唐揚げ✖️調味料たち

雪純初

第1話

こんばんわ。

僕の名前唐揚げ番号″730000番″だ。

こんばんわ、なのは僕が今日夕食のメインディッシュとして僕が住んでいるこの家の食卓に並ぶからだ。

この家のみんなは唐揚げが出るのが久しぶりだと子供達は喜んでいた。その姿を見るととても胸がギュッときた。むね肉だけに。

僕の部位は『むね肉』だから、もも肉ではないよ。もも肉は現在進行形で揚げられているから会話は出来ないけど。

僕たち、『唐揚げ』は部位によって大きく別れる。一般的なのは『もも肉』『むね肉』。中には『肩肉』や『ずり』といった、唐揚げの枠組みに入るのかギリギリだと思う人もいるかもしれないけど、決してそうではない。

僕たち″唐揚からあげ″は、揚げ油を使用していればどんな食材だろうと僕たち″唐揚げ″の仲間入りなのだ。

僕の親友の″手羽先てばさき″は、人間はどうしてオレが唐揚げの仲間だと解ってくれないんだ!と愚痴っていたっけ。

慰め終わる頃には身が冷えてパサパサになっていたな。親友だけど、時間帯はわきえてほしいものだ。

僕が考え耽っていると、


「おい、唐揚げ」


右手の方から野太い声が聞こえた。

振り向くと食器洗い機で乾燥し終えたのだろう、サッパリした茶碗ちゃわんさんがいた。


「やあ、こんばんわ茶碗さん。乾燥あがり?」


「見てわかるだろ。この通り身も心も、汚れや油を落として爽やかな気分だぜ」


「それは良かった」


乾燥し終えていない茶碗さんは怒りっぽいから少々苦手だからな。

茶碗さんが乾燥し終えてって事は、お箸さんもいるのかな?

この間会った時は元気が無さそうだっから心配だ。


「茶碗さん、おはしさんは?」


「ああ、彼奴あいつなら乾燥し終えてからスグに寝たよ。疲れが溜まっていたらしいからそっとしておいてるよ」


「それは、お大事に」


疲れが溜まってお箸さんが折れてしまう(物理的な意味で)のは不味い事だからな。よく寝て疲れを取れたらいいのだけれど。


「それより、唐揚げよ」


「何だい」


「彼奴ら事は考えてきたのか?」


「……」


茶碗さんの質問に対して、押し黙る。

茶碗さんは「ふむ」と唸る。


「デリケートな問題だからな。部外者のオレがどうこう言うのは筋違いなんだが。……難しいもんだよな、恋愛れんあいってよ」


「…………はい」


茶碗さんの言った通り、僕はある問題を抱えている。

それは、調味料でいうなら、甘く、時には酸味があって、苦い味を噛み締めることにも、塩みたいにしょっぱい思いをする事もある、不思議な調味料────【こい】である。


あれは一週間前の事だ。

いつもの様に食材なら誰でも使っている、『食チャ』内で談笑していた時、僕の食チャグループに″胡椒こしょう″、″レモンさん″、″マヨネーズちゃん″が話したい事があると言うので、僕はこっそり冷蔵庫から抜け出して、台所に向かった。

時刻はもう2時を回っていたのでリビングには家の誰もいないので見られる心配もない。

ちょっとした解放感が心地よかった。

指定された台所に行くと、胡椒、レモンさん、マヨネーズちゃんが慎重な顔で登ってくる僕を見ていた。


「どうしたのこんな時間に。ハッキリ言って結構眠いんだけど」


「むね肉」


欠伸しながら言う僕に胡椒は真剣な表情で名前を呼んだ。

※(唐揚げにされる前なので、『むね肉』となっています)


「何だい」


僕がそう聞き返すと、


「単刀直入に言うけど、私たちはむね肉のことが好きだよ」


「…………え」


「勿論、一つの食材としてだよ」と胡椒が補足を付け加えるが、まてまて待ってほしい。


「……それは、レモンさんもマヨネーズちゃんもって事だよね」


僕がレモンさんとマヨネーズちゃんを見ると二個とも頷いていた。

……マジか。


「でも、何で。僕はそこまでいい肉でもないのに。外国産なのに。国産でもないのに」


「そんな事関係無いよ。むね肉は昔から私の事を気にかけてくれていたよ。寂しい時はわざわざ冷蔵庫から抜け出して、テーブルの上まで登って来てくれたじゃない。むねを張って。むね肉だけに」


胡椒ははにかみながら告げた。

本当に優しいよ胡椒。昔からずっと。


「そうよむね肉君。外国産だろうと国産だろうと貴方は貴方よ。どんな鶏から生まれて、どんな部位だろうと、どんなスーパーマーケットで売られていようと、私たちは今目の前にいるむね肉の事が好きなのよ。貴方はこの広島県産のレモンを墜したのよ。むねを張りなさい。むね肉だけに」


僕には酸っぱい対応だったあのレモンさんがそんな風に僕の事を見てくれていたのか。

むね肉がはち切れそうなくらい嬉しい。


「そうですよ。むね肉さんはこんな脂肪だらけのわたしを『デブの元』だとか『マヨビーム(飛ばねぇ)』なんて言う食材から守ってくれたらじゃないですか。七味しちみお姉ちゃんも言ってましたよ、むね肉君は本当にいい奴だって!またマヨネーズちゃんとおいでって!だからむねを張りましょう!むね肉だけに!」


僕は一体どうしたらいいだろう。

胡椒。レモンさん。マヨネーズちゃん。

彼女たち調味料とは僕と相性がいい。

僕の食卓でも″胡椒だろ!″、″レモンのこのサッパリさがたまらん!″、″マヨネーズの組み合わせこそが最強~!″と唐揚げ出る度に言ってくれている。

どれもこれも美味しい。

決断する事ができるのか僕は?

胡椒。レモン。マヨネーズ。

この三個から誰かを選べるのか?

これが″唐揚げナンバーワンの組み合わせだと″。高らかにむねを張って豪語できるのだろうか。むね肉だけに。

もも肉なら関係無いのかもしれない。むね肉じゃ無いから。


「……考えさせてくれ」


僕はそう彼女たち──調味料たちに告げた。



「それで、答えは決まったのか?」


ふと告白の事を零してしまった際に茶碗さんに聞かれてしまい今に至る。

茶碗さんには時々相談して、世話になっている。普段は怒りっぽい食器だけど、根はいい食器だ。


「……まだです。って先延ばしにするのはもうダメですよね」


「おう。賞味期限切れになっちまう」


そうだ。いつまでも先延ばしにはできない。

僕たちには賞味期限・消費期限があるのだから。僕にも茶碗さんにも。


「…………決めました」


「本当か?」


「ええ。僕はもう決めました。唐揚げナンバーワンは″彼女たち″だと」


「そうか……ん?」


「では、僕はそろそろ揚げられるので、食卓でハッキリと告げます。僕の気持ちを。このむね肉を張って!」


「お、おう、頑張れよ」


「ありがとうございます」


その後、僕は唐揚げ番号″730000番″となって、食卓に運び込まれた。

適度に揚げられた僕は、狐色に光り輝いていた。今の僕は国産にも引けを取らない美味しさになっている筈だ。

食卓上には案の定、胡椒、レモンさん、マヨネーズちゃんがいた。


「答えは決まった唐揚からあげ?」


※現在は『むね肉』では無く、『唐揚げ』になっております。


「うん。僕は決めたよ」


食卓に箸、コップ、お茶、茶碗さんに盛られたご飯たち、最後に唐揚げが机に置かれた。

調味料たちの視線が僕に集中する。


「さ、食べる前はちゃんといただきます言ってよ」


「解ってるって」


「だから、早く早く」


「しょうがないな。では、母さん」


「解ったわよ。じゃあ──」


そう僕が好きなのは。


「「「いただきます」」」


「お父さん、七味取って。後、マヨネーズも」


「解った。息子よまさか」


「うん!」


僕は──────!!!


「「七味マヨネーズにします!!」」


「え」


胡椒は惚ける。


「え」


レモンは惚ける。


「計画通り」


マヨネーズは笑う。


「唐揚げ~~」


七味は甘える。


「僕は、唐揚げには────七味マヨネーズがいいと思います!!!」


七味マヨネーズ美味いよね。

















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