第25話 間男?

 「お前最近なんか嬉しそうだな?」

健一さんは空になったお弁当を渡しながらちょっと不機嫌そうにつぶやいた。

「あ、えっとね、パート先で私のお弁当を楽しみにしている人がいるのよ」

「男か!」

健一さんはふざけ半分で怒ったふりをしたけれど、顔は笑っていない。

「女性よ」

私は少しだけ笑って言った。

「でもパート先に男がいるな、全く、だからちょっとお前を働きに出すのはちょっと嫌だったんだ」

夫は向こうを向いてしまった、表情が読めない。そんなに深刻な話ではないといいのだけれど。

「いるだろ男が?どんなんだ?」

健一さんはネクタイを外し、居間のソファーに大きく座って話し込む体勢になった。

「原塚さんっていう……まつげの長い……若い男性……」

そこは私も嘘をつかなかった、

「そうか間男は若いイケメンか、お前は昔っからそういうのに弱かったもんな」

健一さんは頭の後ろで手を組んだ。何かを考えている時、健一さんはいつもこうする。

「同僚よ」

「同僚で、間男」

なんだろうこれは、私にそんな甲斐性があると思っているのだろうか?

「ただの同僚よ、小野さんって言う、私のお弁当のおかずをいつも楽しみにしている女性の、お友達」

「で、間男。そのお友達っていうのも泣かせているんじゃないだろうな?」

顔は笑っているけれど逆にそれが怖い、健一さんはあくまでまだ疑っているみたいだ、どうしよう……。

「みんなでお弁当を囲んでいるだけ、なんだけれど……」

俯いて泣き出しそうな私を見て健一さんは大きく笑った。

「いやわかっているよ、君は嘘が苦手だってことぐらい。それでも心配だから……愛しているよ」

夫はすっと立つと泣き出したような私の涙を食べてしまい、ほっぺにキスした。照れる私を見ては笑っている、若いころみたい。っていうか……夫の好きな少女漫画みたい。

 とにかく夫はようやく私の『だだの同僚』だというのを信じてくれた、信じて欲しいも何も本当にそうなんだけれど、それにしても、私が若い男性をどうこうするなんてそんな、とても無理なことを何故あんなに心配するのだろう。

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