第百三十八話 魔族討伐

壁に着いたは良いけど、どうやって倒そうかな。

いや、そもそも倒しちゃっていいのかな。

魔族達をよく見ると、あの話しができていた魔族達と違って、ここに居るのはみんな話しも出来ない、なんちゃって魔族みたいだった。

あ、違った、人工精霊ライトだったか。

まあ、どっちでもいいや。

人格も意識も無いんなら、妖魔みたいなものだ。

これなら思いっきり倒せる!


久し振りにギベオンソードを出して、魔族モドキを次々と斬っていく。

前にシリカに貰ったシリカの守護が効いている。

お陰で精神汚染が無効化されて、攻撃が簡単に当たるようになった。


「た、助かった、、、。誰だか知らないが、ありがとう」

「いえいえ。まだ下からくるので、騎士団の皆さんは引き続き防衛をお願いしますね」

「わ、分かった」


壁の下を見ると、外壁を取り囲んでいる堀が魔族モドキで埋まっていた。

本当にぎゅうぎゅうと魔族モドキが、みっちり埋まっていて、外壁を登るための土台代わりになっていた。

まあ、10万もいればこういう使い方もするか。


「思いっきりマナを込めて、、、ヴリズンの氷塊!!」


バキバキビキ


ふひぃ。

最大威力で氷の魔法をこの辺の壁全体に掛ける。

登っている途中の魔族モドキごとカチコチに凍らせてしまう。

これで、なかなか登れなくなったでしょう。

今度はあっちだ!

外壁門を挟んで反対の壁にも登ってきているから、走り抜けながらバサバサと斬っていく。

上に居る魔族モドキが居なくなったら、やっぱり下に向けて、氷漬け魔法だ。


よし、こんなもんかな。

平原に面している外壁はほぼ凍らせた。

ツルツルに凍っているから、登ってきた魔族モドキに上から大きめの石でも投げつけるだけで、勝手に下にいる奴を巻き込んで落ちていく。


だいぶこれで、騎士団の人達も楽になったと思う。

当面はこれで時間稼ぎになるとして、あとは草原に広がる、緑の絨毯をどうするかだよな。

絨毯というより、仮面が草むらに大量放置されてるみたいだな。

近くで見ると気持ち悪さが一層激しくなるよ。


ふと、ウィンドウを見ると、背後から剣で斬られる僕の姿が映し出される。

え?どういう事?

とにかく避けないと!


それから3秒後に背後から剣を持った人の気配が、、、無い?!

え?予知が外れた?

と、思ったら剣が僕の背中を斬る。


うぐう。

痛い。

予知で分かっていたのに、感覚で気配が無かったから、一瞬躊躇してしまった。

後ろを見ると、騎士団の一人と思われる人が剣を構えて立っていた。


なんだ?騎士団なのになんで僕を斬るんだよ。


「あ、あなたは何故僕に、、、敵はあっちですよ!」

「いや、俺の敵はお前だよ。リーンハルト・フォルトナー。いや、クリノクロアの遣いかな」


誰だこいつ。

僕とクロを知っている。


「ふはあ!俺が誰だか分からないのかい?意外と頭悪いね。ヒントでもあげようか?」

「いやいい。ベニトアイトだろ?頭悪そうな話し方で分かったよ」

「!?くっ。人族如きが生意気だぞ。まあ、いい。今日の俺は機嫌がいいんだ。何故だかわかるか?分からないだろう。それはだな」

「魔族モドキを大量生産出来たからだろ?どうせ、それも誰かの力を借りただけでお前は何もしてないんだろうけどな」


かなり当てずっぽうで言っている。

状況証拠から推測した、ただの感だ。

でも、見事当たっていたようで、顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。


「俺がやらなくても、人の手を借りるのも、俺の神格に付いてきてくれているのだから、これも俺の力の一部だ。お前だって、誰かを頼ったりするだろうが!」

「そりゃそうだよ。自分一人で何でも出来るわけないよ」

「なら、お前だって同じじゃないか!」

「そうだろうけど、別に僕はそれが僕の力の一部だとは思わないな」

「うるさい!俺は神なんだから、使役した者の力は俺の力なんだよ!」


よく分からない理論だな。


「お前は俺の計画の邪魔なんだよ!」


予知ウィンドウでは何故かまた背中を斬られている。

でも、今はまだ目の前にベニトアイトはいる。

真正面からベニトアイトが僕目掛けて剣を振り下ろす。

やっぱり予知が外れてるのか?

ギベオンソードでベニトアイトの剣を防ごうと構える。

剣と剣が当たると思った瞬間、後ろから背中を斬られる。


「うぐう!なんでだ?」


気がつくとベニトアイトは背後に立っていた。

精神汚染か?

いや、シリカの守護が効いているんだから、それは無いはず。


「ふはは。分からないだろう。お前は俺の力が何なのか知ることもなく殺されるのだ!」


斬られるまで気配は前にあったんだよ。

でも、気が付いたら気配ごと後ろに居た。


「計画に遅れを出す訳にはいかないからな。早くお前は俺に殺されろ!」


また、予知には背中から斬られる所が映し出される。

芸がないな。それしか出来ないのかよ。

流石に毎回やられれば、対処方法はある。

正面から来るのは無視して、後ろを向き剣を構える。


「ぐわあっ!」


また背中を斬られた。

なんで?


「馬鹿だな〜。毎度同じ方法で来る訳ないだろ?こんな間抜けな奴に、今まで邪魔され続けてきたのかよ」


今のは気配と実体が同じだった。

つまり、こいつは気配を別の場所に移動できるのか?

でも、姿は実際に目に見えてるんだぞ?

何か違う事をしている筈だ。


「何をされてるか探ってるようだが、もうこれで終わりだ。トドメを刺してやるよ!」


くっ。分からないままか。

今度はどっちだ?

こうなったら、、、。


「セラフの翼!」

「ぐわっなんだ!?」


前は剣で防ぐように構えて、背後はセラフの翼を出して防いだ。

結局、今度は後ろだったか。


「ちっ、なんだその翼は?ああん?外殻ユニットだとお?お前人族じゃないのかよ!」

「さあ、僕も知らないんだよね」

「はあ?何言ってるんだ?ああ、お前窓無しなのか。それで、Sシリーズの外殻ユニットを装備出来るのか。なあ、お前、なんで俺の邪魔をするんだよ。そんな装備を持ってるくらいだから、分かってるんだろ?こっちの世界はただの箱庭なんだって」


何だよ、急に話しを始めて。

トドメを刺すんじゃなかったのか?


「まあ、ある程度は知ってるし、あっちにも行った事はあるけど」

「なら、この計画の意味も分かるだろ?俺達が生き延びるためには必要な事なんだぞ?」

「………え?そうなの?」

「はあ?そこまて首を突っ込んでおいて、肝心な事は知らないのかよ、、、。お前な。俺達が遊びでこんな事をしてるとでも思ってたのかよ」

「えっと、違うの?」

「違う!スファレライトと一緒にするな!」

「ああ、それはごめん」


スファレライトは遊びでやってるのね。


「こっちの世界は実験場だ。ここで色々試して、成功したら俺達の世界でも実施できる。今やっているこの魔族もあっちの世界で俺達が滅びない為にしている事だ」

「魔族を作るのが何で滅びなくなる実験になるのさ?」

「今、あっちの世界では、中の人格と外の外装とで数が合わなくなってきている。こっちと違って死んでも中身は無くならないからな。子供が産まれれば、中と外のセットで新たに作られるが、死んでも中身は残り続けるとなれば、新たな外装が必要になる。そこで、今はこの擬似世界とも言える箱庭を作って、そこに精霊として入り込ませて数を合わせているのだ」


な、なるほど。

とりあえずとして、人格を入れておく器が必要だから、仮の世界を作って、そこの器に入れておけ!って事か。


「それが出来るなら、それでいいんじゃないの?」

「仕事としてここに来ている奴はまだ良いが、やはり、あっちの世界で暮らしたいと思う者は多い。精霊外装の格を上げて神にまでなれれば、あちらの世界に転移させても、暮らしていけるだろうが、精霊のままでは、環境の違いから数日と保たず外装は朽ちてしまうだろうな」

「それは分かったけど、でもそれで滅びるのとどう繋がるの?」

「数少ない外装を取り合って争いが始まったのだ。まだ、小さな争いだが、力の大きな俺達が本気で争えば、世界そのものが崩壊する可能性だってある」


それが激化するのを避けるために、外装を作るのを実験していたのか。


「人形族とか、その魔族とかが出来たんだから、もういいんじゃないの?こんなこっちの世界の人達に嫌がらせをする必要はないんじゃないのさ!」

「格の問題だと言っただろ?魔族でも自我を持つまでは作れたが、あの3体を作るのでも精一杯だ。あれでも、神格としては、天使レベルにも到達していない。格を上げるには経験値が足りないのだ」

「だからって、こっちの世界の人を倒して経験値を稼ぐっていうの?」

「作り物の世界で何をしても問題はなかろう」

「作り物だとしても、生きているんだし、嫌なものは嫌だよ!」


勝手に作っておいて、勝手に経験値の為に殺すのか。


「それはそうだろう。抵抗してくれなくては経験値にならないからな。だが、お前のような奴が出てくるのは想定外だったな。クリノクロアが何かやったのか」

「クロは!クリノクロアはこの世界の管理者なんだろ?あいつはこんなの嫌がったはずだ!」

「お前、クリノクロアと面識があるのか?本当に面白い奴だ」


ベニトアイトは、ふふと笑う。

馬鹿にされた訳じゃなくて、本心から面白がっているようだ。

何が面白いんだか。


「この世界は何柱かの神や女神達が管理運営している。クリノクロアは技術開発とフォルクヴァルツ王国の管理担当だ。俺はデマルティーノ帝国担当だったんだが、実験内容が不適切だとかで解任させられてしまった」

「それで、クロの国に来て実験を続けたのか」

「ああ、あいつは自分の家から出てこないからな。こっちが現地で何かやっても、個人所有の端末では対処しきれないで、こういう事も出来てしまうんだよ」


ああ、あの家に引きこもってるからだよ。

まったく。次にまた会ったら、外に連れ出してやる。


「じゃあ、やっぱりあなたは、僕の敵だね」

「何故だ!ここまで話せば分かってくれるだろう。これは必要な事なのだ!お前だって、レベルアップの為に魔物を狩って、経験値を稼ぐだろう?同じ事をしているだけだ!」

「同じだけど、こっちは狩られる側なんでね。それに、クロが家から出なくても、僕がクロの代わりに動くんだよ。まあ、選ばれちゃったからね。仕方ないから僕はクロの味方をするよ」

「ちっ、無駄話だったか。その外装なら何かの役に立つかと思ったが、邪魔になるならもうここで死んでおけ!クリノクロアに会えるぞ」


………ああ、あっちの世界に行くだけって意味か。

クロがもう死んじゃったのかと思っちゃったじゃないか。

え?無事だよね。

通信障害のせいもあるから、怖いんだけど。

あ、死んでも中身は残るんだっけ。

なら平気かな。

今の話、どこまで本当なんだろう。


「ふん。ちゃっかり今の間に回復してやがったな。だが、俺の攻撃が読めない限り、お前の死は変わらないぞ!」


あ、そうか、シリカが付けてくれたマラカイトの自然治癒のお陰か。

もう死にそうって所まで来ていたけど、今は全快していた。

長話をしてくれたお陰だね。

クリソコラの幸運度上昇も関係してるんだろうか。


今度は予知画面に左横から斬られる映像が流れる。

この予知は結果的にそっちから斬られるのが映されるんだから、どっちを向いても左から攻撃が来るはずだ。

今はベニトアイトは正面にいるし、気配も前だ。

でも、そこは見ないで、予知だけ信じるんだ。

体の位置は変えず、きっちり3秒後に剣を左に向ける。


キンッ


よし、防げたぞ!


「何?!何故今のが防げた!?」

「最初は気配を自由に移動できる能力かと思ったんだけど、ちょっと違うよね。動きそのものの認識阻害みたいなものでしょう?」

「ふははは!よくぞ分かったな。少し違うが考え方は大体合ってるぞ!この数回の斬り合いで看破するのか!本当に面白い奴だ。なあ、やはり俺の配下にならないか?俺とならもっと面白い力を授けてやるぞ」

「いやいいよ。間に合ってます」


慣れてしまえば、あとは簡単だった。

気配察知に頼らず、シリカの予知を信じ切って行動すれば、避けるのも防ぐのも容易かった。


「ちっ。面倒になったな。まあいい。近くでこの光景を眺めようとここに居ただけだしな。あとはあの大軍勢がこの国にいる人族をすべて経験値として取り込んでやるわ!」


じゃあな、と言って、ベニトアイトは溶けるように消えてしまった。

逃げられたか。

せっかく張本人が出てきたんだから、ボコボコにしてごめんなさいさせられれば良かったけど、流石に神相手はキツかったな。


でも、ベニトアイトが引いてくれて正直助かった。

後はこの10万をどうするかだな。

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