開戦一日目 1

 戦闘開始の10分前。僕はテレビをかじりつくように見入る。



 テレビでは、いよいよ現場からの中継に切り替わる。巨大モノリスが映し出された。

 かなり遠目のカメラから移されていると思うが、表面にはグリニッジ王立天文台と同じく光りの文字で『ゲーム開始マデ』という表記と、『00:09:12』と、9分ちょっとの残り時間がカウントされていた。


 カメラは次に、ボートの上にいる福竹ふくたけアナウンサーに切り替わる。


「こちら、現場の福竹です。今、モノリスからおよそ13km離れた距離にいます。

 かなり遠いのですが、巨大なモノリスは肉眼でもハッキリと確認できます。

 大きさはエイリアンの予告通り、縦1700メートル、横900メートル、厚さ300メートルの薄暗く不気味な金属の塊は、上空およそ300メートルに静止しております」


 スタジオで司会をやっている春藤はるふじアナウンサーから質問が飛ぶ。


「そちらの様子はいかがでしょうか?」


「まもなく攻撃が始まりますので、攻撃に備えて各国の飛行機など、周りを旋回をしております。上空には、今、20機以上の戦闘機が飛行しており、たいへん慌ただしくなってまいりました」


「ところで福竹さんは人類の攻撃が、このモノリスに効くと思いますか?」


 返答に困まる質問が福竹アナウンサーに投げられる。


「ええ、なんとも言えないですが、効くことを祈るしかないです」


「何か弱点のような箇所はありますか?」


「ええーと、今のところ、それらしきものは分かりません」


「人類は勝てそうですか?」


「いや、まだなんとも言えないです……」


 今の質問、世界中の誰も答えられないだろう。

 おそらく答えられるとしたら、相手側の宇宙人くらいなものだ。

 だが『弱点はありますか?』との質問に、宇宙人がそのまま教えてくれるとは思えない。


 くだらない質問を繰り返しているうちに時間は、のこり1分を切った。

 中継カメラはモノリスをじっと写す。



「いよいよ、攻撃が開始されます」


 モノリスのカウントがゼロになり。表面に『ゲームプレイ』と表示された。

 そして『経過時間』と表示が切り替わり、こんどは数字が増えていく。


 人類側の攻撃は、まず無人機が行くようだ。

 宇宙人はたしか、『攻撃を仕掛けるモノには反撃する』と言っていた。

 戦闘機が行くと迎撃される事もあるだろう。まずは様子見といったところだ。


 小型の無人の飛行機がモノリスに向かって行く。そしていよいよ攻撃かと思ったら、周りをぐるぐると旋回し始めた。

 はじめは間近でデータ分析をしてから、攻撃をするのかと思ったが様子がおかしい。

 5分、10分経っても、一向に攻撃が始まらない。


 すると、基地から中継が入る。


「こちら、前線基地です。無人機ですが、どうやらハッキングにあった模様です。

 全ての無人機は、完全に制御不能の状態にあります」


 どうやら無人機は乗っ取られたらしい。軍のコンピュータなので、それなりに暗号化などセキュリティーはしっかりしていると思うのだが、宇宙人の手に掛かれば簡単なようだ。ゲーム開始数分で全ての無人機が無力化された。



 カメラは再び現場の福竹アナウンサーを映し出した。


「これからミサイル攻撃が始まります、我々取材班はもう少し離れます」


 取材陣の乗ったボートが動き出す。

 カメラは揺れる海の上で、モノリスを移し続ける。


 そして10分ほどは過ぎただろうか、カメラが飛行機雲を捕らえた。


「みなさん、ご覧下さい。ミサイルが確認できました。あの方向は中国からでしょうか。

 かなりの数です。50は優に超えていると思われます。

 あ、反対側を見て下さい、少し遅れて別の方角からも飛んできました。韓国方向と日本側からのようです。

 合計すると100はくだらない数が、宇宙人のモノリスへ向かっていきます!」


 近隣の各国が足並みをそろえたようだ。ものすごい数のミサイルが飛んでいく。

 着弾したらどうなるのだろうか。僕は成り行きを見守る。


 そしてミサイルがいよいよモノリスに当たるかという時、先頭を進んでいた中国のミサイルが急に進路を変えて海の方へ向かい出す。

 それを追いかけるように残りのミサイルも次々と方向を変え、あさっての方向へと向かいだした。


「なんだこれ、ちゃんと狙えよ」

 姉ちゃんが文句を付ける。


「壊れたんじゃないの?」

 母さんが文句を言う。


 故障か設定ミスかと思ったが、続く韓国と日本のミサイルも同じようにモノリスの直前で方向を変えていく。

 結果としてモノリスに当たる事無く、一つ残らず海面に落ちた。


「なんだこれは……」

 父さんが愕然がくぜんとつぶやいた。


 これは故障などでは無いだろう。

 しばらくすると、基地から中継が入る。


「こちら前線基地です。ミサイルもハッキングにあった模様です。

 詳しい事はまだ不明ですが、およそ3秒前後でミサイルのターゲットを書き換えられてしまったようです。

 ミサイルはおよそ170ほどはあったのですが、全てやられました。

 誘導装置のたぐいは使えないので、これから作戦を立て直すようです」



 ……人類の攻撃は始めから大きくつまづいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る