第29話 女なら誰でもしていること

 今日はパートの無い日。天気がいいので洗濯機を回しながら、私は色んなお惣菜を作っては冷凍することをしている、弁当も健一さんと私の分が毎日になると、時々こんな風に作り置きをしておかないと、朝は忙しいから手間のかかるものは作れないし。

 幸い健一さんも私も特に好き嫌いはない、ピーマンの肉詰めだってなす炒めだって焼き魚だってレバーだってなんでもござれだ。私は若いころもし好き嫌いが多い人と結婚するようだったら私の自慢の料理の腕でなんとかしてみせると息巻いていたけれど、そんなことにはならなかった。

 もし好き嫌いの多い人だったら?と夫にも聞かれたけれど、細かくしても食べないかもしれないし味でごまかしても駄目かもよ?と言われて、そういえばそうかもしれないけれど、と言ったら、でも俺ならなんでも美味しく食べられるから、と続いたので笑った。

 その健一さんはあれからことあるごとに「で、あの間男はどうしている」とふざけ半分に聞いてきては何かと気にかけてくる、もうお前に捨てられたか?とかさては最初から遊びのつもりだったな、とかの言葉はさすがに冗談だろうと思うけれど、この質問には困った。

「そういや、あの間男、もうお前の手料理食べたか?」

「え?えぇっと、確かまだだけど」

夫はすると喉をなでおろして言った。

「じゃあそのままにしておけよ、手料理作ってあげるなんてなったら、きっと君とその間男は特別な関係だと思われるからな」

さて困った。そう言われても、いつもおかずをあげている小野さんは女性だし、それに確か……。

「ねぇ、あなた、確か私たちお付き合いする前は確かお友達どうしで、私の所にもよくあなたはお金が無いと言ってはお昼をいただきに来ていたわよね」

夫は懐かしそうに笑った。

「あぁあったなそんなこと」

やっぱりこの人は忘れていない。

「その時は恋人じゃなかったわよね?」

私はちょっとだけ怒ったように言い張った、

「その頃は男女問わず色んなお友達がわたしの料理を食べに来ていたわ。えぇそうよ、あなたも昔はその中の一人だったじゃない」

そうよ、私の料理にそんな大した意味なんてないわ、そう言い出した私を健一さんはあぁ、という驚いたような大きな声で私をたしなめ、それからこう言い放った。

「それなんだけど、実は君に黙っていたことがあって」

「何よ」

夫のことだ、どうでもいいことを後生大事に隠している気がする。

「おともだちの時から好きでした、何かで見かけてずっと気になっていたので、君の男友達に近づいてグループに入れてもらいました。卒業して会えなくなるのが寂しかったから恋人になったんです、すいません」

私は呆れて言った。

「そんなことなら、学生時代もう知っていたわよ」

「え」

それは夫には意外に思えたようだった。

「だから私この人早く告白してきてくれないかなってやきもきして、で、そろそろ恋人が欲しいっていう雰囲気かもしだしたつもりなのにあなたってば全然鈍くって!しかたなく社会人になった頃に恋人欲しいって言ったの私じゃない、もう、私が告白させたようなものよ」

すると夫は真面目な顔をして言った。

「え?わかっていたなら、言わせる必要なくない?」

これだから男の人は、だから嫌なのだ、

「私は女よ、わかっていればこそ、言って欲しいことはあるわ」

私はこともなげに言った。

「うわっ!怖っ!わかって言わせるなんてすげぇ悪女!こんな女を俺妻に迎えていたんだ……怖えぇ……」

夫はそのまま何かに頷いてパジャマに着替えだし、私は自分がそんな悪女だとはとても思えずに、こんなことは女なら誰でもしていることよ、と言い放った。

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