第百三十七話 女神の祝福

「楽しい演出をしてくれたじゃないか、ええ?おい、うまくオレを出し抜いた気分はどうだ?」

「うえっ。だって、国王が急にあんな事を言い出すから。第一僕はまだ国王になるって決めてませんからね!」

「粘る奴だなー」

「そりゃそうですよ!嫌なんですから!でも、これで国王にならずに済みましたよ。なんせ、天使からの警告ですからね!」

「おお?そうか?さっきのゲルデルン公爵も言っていたが、抜け道は幾らでもあるんだぞ?例えば、国王にするのはダメでも、その上の存在の超国王を作ってしまうとか、国王Plusとか国王GOとか何とでもなる」


何だよ国王GOって。どっか行くのかよ。

これだから、大人は汚いんだよ。

こっちが必死に抵抗しても、ズル賢いやり方ですり抜けてくるんだから。


「まあ、その度に天使を出して、ソレダメ〜っ!て言えば良いんだし、僕はそれでも構いませんよ?」

「うわっ、嫌な奴。いい加減諦めて超国王になれよ」

「それもう定着してるんですか、、、。とにかく嫌なものは嫌なんです!」


国王の方が諦めて欲しいよ。

でも、国王だけじゃなくて、枢機院とか言う、会った事もない人達も僕を国王にって認めてるからには、簡単には諦めてくれそうにないな。




「リーンハルトくん、お疲れ様。超大変な事になっちゃってますね」

「まあね。後悔してる最中だよ」

「あはは、、、」

「パパ。とても美味しいのがたくさんだったよ。お腹いっぱい。余は満足じゃ」

「シリカは幸せそうで良かったよ。そろそろ帰るとするかね」


何だか僕に話したそうにしている人達が遠巻きにこっちを見ている。

トップのゲルデルン公が話し終えたんなら、次は少し下位の貴族辺りがそろそろ話してもいいんじゃないかと思い始めてくる頃だろう。


それに貴族当主の隣に居る、多分ご令嬢と思われるドレスアップした女性に「早く行くんだ」とか「他の貴族の前にアピールして来い」とか言っているのが聞こえてきている。

こう言う時に、娘さんをダシにしてお近づきになろうと考えるのは、どこも同じなんだな。


前に読んだ勇者物語にも、勇者へアピールしに女性が周りを囲むと言う場面があったけど、実際にこうやって囲まれそうになってくると、狩られる側になった気分でちょっと怖いんだけど。

大体10歳の子供相手なんだぞ!色気仕かけとか効くわけな、、、くはないか。

いやいや、効かない効かない。

効いたら、リーカが絶対、後で家族中に言いふらして、懺悔室行きになるから、効かない。


「いやらしい顔」

「してないって!最近プライバシーの侵害が過ぎるよ!」

「侵害って言う事は、いやらしい事考えてたって事ですよね」

「うう」


もう帰ろう。

その辺の話しで僕が勝てる訳がないんだから。

何も起きないうちに退散するのが一番だ。


「大変です!国王!大変です!」

「何だ、どうした、落ち着け。何があった」

「そ、それが、王都周辺に魔族が現れました!」

「そのくらい知っておる。この後、第一会議室で、魔族にどう対処するか会議をするのだからな」


おお、一応そう言うのやってくれてるんだ。

関係各所への連絡方法も改善してきているって言うし、やる時はちゃんとやるんだよな。


「違うんです!大量に!外の平原いっぱいに魔族が!」

「何だ?そんなに大量に発生したのか。どれくらいだ?百か?千か?」

「正確には数え切れないのですが、その、、、十万はいるかと、、、」

「はあ?何を寝ぼけた事を言ってるんだ!そんな大軍が監視に引っかからず急に現れたって言うのか?」

「は、はい。監視は怠らずにしておりましたし、なにせ、平原側は数十の監視塔で見張っておりますので、見落とす事はあり得ないかと」


天の国から一気に転送してきたのか。

カルがやっていた転送作業は結構大変そうだったから、10万なんて人数を手作業でやれるとは思えないな。

あの作業をしていた箱をうまく使って、自動にかつ大量に転送をしたのだろう。


現れたのが魔族だとすれば、裏で動いているのは、ベニトアイトだ。

そこにはそう言った事が出来る技術者が仲間として付いているのだと思う。

ベニトアイト自体はそう言うのが苦手な、筋肉で語るようなタイプな筈だ。


それに、10万なんてアカウントを用意するのも大変な作業だ。

自動でアカウントを作成する方法を開発したとしか思えない。

人形族に妖魔をくっつけて実験していたのと比べれば格段に技術力が上がっている。

誰か味方に付けたな。


「この目で確かめる。パーティは中止だ!クラウゼン!ノインもついて来い」

「「「はっ」」」

「リーンハルト!お前も早く来い!置いていくぞ!」


ええええ、、、。やっぱり僕も行くのか、、、。

そんな気はしてたけど。


「リーカとシリカも付いてきてくれる?」

「あ、はい。でも、いいんでしょうか?」

「いいのいいの。勇者なんだし、シリカは女神なんだし」

「ああ、そうでしたね」

「私は遠慮しとく」

「だ〜め!パパの言う事は聴きなさい!」

「こんな時だけ、パパ面するんだ」

「いいから、来るの!」


王宮の中でも、外壁外の森や平原が見渡せる高めの建物に登ってきた。

もう少し高い時計塔とか学園の図書館塔もあるけど、魔族が大量発生している平原はここからでも十分見渡せる。


「うわ。気持ち悪いですね」

「うん。あれだけ居るとキモいね」


いつもは草の緑色が綺麗な平原だけど、今は、、、やっぱり緑色一色だった。

でも、髪の毛と瞳の緑に加えて、着ている服も緑だから、顔と手だけが、大量に宙に浮いているようにも見える。


それが、うぞうぞと動き回りながら、こちらへと近づいてくる光景は、この距離からでも凝視できない程だ。


「パパは何故これを私に見せたの。私の事嫌いになったの?」

「ち、違うよ!僕だってこんな光景だとは知らなかったんだし!それに、僕がシリカの事を嫌いになるわけないよ!」

「そう。ならいいよ」


そういうと、外を見ないように、くるっと後ろを向いて座ってしまう。

まあ、生まれたばかりで、精神的にあまりショッキングな物は見せない方がいいかもね。


「ふふ、照れてるんですよ。あれ」

「え?そうなの?そうは見えなかったけど、、、ほんと?」

「はい。良かったですね」

「う、うん?まあ、良かったけど、、、」


うねうねと近づいて来た魔族集団はとうとう外壁にまで到達してしまった。

四方にある外壁門はすべて閉じられている。

だから、王都内にはもう誰も入ってこれない筈だ。


「こ、国王!あの外壁の上!あれを見てください!魔族が外壁を乗り越えて来ています!」

「何故だ!外壁の外には深い堀があるだろうに!」

「はい!人の背丈より何倍も深い堀があります!外壁だって、4階建ての高さはあります!」


外壁の外側では何が起きているんだろうか。

意外と浮揚の魔術とかがあって、ぷかぷか浮いてたりして。


外壁の上では騎士団らしき人達が壁のこちら側に魔族が来ないように、必死で戦っている。

あれってもっと乗り越えてくる魔族が増えてくるんじゃないの?

あちこちで外壁を乗り越えて来るようになって来る。

このままじゃ、中になだれ込んで来て、王都は壊滅してしまうかもしれない。


「おい!リーンハルト!アレを何とかできんか?」

「何とかって、10万人でしょ?無理ですよ」

「そんな筈はない!お前なら出来る!お前はやればできる子なんだよ!」

「そんな、熱血教師みたいな事言うと逆効果になる生徒もいるんですからね?褒めれば育つ子にも色々あるんですから」

「分かった、分かったから、アレを何とかしないと、国民が危険にさらされる!お前が頼りなんだよ!」

「、、、分かりましたよ。まずは、あの乗り越えて来る奴らを何とかして、時間稼ぎするしかないですね」

「うむ。騎士団も防衛に当たっているが、ここから見る限りでは、そう長く保たないだろう。頼んだぞ!」

「はいはい。さあて、どうしようかな〜」


幾ら何でも、あの量を一人で何とかするとか、無理だよなあ。

ん?つんつんと袖を引っ張られる。

振り向くとシリカだった。


「ねえ。支援、必要かな?」

「え?支援?シリカがしてくれるの?」

「少しだけ。女神の支援、使えるから」

「それはありがたいよ。是非してくれる?」

「うん…………」


えっと。

見つめ合ってるけど、これで何かをしてくれているのかな?

ほうほう、女神って何も言わないでも魔法だかスキルだか使えるのか〜。

すごいな〜。


「あの」

「ん?あ、もう出来たの?」

「んーん。ここじゃ恥ずかしいから。あっちの人がいない所に行く」


あ、まだなのね。

ただ、恥ずかしがってただけか。

って、恥ずかしい事するの?!

ええっと、仮にもパパと呼んでくれてる人となんて、そう言うのはまずいのかなとか、そもそも年齢的にもいけないのかなとか、でも、あっちからいいよって言ってくれるんだからいいのかなとか。


「何でリーカも付いて来るのさ」

「だって、いやらしい顔してるから」

「べ、別に何もしないって。支援魔法をかけてくれるだけだよ」

「顔でアウトだから」

「むむ」


そんなにいやらしい顔してたかな。


「じゃあ、目をつぶって?」

「う、うん」


人のいない部屋に入って、シリカがくるっとこっちを向いてからそう言った。

眼をつぶって、する事?!


「ドキドキ」

「勝手に僕の頭の中の言葉を言わないでよ」

「言葉は当たってるんですね」


目をつぶり、シリカが何かをして来るのを待つ。

待つ。

待つ。

あれ?まだ?照れてるの?


「はい。終わったよ」


え?何もされてないよ?


目を開けて、リーカを見ると、ふっと笑われた。


「え?何?何されたの?」

「ふ、ふふ。何もされてませんよ?シリカがリーンハルトくんの目の前で手を組んで拝んだだけです」

「シリカ?!そうなの?」

「リーカ。言ったらダメだよ………恥ずかしい」


なんでそれが恥ずかしい事になるんだよ!

あ!いつの間にかウィンドウが表示されていた。


『女神クォンタムクアトロシリカの祝福が付与されました。

以下の効果が現れます。

クリソコラ、幸運度上昇

アズライト、予知能力

マラカイト、自然治癒、毒消し

クォーツ、能力増幅

残り、3600s』


これが、シリカの祝福って言う物なのか。


「あれ?何か4つ付いてきてるよ?それに、その中の一つはアズライトになってるし」

「いくつかの女神の力を集めて出来たのが私だから。クリソコラとアズライトはメイン素材」

「素材なんだ。でも、4種類の力を持つなんてすごいな」

「まだレベルが上がれば、細かい素材の能力も使えると思う」


へえ、まだ他にも女神の力があるんだ。

あれ?


「ねぇ、アズライトって女神なの?」

「そうだよ?女神アズライト」

「でも、あの子、今精霊だよ?」

「中身が女神でも、器となる肉体の能力が低いと天使とか精霊に格が落ちるんだと思うよ。鍛えれば女神になるんじゃない?」


なるほどね。資質はあるということか。

しかし、流石フィアをベースにしているだけあって、この辺の知識は豊富だね。


「あの、リーンハルトくん?」

「ん?何?」

「早く行かなくていいんですか?」

「あ!そうだった、、、。ちょっと行ってくる」


いかんいかん。ああ言った話しは面白くてつい長話しをしてしまうよ。


まずは、大急ぎで外壁に登ってきている魔族を追い払おう。

全速力で王宮から外壁の辺りまで走ろうとすると、街の中は人も居るし、道もまっすぐではないから、屋根伝いに行った方が早そうだ。


屋根から屋根へと飛びながら走り抜ける。

おお、能力増幅が効いているのか、いつもより体が軽く感じる。

それに、このアズライトの予知能力が面白い。


こうやって、高速で走っていると、随分先の景色が予知として、小さなウィンドウに表示されているのだ。

ウィンドウの下にある+を押すとさらに未来が見えて、ーを押すと近い未来になってくる。

一番近い未来に調整すると、だいたい1秒先の未来が見えているようだ。

最大の未来にすると、10秒くらいの未来が見えていた。

今は3秒くらい先にしておこうかな。


そんな事を試していたら、外壁に着いた。

もう少し遊んで、、、慣れておきたかったけど、これを片付けてからだな。

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