか。
「座って普通にすれば良いよ」
ミサキが状況を察して、女性のやり方を教えてくれるが、相変わらず『普通』が全く分からない。
「いや、それなんだが、普通って、あっ、もうダメだ行ってくる」
ヤン太がトイレに駆け込む。
しばらくすると、戻ってきた。
「あ、うん、普通に出たわ」
なにが普通なんだ?
「お、俺もゲージがMaxだ、行ってくる」
続いてキングがトイレに駆け込んだ。
そして、戻ってきた。
「スッキリしたぜ」
爽やかなキングの様子を見ていたら、僕も限界を迎えた。
「僕も」
それだけ言うと、トイレにかけもむ。
ズボンを下ろし、便座に座ると、思ったより限界に近かったらしく、すぐに小が出始めた。
あとは、まあ、普段とまったく変わらなかった。
放水中に止めようと思えば止められるし、放水を再開しようと思えば出てくる。
性別が変わっても、人体はそんなに変わらないらしい。
席にもどるとヤン太が声をかけてくる。
「普通にできたろ?」
「うん、普通にできた」
高校生にもなって、なんとも不思議な話題の会話を交わす。
元男子が全員スッキリとすると、いよいよ本題に入る。
「宇宙人は本当にセクハラを無くす為だけにあんな事をしたのか?」
ヤン太が少し切れ気味に言った。その怒りは痛いほど分かる。
その質問にミサキが何も考えず即答した。
「そうなんじゃないの」
相手は人間より遙かに高度な知的生命体だ。
僕は、さきほどの国語の時間で話し合った内容から、結論をのべた。
「あの薬がないと人類は滅びてしまう。
人類が宇宙人を追い出せないように、わざとやったんじゃないかな」
するとジミ子が、
「いや、まだなんとも言えないけど、アレは何にも考えてなさそうな雰囲気だったぞ」
宇宙人から受けた印象をそのまま話した。
「そうね」「そうだな」「
ジミ子の言うことは確かだ。
たしかにあの宇宙人は知識と技術だけは凄いが、あまり頭が良さそうな感じではなかった。
僕は思わず宇宙人の悪口を言ってしまう。
「僕もそれはそう思った、なんかアホっぽいよね」
さらにキングが悪態をつく。
「そうとう
ヤン太が恨みを込めて宇宙人に罵声を浴びせる。
「馬鹿でアホでクソッタレだ」
するとジミ子が冷静に痛いところを突いてきた。
「その馬鹿でアホでクソッタレが、今の地球の支配者だよ」
「「「はぁぁぁぁ~」」」
男子一同、深いため息をつく。
そうだった、アレがいまや地球の支配者だ……
「俺たちは、どうすりゃいいんだ?」
独り言っぽくヤン太がつぶやく。
するとミサキが楽しそうに言う。
「とりあえず女性としての素養を磨かないとね」
「素養といわれても、僕らには無理じゃない? 男だったんだし」
僕が素直な意見をいう。いまさら無理だと思う。
「そんなことないよ、今からでも遅くないよ。まずは身だしなみからかな」
ミサキが明るく振る舞うが、
「いつもツカサに身だしなみを整えて貰ってる人が言うの?」
ジミ子がぴしゃりと、言い放った。
「うぐぅ、それを言われると……」
ミサキがすこし落ち込んだ。
とりあえず、僕は返事をしておく。
「まあ、頑張ってみてみるよ」
すると、ミサキの表情が明るくなった。
「ほんと、色々とおしえてあげるからね」
コロコロと変わる感情は、相変わらず見ていて飽きない。
しかし僕らは女性として生きていけるんだろうか。
ハンバーガーチェーン店での会話は、まだまだ続く。
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