開幕直前

 その後の5日間。僕はテレビとネットをひたすら覗き続けた。

 だが、あまり情報は落ちてこない。

 ときどき軍の準備風景が中継されるだけで、肝心の攻撃計画に関しては一切、公開されなかった。


 ただ、なんとなく雰囲気で伝わってくるのは、アメリカの近くに現れた巨大モノリスはアメリカ主導で攻撃がされ。ロシア付近にあらわれた巨大モノリスはロシアが攻撃にあたる。


 そんな感じで全世界のモノリスに対して、同時攻撃を掛けるらしい。

 どれか一つでも巨大モノリスが落とす事が出来ればいいのだから、手柄を上げる為にそれぞれの軍は競うように攻撃をかけるだろう。


 僕はふと『全てのモノリスにまんべんなく攻撃をかけるのではなく、どれか一つに集中攻撃したほうが良いのでは』というアイデアを思いついた。


 そこで、インターネットのトウィッターでつぶやいて、このアイデアを世間に発信しようとも考えたが、このアイデアは誰でも思いつきそうだ。


 それに、もし僕のトウィートから、このアイデアが奇跡的に採用されて、その作戦が実行され、そして失敗でもしようものなら、僕はもう地球上に存在を許されないくらい批難されるだろう。


 ここは下手な発言などはせず、専門家の軍人達に作戦に任せたほうが良さそうだ。

 僕はこのアイデアを公表しない事にした。



 そしていよいよ、人類の存亡をかけた攻撃が始まる1時間ほど前。

 僕は自分の部屋から、家族の集まっている居間に移動する。


 この数日で、人類の運命は決まってしまう。

 結末がどうなってしまうか分からないが、こんな時ぐらいは家族で集まって居るべきだろう。


 居間に来ると、まず、姉ちゃんの姿が目に入った。

 片手にポテトチップ、反対側の手には缶の発泡酒。そして服装は何故かサッカーの日本代表の応援用のユニフォーム。


「これからサッカーの試合を見るんじゃないんだけどな……」


 あきれながら、僕はテレビを見るために、姉ちゃんの隣の席に座る。

 するとアルコールの臭いが漂ってきた。


「弟ちゃん、遅いよ。そろそろ始まるよ」


「姉ちゃん、酒臭いよ」


「大丈夫だよ心配しないで。弟ちゃんにはコーラを用意したから安心して」


 ちがう、そういう事を言いたいんじゃない。

 この緊急事態に酒を飲んでいるのが信じられない。


 説教の一つでも言いたいところだが、酔っ払いには無駄だろう。面倒くさいだけだ。僕は黙ってテレビを見る。



 テレビの中は慌ただしい、討論を交わしたり、軍事専門家が戦力を説明したりと、コロコロ画面が変わる。

 やがて軍事基地らしき場所から中継が入ってきた。


「こちら最前線の基地からレポートをお送りします。

 場所は極秘事項のため、教えられません。

 滑走路から次々と戦闘機が飛び立っていきます」


 日本から一番近い巨大モノリスは、

 中国の上海と韓国と日本の間の海上にあるらしい。


 テレビでこの基地からの中継は何度か見ている。情報として少し物足りない。

 僕は何の気なしに、スマフォをいじる。


 すると、巨大掲示板ではこの様な意見が交わされていた。


「今、中継している場所、

 巨大モノリスから最寄りの基地は九州か沖縄か対馬だから、どれかじゃね?」


「あの風景みたことある、たしか対馬だ」


「対馬基地の写真があるから、掲示板に貼り付けるわ」


 検証のための画像が張られた。

 それを見ると、間違いなく対馬のようだ。


 続いて掲示板の住人は、テレビに映っている兵器の割り出しに掛かった。


「あ、あれは対艦ミサイル摘んでるわ、型番はおそらく……」



 ……これでは極秘事項もへったくれもない。


 宇宙人がこの掲示板をもし見ていたとしたら、秘密情報がだだ漏れだ。

 まあ、こんな場所を覗くはずが無いけど。


 ふと、そんな事を考えていたらこんな書き込みがされた。


「プレアデス星団の宇宙人より、情報ありがとうネ。

 たいした文化レベルの兵器ではなさそうだけど、これで万全の防御態勢が構築できるヨ」


 変な人物の登場で、掲示板は大いに荒れる。


「宇宙人の真似して、コイツ馬鹿じゃねーの」


「本当の宇宙人だったらくたばれ!」


「宇宙人は死んでしまえ!」


「ワレワレはアンチエイジング抗老化技術が完成されているので、簡単には死にませんネ」


「偽物の宇宙人は死ね!!」



 この状況で宇宙人をかたれば、叩かれるに決まっているだろうに。

 アホかコイツは。下手すりゃ接続元を割り出されて、晒されるぞ。


 そう思っているたら、掲示板では宇宙人と名乗る人物の接続元をバラすよう誘導されていた。


「おまえが本物の宇宙人なら、名前にちょっと『接続元表示』って入れてみろよ」


「ワカリマシタ、こうですかネ。これでイイですカ?」


 ……これでコイツは終わった。誘導に引っかかって身元を公開してしまった。

 これから、名前、住所、顔写真とか公開されて総攻撃が始まるぞ。


 そう思っていたが、この掲示板を見ていたものは衝撃を受ける。


『接続元表示』と入力すると、ふつうは身元をあらわす12桁の数字が出てくるハズなのだが、そこには『SilverMoon銀の月』とアルファベットが表示されていた。

 アルファベットが表示される事なんてシステム上、絶対に起こらない。


 掲示板はパニックになる。


「なんだこれは」「やばいぞ」「おかしいだろ」「まさか本物か?」


 混乱の中、誰かが言い出した。


「これ、あの何考えてるのか分からない前任の管理人のイタズラじゃねーか?」


「ああそうだ」「ヤツならやる」「本当に悪趣味だな」


 この現象は、前任の掲示板の管理人のイタズラという話で落ち着いた。

 たしかにあの管理人ならこんな嫌がらせをやりそうだ。



 気がつくと時刻はもう戦闘開始の10分前。

 僕は掲示板は気にせずテレビに集中することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る