第百四十三話 脱出

まずは、2人の魔法とスキルを使えるようにしたいよね。

あの嘘をずっと見せられるのは心臓に良くない。


(アザレアの杖と水筒の杖をリーカに)


リンの方でこっそりと魔法を唱える。


アリア『今、送った杖でリーカを治すと念じて頭を軽く叩いてみて。スキルが使えるようになったら、普通にチャットで返して、ダメならまたあの嘘をついてみて』


『リーカの嘘です。リーンハルトくんなんて、大大大嫌いです!』


うぐっ。

逆の事を言ってるって分かってるんだけど、リーカに嫌われたと一瞬思ってしまうのは、なかなかきついものがある。

そんなに強調しなくてもいいのに、、、。

あれ?これって、嘘なんだから、もしかして、結構大胆に告白されてる?

リーカから告白ってされてたっけ。

なんだか、今、急に照れくさくなって来たな。


「どうしました、英雄殿?お顔が赤いですよ?お疲れになりましたか?」

「あ、いえ。大丈夫です。何も、問題ないです」


今は、意識したらダメだ。

集中、集中!

リーカとシリカを助けるんだから。


杖は失敗だった。

次だ次。


(アザレアの杖と水筒のリュックをリーカに)


今度は薬とポーションを出すリュックだ。

このリュックは、それの使用者が一番必要としている薬かポーションが取り出せる。

アリアからその事を説明して、また嘘で返事をしてもらう。

また、大嫌いときたら、今度はもっと意識してしまいそうだ。


リーカ『スキル使えるようになりました!凄いです!さすがリーンハルトくんです!』


ああ、治ったのね。

まあ、良かったよ。

別にまた大嫌いって言われて、嘘です。って表示されたかったとか無いし。


リーカ『あの、さっきのは嘘ですからね。本気にしないでくださいよ?私だってあんな嘘、言いたくなかったんですけど、シリカちゃんがあれなら確実に嘘だと分かるって言われて、、、、え?あれ?も、もしかして、嘘って分かるって事は、、、あ、あの、そ、そういう意味では無くてですね。私がその、リーンハルトくんの事を好きとか嫌いとか、、、うわああん!シリカちゃんのバカァ!バレちゃったじゃないの!』


どう反応すればいいんだよ、こんなの。


と、とにかく、シリカにもリュックを送り込んで、2人が自由に動き回れるようにする。


アリア『シリカにも同じのを送ったから。それと、嘘については、もう気持ちは分かっていたから大丈夫だよ』


こ、これでどうだろう。

これなら、気付かずに嘘を付いていたって言うのも、和らぐかな。


シリカ『馬鹿なの?』


えっとお、、、。

やり方間違えたのかあ、、、。

触れないのが、正解だったかな。


アリア『シリカ?リーカは今どうしてるのかな?』

シリカ『部屋の隅でうずくまって泣いてる。パパはあとでお仕置きね』

アリア『はい。すみませんでした、、、』

シリカ『私に謝られても困るんですけど』

アリア『は、はい。あとでリーカには誠意を込めてお詫びいたします』


何故だ!何故僕は最後の最後でいつも詰めを誤るんだ!


(鞘より抜かれし剣をリー、、、シリカの手元に。斬る対象はシリカが斬ろうと思ったものすべてで)


これは転送に時間がかかるだろう。

その間に、2人には逃げる段取りをつけてもらう。

そして、シリカにはリーカと自分自身にシリカの祝福を付けてもらう。

これだけでも、幸運度があがり、能力も上がって、自然治癒が付く。

剣が届けば武器も手に入る訳だし、あとは、2人ならなんとか逃げ出せるだろう。


アリア『無茶はしないでね。ダメだと思ったらまた大人しく捕まってもいいからね』

シリカ『心配しすぎ。勇者と女神なんだから、制限されてなければ問題ないよ。だいたい、そっちの方が一人で制限もついたままなんでしょ?』

アリア『う、うん。まあ、僕はなんとかなるよ』

シリカ『まったく、いつもそうやって、他の人の事ばかり気にしていて、自分の事は何とかなるって思ってるんだから。そういう、自分を大事にしないパパは嫌い』


『シリカの嘘です。パパは嫌い』


えっと、、、、。

シリカって、僕の事、、、す、す、好きなの、かな?

ほら、嘘なんでしょ?

嫌いって部分だけ嘘判定されてさ!


アリア『ごめん、最後の部分だけ読めなかった。なんて言ったの?』

シリカ『パパなんて大っ嫌いって言ったの!』


『嘘です。パパなんて大っ嫌い』


うひょう!

良かった〜!

嫌われてなかった〜!

っていうか、大っ嫌いが嘘なら、、、、大好きって事だよね?


シリカ『ねえ。まだ、嘘判定してたの?』


うっ。バレた。


シリカ『信じられない!パパの馬鹿!嫌い』


あれ?嘘判定は?

なんで?今嫌いって嘘言ったよ?

なんで?

おーい。嘘だよね?




危なかった。

本気で、死を覚悟した。

シリカの嫌い発言に対しての嘘判定が無かったのは、セラフの翼が効果切れになっただけだった。

人って、絶望すると、それだけで、死の淵を彷徨えるものなんだな。


リーカには立ち直ってもらい、軟禁されている部屋の扉を鞘より抜かれし剣で軽々と切って、今はヴォルガ公国から逃げ出している最中だ。


ヴォルガ兵に追われているようだけど、シリカが付けた祝福の幸運度アップのお陰で、誰にも見つからずに、着実にフォルクヴァルツへと向かえているようだ。

ヴォルガから出てしまうと、チャットが使えなくなるので、それまでの間だけでもやり取りをして、2人の無事を確認している。


シリカ『あ、もう、国境だよ。フォルクヴァルツの軍人さんがいる。何とかなったかな』

アリア『うん。良かった。僕も何とかして抜け出して帰るから、家で待っててね。あと、家の皆んなにもよろしく伝えておいて』

シリカ『リヴォニア騎士団?のツィスカさんとエデルさんって人に保護された。もう、チャットが切れるかも。皆んなには自分で言う事。リーカにもあとで謝る事。絶対、無事で帰ってくる事。いいね』

アリア『あ、はい。分かったよ。すぐ帰るよ。お土産何がいいかな?』


ああ、その後の返信は返ってこなかった。

ツィスカさんとエデルさんなら安心だし、まあいいか。

僕達を探しに来てくれていたんだな。

フォルクヴァルツじゃ、大騒ぎになってたりして。

国王とかうるさそうだな。


でも、これで、人質も居なくなったし、いつでも帰れるかな。

いや、本当に帰れるのか?

この制限されるのを何とかしないといけないよな。


でも、アザレアの杖と水筒は僕自身には使えない。

人質が逃げ出したのがこっちに伝わるのも時間の問題だし、今の魔法とスキルが使える間に何とかしないとだ。


「敵襲!敵襲!ノルドが待ち構えてやがった!」

「戦闘用意急げ!祝福を貰った部隊から、突っ込め!」


ノルドがこっちの動きを掴んでいたみたいだ。

のんびりと祝福を受けていたものだから、陣形も何もあったもんじゃない。

準備ができた部隊から無計画に飛び出していく。

それでも、テュルキスの妖精があるから、適当な陣形でもノルド兵を次から次へと倒していく。

ヴォルガ兵はほぼ無傷だ。


「おお、すごいな。早く俺たちにも祝福をお分けください!」

「早くしてくれ!」

「おい、横入りするなよ!順番を守れ!」

「うるさい!もう、戦闘が始まったんだぞ!死んでたまるか!」


一応、死なれるのも嫌な気がするので、残っている皆んなにもテュルキスの妖精を付けてあげる。


よし、これで、全部隊かな。


「師団長さん!付け終わりました!あと、僕の魔法とスキルを全て解放してもらえませんか?これだと戦えないです」

「そ、そうですね。いいですか?おかしな事をしたら、首都にいるあのお2人がどうなっても知りませんよ?」

「分かってます。早くしてください!」

「英雄殿の魔法とスキルを全て解放します。これで、使えるはずです」

「ありがとうございます!では、行きます!」


早く師団長からできるだけ離れよう。

このまま、ノルド側からフォルクヴァルツに行こうかな。

向こうの方が暖かそうだし。


「え?そんな?!人質が?!え、英雄殿!待ちなさい!」


うえっ。通信が入って、人質の逃亡がバレたか。


「くそっ。英雄殿の魔法とスキルを」

「ブリクスムの雷鳴!」


バリバリバリバリ


「ぐわあああ!」

「うわあああ!」


他の兵士達も巻き込んで、雷魔法を師団長へと撃ち込む。

とにかく師団長に制限をさせたらいけない。

というか、今は逃げれても、いつ制限を掛けられるか分からないな。

近くにいなくても、制限できるかもしれない。


「セラフの翼 第六の翼 窓を破壊する者(ウィンドウブレーカー)、対象、、、名前聞いてないな。この師団長」


翼が現れて、周りの兵士達が動揺しているけど今は気にしていられない。

それより、師団長のステータスだ。




名前 エゴール・エゴルチェフ

年齢 25



意外と若いな。

そして、名前がエゴール・エゴルチェフ。エゴエゴだな。

あ、いや、そこはいいんだよ。


何か僕に制限できる能力高なんだかがあるはずだ。



アイテム

モリオンの首飾り



これかな?

モリオンって神の名前?

真実の書に情報があるかな。



神モリオン 魔除け、魔封じの神



なるほど、やっぱりこれが僕の魔法を制限している道具みたいだ。

僕に何かを書き込んだって言ってたから、それを書き込んだ人に対して制限を自由にできるという事なんだろう。

本当は僕の中に書き込まれたその何かを消し去りたいけど、今はのんびり方法を探っている暇はないから、操作する側を無効化してしまおう。


アイテム欄からこのモリオンの首飾りを消してしまう。

保存をすると、師団長の胸元にあった、真っ黒な宝石の首飾りがパキッと音を立てて割れてしまう。

あれが、モリオンの首飾りなのだろう。

これで、師団長が僕を制限する事は出来なくなったはずだ。


でも、まだ、安心できないよな。


「第一の翼 神判代行。対象、エゴール・エゴルチェフ。師団長、起きてください。エゴルチェフさん」

「うーむ。む?英雄殿?は!英雄殿の魔法とスキルを全て禁止します!」

「もう無意味ですよ。僕にはそれはもう効きません」

「そ、そんな。一体どうやって、、、。ああっ!モリオン神の神具が!神具が壊れるなんてあり得ないのに!」

「それを持っている人は他にもいるんですか?」

「いるわけないでしょう?私だけですよ」


『嘘です。他にもいます』


たまに、この嘘判定って、親切になる時と、面倒くさそうになる時があるよね。

実はセラフの翼って、人格があるんじゃないのって最近思い始めている。


「党首がもってたりして」

「あの方が持つわけないでしょう?こんな黒々した宝石を身につけるわけありません」


嘘判定は無い。

そこは本当らしい。

まあ、あの人なら本当にそう言いそうだ。


「じゃあ、あの隊長とかかな?」

「隊長にも持たせるわけないでしょう?何をしでかすかわかったもんじゃないんですから」


あんまり上司に信頼されていないんだな、あの隊長。


『嘘ではありませんが、真実ではありません。隊長はモリオンの首飾りを所有しています』


今日のセラフの翼は本当に親切モードだな。

誰かが持っている所までは知ってるけど、誰なのかまでは師団長には知らされていないんだ。

この国、本当に大丈夫か?

組織内の信頼関係があまり無いぞ?


「あなたと隊長とそれ以外に持ってますか?」

「だから、私だけと言ったじゃ無いですか!」


『その2人だけです。存在しているのは2つだけです』


ねえ、もう嘘とか関係なくなってない?

まあ、真実と違う事を言った場合の補足説明なんだろうけど、嘘判定より補足の方が情報量が多くなっている気がするんだけど。


まあ、これで、あとは隊長の首飾りを壊せば、当面は僕の魔法が制限される事はなくなるはず。

その隙に、何とかして僕に書き込まれた何かを消し去れば解決だ。

シリカ辺りにアザレアの杖と水筒を覚えさせればいいかな。

アズライトには追加できなかったけど、シリカなら女神だから、大丈夫でしょう。


よし、隊長を探して、首飾りを壊して、家に帰ろう。


「あ、あなたは英雄殿ではなく、神なのですか?」

「へ?あ、そうか、翼出たままか。まあ、いいか。僕は神でも天使でもないですよ。僕はただの、、、、えっと、僕はなんなんだろう」


ステータスが分かんないから答えられないな。

まあ、何でもいいか。


「僕はただの、10歳の子供ですよ」


そうそう、僕はそんなもんだよ。

師団長はええ〜って顔しないでよ。

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