第百三十三話 S1

S1がこの倉庫の何処かにあるはずなのに、それらしい箱が見つからない。

何処にあるんだ?

少しでも大きめの箱があれば、開けて中身を確認してみるけど、やっぱり無い。



、、、、無い。

結局、倉庫内のそれらしい箱、全てを開けてみたけど、あの5体の人形族以外には見つからなかった。

一瞬それかな?と思ったのは、外部省の諜報局という部門の棚に人の形をした物があったけど、人形族ではなく、ただの人形だった。


後頭部を押しても動かず、見た目も美しい女性の顔や姿をしていて、紫色のドレスを着せられていた。

人形族と違って素材もこれは木製なんだろうか?

肌触りが硬く、塗料が所々剥げて木目が見えていた。

人形族なら初期設定前なら、何の素材だか分からないけど、もう少し柔らかで軽い物で出来ているはずだ。

アリアやアズライトのように、設定が終わって起動してしまえば、表面が変質して人の肌と区別はもうつかなくなる。


だから、この木の感触が見ただけで分かるこれは、本当に人形なんだと思う。

外部省の諜報に関係している部署がこんな物、何に使っていたんだろうか。

諜報って、つまりスパイ活動でしょう?

木製人形を使ってスパイをどうやってするんだ?


ああ、いやいや、その辺はとても気になるけど、今はそれどころじゃなかった、、、。

でも、これ以外に人の大きさの物はもう無いんだよな。

セラフの翼で判定して、ここにあるって出てるんだから、何処かに隠してあるのは確かなんだよ。


バラバラに分解してしまってあるとか、、、。

そんな事されていたら見つけるのは不可能だよな。

そもそも、分解していたら、セラフの翼でここに人形族があるって判断できるのだろうか。


アリアみたいにその人形族に乗り移れれば、自分がどこにいるのか分かるんだけどな。

その前に初期化が必要か。

あ、それなら、ここから初期化できないか?


後頭部のスイッチを押さなくても、初期化のウィンドウを開けないものだろうか。

そう言えばアリアは遠くからもスリープ状態を起こせたし、やってみるか。


「ウェイクアップシグナル、対象、近くのS1」


『ウェイクアップシグナルを送信します』


おお?上手くいった?

あ、ダメか、クルクル真ん中で回ってるのが見える。


『通信が切断されている為、シグナルを送信できませんでした』


ここで通信障害が邪魔になるのかよ。

くうう。きっとスファレライトのせいだよ!

アイツには会ったことないのに、所々で僕に嫌がらせをしてくるよな。

別に僕を狙ってやっている訳じゃないんだろうけど、こうしょっちゅう邪魔されると、この時のために通信障害を引き起こしてるんじゃないの?とか思ってしまう。


『高周波無線に切り替えますか?高周波無線の場合、1/2ハロンまでが通信範囲となります』


お?何だ?別の通信方法があるんだ。

1/2ハロンならこの倉庫がすっぽり入るから大丈夫だ。

やります、やります!


「あ、そうか、答えないとか。切り替えます!」


『高周波無線に切り替えて、ウェイクアップシグナルを送信します。ウェイクアップ成功。起動します』


やった。繋がって起動できた。



グラニット重工 S1


 かんたん設定 》

 カスタマイズ設定 》



ああ、でもカスタマイズは実物を見ながらじゃないと出来ないな。

もう見た目は諦めるしかないかな。

かんたん設定を選んで、とにかく自分で動き出して、目の前に出てきてもらわないと始まらない。


かんたん設定は5つの設定で完了するようだ。


1.性別 男 女 無し


これは、当然「女」を選択。

ここで「男」を選んだら、またフィア達の注目を浴びてしまう。

今度はS1だから、もっと美男子になってしまうかもしれない。

そこだけは断固阻止だ。


2.体型 中肉中背 大きめがっしり 小さめほっそり、、、


ここは色々あるみたいだけど、まあ、中肉中背でいいかな。


3.顔 サンプルからお選び下さい


いくつかある顔サンプルから、フィアとは違うタイプを選ぶ。

また、似させたと言われない為にも、柔らかい雰囲気の顔を選択する。


4.色 サンプルからお選び下さい


これも、いくつかのパターンから選ぶみたいだ。

肌の色と髪と瞳の色がメインになるようだ。

アズライトともアリアとも違っていた方がいいかな。

他にはいない赤い髪と赤い瞳にしてみた。


5.種族、職業 組み合わせからお選び下さい


これはかなりたくさんの組み合わせがあった。

でも、その中に女神や天使が無かった。

天人族も選択肢になかった。

どういう事だ?

S1なら女神に出来るんだよな?

ここは、ひとまず、種族を人族、職業は無しにしておいた。


とにかくこれで設定は終わったから、動かしてみよう。

、、、あれ?動かない?

どこかで動いているんだよね。

あ、そうか、最初にマスター登録が必要だったっけ。


「マスター登録、リーンハルト・フォルトナー」

「マスター登録完了」


うおっ!

どこからか声がした。

動いているのは確かなんだよな。


今、どこから声がした?


「おーい、声を出してくれないかな?」

「はい。テステス。ただ今、発声のテスト中。テステス。ただ今、発声の、、、」


素直に声を出し続けてくれている。


アズライトと違って、おとなしめの人格なんだろうか。

あ、まだ、クローニングはして無かったから、人工人格が入ってないだけか。


声をする辺りにはさっきの外務省の人形があった。

あれ?もしかして、この人形がS1なの?

でも、この辺りから声が、、、もう少し下?

あ!この箱上げ底になっていて、下にもう一つ空間があるぞ!

人形を箱から取り出して、上げ底になっている蓋を外すと、中からテステスと言い続けているS1が現れた。


「ああ、ここに居たんだ。こんにちは。初めましてだね」

「テステス。ただ今、発声のテスト中。テステス」

「ああ、もう発声テストは終わっていいよ」

「テスト終了」


人工人格が無いとこんな無機質な感じなのか。

これだと、ただ命令を実行する道具にしか見えないな。

見た目は流石にS1だけあって物凄い美人さんなんだけど、表情も無く視線も動かないから、機械のようにしか見えない。


さて、S1という最高機種が見つかったのは良かった。

このまま、付いてきてもらうのも目立つし、今はストレージに入っていて貰おうかな。

嫌がるかな。


「えっと、今からストレージに入って貰っても平気かな?嫌ならやめるけど」

「マスターの命令を受諾」


、、、、それで終わり?!

今の状態だと嫌だとか、良いとか、ないのか。


これは早くクローニングをした方が良さそうだ。


S1に触れてインベントリ経由でストレージに入っていて貰う。

服も今のボディースーツのようなのじゃダメだから、何かS1に似合うのは無いかな。

別に服屋さんで仕立てても良いんだけど、ここにあるのなら無料だからね。


S1と木製の人形が入っていた箱の隣に衣装ケースがあったから、中身を見てみると、やっぱりS1用の服だった。

いくつかあったから、全部貰うことにする。


この外務省の棚は面白そうなものがありそうなんだよな。

この箱とかちらっと見たら何かの道具っぽいものとか、宝石みたいなのがあるんだよ。

勝手に持っていったら怒られるかな。

クラウゼンさんにこっそり言ったら、良いよって言ってくれないだろうか。




地下倉庫は外に出ると自動で岩の扉が閉まり、鍵も勝手にかかった。

扉の板に書かれた文字を見ると、今度は「ここに来るまでに水滴が落ちた回数を入力すべし」と変わっていた。


毎回違うのかあ。

次来る時はここまで来る時に物凄く色んなことを気にしながら来ないといけなさそう。

出来ればもう来たくない所だな。


休憩中だったクラウゼンさんに人形族が無事見つかった事を報告してから家に帰った。




「た、ただいま帰りました」

「おかえりご主人。今回はもうみんなの許可を取ってるんだから、もうちょっと堂々としてていいのよ?」

「う、うん。そうなんだけど、やっぱり、ちょっとだけ恐縮しちゃうかな」

「今度は男子ですか?カッコいいですか?」

「女神にするのが前提なのだから、女子は決まってるわよ?」

「ああ、そうでした。ちょっと残念」

「みんな残念そうにしないでよ。そんなにあの男子の人形族が良かったの?!」

「冗談ですよ。皆んなリーンハルトくんが一番なんですから」

「それ絶対違うよね。僕は家族的に好かれてるだけで、男の魅力では無いんだよ。どうせ、歳下だし、背も低いし、ああいう大人っぽい男性の方が皆んないいんだよ」

「まったく、、、。自分の事は棚に上げてよく言えるわよ」


うう。いじけようと思ったら出来なかった、、、。


「今度もリーンハルトくんの好みバリバリの見た目なんですよね。もう、私、周りが可愛い子ばかりになって来るから、自信なくなってきちゃいます」

「今回は細かく設定するのが出来なかったから、既にある設定を選んだだけだよ。だから、僕の好みとかあんまり関係ないからね」


僕は何、言い訳を言ってるんだか。


リビングのソファの上にS1をストレージから出して寝かせる。

クローニングをする前に、職業と種族を変えた方が良さそうだ。

それには、僕一人だけだとマナが足りなくて命の危険がある。

アリアのステータスを書き換えた時も、あのままだったら死んでたと思うし、レリアのお父様やノインの冠の方々がいてくれたおかげで命拾いをした。


なので、今回は先に準備をしておく必要がある。

アリアも起こしてきて、この家の家族総出でマナ供給を手伝って貰わないと多分間に合わないだろう。


「これを先に飲めばいいの?」

「ううん。マナ弾を打ち込んで、マナが減ってきたら飲んで欲しいんだ。その後はずっとマナが減り続けるから、ステータスを見ながら残りが少なくなったら、また飲んでを繰り返すんだ」

「うわあ。お腹タプタプになりそうですね」


S1の前に僕が跪き、その周りを家族全員で囲む。

皆んなの手には、アザレアの水筒が一人一本ずつ収まっている。

当然、アリアも同じだ。


これで、皆んなからは僕にマナ弾を打ち込んで、マナ供給をしてもらう。


「ふふっ。これを見た人は何かの儀式でも始めるんじゃないかと思いそうね」

「まあ、女神を降臨させるんだから儀式って言っても合ってるんじゃない?」


よし、始めるか。


「セラフの翼 第六の翼 窓を破壊する者(ウィンドウブレーカー)」

「ぶふぁ。なんで私ばっかり当たるのよ。ご主人ったら好きな人に意地悪するタイプ?」

「ご、ごめん」


S1のステータスを開いて、職業に女神、種族に天人族と書き換えて、保存する。

ズンズンとマナが減っていくのが分かる。


「皆んな!マナ弾をお願い!」


仕事でいないレリアとレティ以外の8人からマナが送られてくる。

途中でマナが無くなった人から水筒でマナ補給している。

何だろうねこの光景。


「ただいま〜。今日は早く上がれたのよ、、、って新手の宗教でも始めたの?!」


ああ、レティが早めに帰ってきたのか。

リンはマナ欠乏状態でクラクラしているから、アリアから説明をして、水筒を渡し、マナ供給に参加してもらう。

お仕事で疲れてるのにごめんね。


流石にこれだけの人数でマナを送り続けて貰うと、マナは減らずに、いや、むしろ少しずつ増えて来ている。

もしかして、レティが帰って来てくれなかったら、少し足りなかったのかも。


S1自体の職業と種族の書き換えはもう終わったみたいで、後は僕が死なないように、減り続けるのが終わるのを待つばかりだ。

処理が終わってるのに、未だに僕のマナが減るって事は、何処かのマナを先に使って肩代わりしてくれてるのだろうか。

もしくはまだ、S1の内部で処理が動いているのかな。


「ま、まだ続くの、これ?」

「もう飲めないです、、、」

「ごめん、あとちょっとだとら思うから、もう少し頑張って!」


マルモとブロンは少し前にギブアップになった。

あまり小さい子には無理をさせられない。

その分、アリアはガブガブ水筒を飲みながら、ちょっときつめにマナ弾を送っている。

自分だから、ダメージギリギリの加減が出来る。

他の子達は、僕にダメージが入らないように少しだけ手加減してしまうのは仕方ない。


「あ、終わったかな?皆んなありがとう。上手くいったよ」

「ふぃ〜。結構大変だったわね〜」

「ここまで飲まされるとは思いもしなかったわ」

「ほ、ほんと、みんなありがとうね、、、」


僕は誰かを助ける人になりたいのに、最近助けられてばっかりな気がするな〜。

せめて皆んなのお腹を壊さないように、アザレアのリュックから胃薬を大量に出しておいた。

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