第43話 コンビニの材料で料理

 「あ、優子さん、ブログ見ていますよ」

いつものパート先、お昼休みでもないのに珍しく原塚さんの方から話しかけて来た。

「あら」

私は本棚の開きを直しながら少し照れた。……確かに教えたけれど。

「でもあれちょっと上級者向けじゃないですか?いつも買い物に行っている人になら簡単かもしれないけれど」

そうだろうか?冷蔵庫になにかしらあるのは当たりまえだと思っていた。

「あら、じゃあどんなのがいいのかしら」

「俺ならコンビニの材料だけで作れるものがいいですね。安くてうまいと最高」

「コンビニ、ねぇ……」

私みたいな生活をしていると、あまりコンビニに行かない。

 それでも、帰り道に行ってみようかと思ったのは、原塚さんに料理を覚えて欲しいからだ。

 チェーンのコンビニは帰り道とは逆へちょっと行ったところにあった。

「いらっしゃいませ」

ここでも店員の挨拶が、私と同じように教育を受けて響く。さて、コンビニにあるもの、ねぇ。

 とりあえずおにぎりとパンはあるみたい。飲料コーナーには牛乳、少し高いけれど卵とチーズ、サラダの値段にはびっくりしたけれど、原田さんが食べているのは見たことがない、もっと安くて手軽で……?野菜ジュースのパックがあった、あれならなんとかなるかもしれない。

 私は何があるか見るだけ見て、献立を考える。何もコンビニにあるもので料理を考えるのにコンビニで買い物をすることはない。食パンだけ買って行こう。

「ありがとうございました、またお越しください」

百円玉と小銭を渡し、お決まりの挨拶をされる、さて、今日はさばにしようと思っていたのだけれどチラシを見たら安くはない。

 でもまた細切れ肉?見栄えはいいかもしれないけれど、かと言ってほたてなんて高くてとてもとても、今日のチラシにのっていたもの……しゃけか。でも焼くだけの料理にはしたくなかった。クリームがけはこないだ作ったし、こうしてみると私の料理にも案外同じ料理が多い気がする。

 とすると、このどこにでも売っている塩しゃけをお湯を貼った器で塩抜きしようと思う。それでも少ししょっぱいけれど、そうだそのしょっぱさを生かそう。

 私はお湯を沸かして、玉ねぎや九条ネギ、適当な野菜を切る。適当じゃわかりにくいそうなので、あるものを、と言ってしまえば余計わかりづらいかもしれないけれど、ここにあるのは白菜だ。

 お湯が沸けたので中華だしで薄めに味を付けて、皮を外した塩しゃけを入れ、醤油やオイスターソースなんかで味を調える、皮も少し焼いて入れる。ごま油も少し浮かそう。

 これで一品、さてスープだけでは味気ないけれど……。

「ごはんまだぁ?」

そうだ健一がいたんだった、それならキノコを洗ってチーズと一緒にさっと炒めてオムレツにしてしまおう。簡単だし食べてくれるし。

 なんとか写真も撮れて、今日もブログを書く。

 アルバイトや主婦業と併用するにはブログを書くというのもなかなかに重労働だと私は思う。最も私はこのブログでまだ一銭も儲けていないけれど。アフリエイトとやらもよくわからないし、PVもあまりないし、他の誰かに料理を教えるつもりで、とお昼に言われたと思ったけれど私は誰かに料理を教えるほどでもない。それでも、誰かが見ていることだけはアクセス解析でわかるし、少しだけれど読者もついたから、負担にならないようにだけできれば。

「うん、ブログか?」

帰った夫に画面を見られて、私は思わずウィンドウを閉じそうになる。そうしなかったのは、保存していないからだ。夫は私がブログを始めたことは知っている、そうだ、ちょっと相談してみよう。

「そう、お料理の」

「うん、美味しそうだな、だけど……」

健一さんは言った。

「やっぱ上手な人の料理だ、コンビニに売ってるものとかは?」

私は笑った。

「原塚さんと同じこと言っている」

あの間男、健一さんは少し苦い顔をした。

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