第百八話 占い師
グラースの町に宿を取り、お風呂にも入ってさっぱりとした。
ここも温泉宿で大きな露天風呂があるらしいけど、僕は男女どちらにも入れないから、部屋に付いている内風呂で我慢した。
まあ、贅沢は言ってられない。
「ああ、アリアちゃんの汗の匂いがなくなっちゃったあ!」
「だから、嗅がないでって!」
「くんくん。これはこれで、神聖な香り」
「ど、どれ、我も」
「うがあ!もういいから!女子もボクの匂い嗅ぐの禁止!」
ええー、という抗議は無視して、町の中をぶらぶらと散歩に出かける。
男共は2人で飲みに行ってしまった。
僕も一人で歩きたかったんだけど、3人とも付いてきてしまった。
「アリアちゃん、、、ど、何処に行くんすか?そっちは暗い路地裏っすよ?こ、怖いので、あっちの明るい方に行きましょうよう」
「3人はそっちに行ってて良いよ。ボクはちょっとこの辺りに用があるから」
「そうはいかないっすよ。私達はディアちゃんの護衛でいますけど、アリアちゃんの護衛でもあるんすから。それに、また問題に巻き込まれたらまずいので!」
「何か起こしそう」
「問題事に自ら飛び込んでいくスタイルだな」
いつの間にか僕の評価が自爆キャラになってるのか?!
まあ、自覚もあるけどね。
反論も出来ないので、4人で路地裏を探索する。
さっき町に入るときに守衛さんに聞いた場所はこの辺りだと思うんだけどな。
「あ、あそこのがそうかな」
路地の一角に占い屋がずらっと並んでいる通りがあった。
殆どが路地に机と椅子を置いて、小さな看板を立てているだけのシンプルな占い屋ばかりだ。
路地に面した家を改築して、占いの館みたいにしているところもあった。
「おお。占いっすか。良いですね。こういうの大好きっす!」
「色々ある。手相、星座、カード、、、」
「ほう。こういうのは初めてだな。魔法で予知するのか?」
「違うっすよ!魔法で占えるのは魔女だけです。それ以外の人は法律で禁止されているんです。そして、魔女はもう絶滅してしまったんすよ」
絶滅って、、、。珍しい動物じゃないんだから。
でも、カティの言う事は正しい。
かつて、魔女と呼ばれる人達がいた。
その名の通り魔法を使う女性、という事なんだけど、それだけなら、カティもユーリもディアだって魔法が使える女性なんだから、魔女になってしまう。
あ、僕もか。
でも、魔女の定義としては、もう一つあって、魔法が使えない人でも魔法を使えるようになる道具を作れる、というものがある。
これは、恐らくそういうスキルを持つ人の事を魔女と呼ぶようになったんだろうけど、何年も前に最後の魔女と呼ばれる老婆が亡くなってからは、もうこの世には魔女は居なくなってしまったと言われている。
それまでは、その魔法を使える道具、魔法器とか単に法器とか呼ばれるものが軍で重宝がられていたため、魔女と言えば軍の裏の武器庫という悪名が付いていたりもした。
カティの言葉を借りるなら、魔女はもう絶滅してしまった筈なのだから、普通に考えればこの占い屋さんの集まる路地にも魔女がいるわけでは無いのだけど、でも、僕はここに本物の魔女が居ると考えている。
何故なら、あの魔女の指輪があったからだ。
あの指輪の効力を知っている上で、商人のおじさんを唆して指輪をあげた人物が魔女アーデルハイト本人なんじゃないかなと思っている。
もし、本人を見つけたら、一言言いたい事がある。
その為に、こうやって占い屋さん街に来て、探しているのだ。
「それで、魔女の格好を真似た占い師さんを見つけたいんすね?あれ?そういう人の話、何処かで聞いたような」
「それが、さっきの商人さんの話に出てきた占い師だよ」
「そんな話してましたっけ?」
「………いや、良いんだ、ボクが悪かった」
「ちょっ、諦めないで下さいよう」
占い師さんは殆どが女性であり、その格好は全身黒ずくめで頭には何か布の様な物を載せている。
色が多少違っていたり、たまに男に人もいるけど、まあ、だいたい似たような見た目をしていた。
だけど、その人は他とは違っていて、いや、怪しさからいったら大して変わらないんだけど、見た目の特徴としては違いは分かりやすかった。
まず、真っ黒な鍔広のとんがり帽子を被っている。
これまた真っ黒なマントを羽織り全身を包んでしまっている。
髪の色は銀の糸で出来ていると勘違いしそうになるほど細く綺麗な銀髪がマントに流れている。
占いをする椅子に座り、俯いているから、顔までは分からない。
机を挟んで反対のお客用の椅子に座ってみる。
「こんにちは。占い、いいですか?」
「いらっしゃい」
顔を見るとお婆さんと言っていいくらいの年齢の女性だった。
あれえ?思ってたのと違ったな。
勝手に美少女を想像してただけなんだけど、まあ、現実はこんなもんだ。
「何を占うかね?」
「じゃあ、ボクの恋の行方を!、、、じゃないな。ボクの未来の運命がどうなるか、でどうかな?」
「ほう。なかなか、難しい事を言うね、お嬢ちゃん」
「無理?」
「いんや。見てあげるよ。お代は先だよ。金貨5枚ね」
「うわっ高っ!アリアちゃんダメっすよ!ここボッタクリですって!ってもう金貨出してるう!」
カティは何を一人で騒いでいるんだ?
金貨5枚、つまり50万フォルクをかちゃかちゃと机に出す。
それを見てカティもそうだけど、ユーリも占い師さんも驚いた顔をしている。
ユーリは分かるけど、占い師さんは自分で言った額なんだから、なんで驚いてるのさ。
ディアは流石王族、これくらいの金額ならなんとも思わないようだ。
僕も高いなあとは思うけど、勲章の報奨金や軍からのお給料が殆どが手付かずで溜まりまくっているから、金銭感覚がかなりおかしくなっているのは確かだ。
「それは高いのか?フォルクの価値が分からぬのだが、昼飯一回分くらいなら安いのではないのか?」
いや、ディアはそもそもフォルクを使った事が無かったのか。
でも、昼飯と同じって、何と間違えてるんだよ。
金貨と大銅貨は色も大きさも全然違うだろうに。
カティの、宿3ヶ月分くらいですよ、という説明に目を見開いていたから、ディアも金銭感覚は庶民並みのようだった。
「おほん。まあ金を払うなら見てあげるよ。まったくこんな客初めてだね、ぶつぶつ、、、」
ほう、この人も声に出してぶつぶつというタイプか。
僕と同じ、同志だ!
なら、僕も!
「わくわく」
「アリアちゃん?どうしたんすか?」
「どきどき」
「壊れた?」
「失敬な。これが待ちの作法というものなのだよ」
占いはそれっぽく、水晶玉に手をかざして、なにやらぶつぶつと呟いている。
あ、マナが動いているな。
エメラルドグリーンに色付いたマナが水晶玉から伸びて占い師さんに繋がり、そこから更に僕にも繋がってきた。
ふっとそのマナの繋がりが消える。
これで、占いが終わったんだろうか。
あ!そうだ。これをやっておかないと。
(セラフの第一の翼、目の前の占い師さん)
小声でウソ発見器魔法を起動しておく。
嘘を見抜く目的でもあるけど、指輪の時みたいに見えない攻撃を仕掛けてくるかもしれないから、先手を打っておく。
「出たよ。お嬢ちゃんのこれからの運命だけどね。あんた何者なんだね。勇者に英雄に王様、何でもなれる運命を持ってるね」
おお、すごいな、合ってるよ。
英雄はもうなってるけど。
あ、でも勇者になる運命はリーカに渡しちゃったから、僕にはもう無いんじゃないかな。
「だが、あんたはどれも選ばないね。どれも面倒だからって馬鹿みたいな理由で辞退するよ」
「やけに具体的だね。占いってそこまで見えるものなの?」
「ああ、本物の占いならね」
「つまり、魔法で占ってると?」
「知ってるのかね。その歳で珍しいねえ。そうさ、これは魔法の占いだよ」
「じゃあ、魔女なの?」
「ああ、そうだよ。信じられないだろうけどね」
今の時点でセラフの第一の翼は反応していない。
という事はこの人は本当に本物の魔女なのか。
「魔女ってもう居なくなっちゃったんじゃないの?」
「ああ、最後の魔女の事かい?あれは私の祖母だよ。最後の魔女の娘は魔女の資格が出なかった。だから、もう魔女は最後の魔女で終わりを迎えたって思われてたのさ」
「でも、その娘にも子供が生まれて、その子が魔女の素質を持っていたと」
「ああ。それが私さ」
嘘はない。
全部、本当の事のようだ。
『警告!第一の翼を相殺する攻撃を受けています。アクセス元は魔女アーデルハイトと断定』
やっぱり仕掛けてきたか。
そして、この目の前の占い師さんが魔女アーデルハイトで間違いなさそうだな。
「な、何よこれ!何で私の解析魔法が弾かれるのよ!」
ん?話し方変わったな。
何だか、急に元気良くなったというか、、、。
「ねぇ、占い師さん。あなたって、歳はいくつなの?」
「な、何を言っておるのかのう。私は今年で80だじょ」
『第一の翼が対象の嘘を感知しました。対象名、魔女アーデルハイト。内容、[私は今年で80だじょ]以上、1点』
名前は確定、魔女なのも確定。そして、この見た目の歳じゃないのも決まりだね。
もう、いっそのこと、この人のステータスを見てしまってもいいんだけど、こっちの手の内は出来るだけ教えたくないから、それは最後の手段にとっておこうと思う。
何となく、こっちが防いだのを検知出来ているのと同じような仕掛けを、あっちもしていると思うんだよね。
こっちから仕掛けに行くとバレそうだから、ここは慎重にいきたい。
「ところで、こんな物を入手したんだけど」
そういって、魔女アーデルハイトの指輪を取り出す。
「そ!それ私の!あ、いや、私が旅の商人に差し上げたものだのう」
『嘘です。[私が旅の商人に差し上げたもの]』
「取られたんでしょう?」
「何で知ってるの?!あの商人がそう言ったの?」
「さあ、どうかな?」
「ねぇ、それ返して!それが無いと商売あがったりなの!」
「話し方、素になってるけど」
「ぬお。か、返して欲しいじゃのう!ねぇ返して!」
なんだか僕がいじめてるみたいになってきちゃったな。
返してあげるか。
「はい、どうぞ」
「へ?いいの?ホントに?もう、返さないわよ!私のだからね!え?ホントにいいの?」
「うん、いいけど、、、もうその話し方にするんなら、見た目も戻したら?」
「なぬ!バレてんの?!あれえ?おっかしいなあ。アーデの魔法は完璧な筈なのに」
ん?この子がアーデルハイトじゃないのか?
「ねぇ。キミの魔法は完璧だよ?見た目だけなら絶対老婆にしか見えないから大丈夫」
「ホント?やったあ!アーデ褒められたこと無いから嬉しい!」
ああ、自分のこと、アーデって呼んでるのか。
「キミ、アーデって言うのかな?」
「ぬおあ!なななな何でアーデの名前しってるの!?あなたももしかして、魔女ッ子なの?!」
「え?何?何だって?魔女ッ子?」
「知らないの?子供の魔女だから魔女ッ子よ?イケてる女子ッ子は魔女ッ子って言うッ子よ?」
どうしよう。関わらなかった方が良かったかな。
ちょっと後悔し始めている。
後ろに立っている女子3人も話についていけず、口を開けて固まってしまっているようだ。
「アーデって自分で名乗ってるよ?本名はアーデじゃないんでしょ?」
「ア、、、、、、、、アーデよ!」
『嘘です』
もう嘘発見魔法も手を抜く程、分かりやすい嘘だ。
「じゃあ、ハイジちゃんって呼ぶね?」
「にゃああああ!やめてえ!その呼び方嫌なのー!」
「何で?可愛い愛称じゃないのさ?」
「とにかく嫌なの!山の上の方に住んでそうだし!アーデルハイトよ!アーデの名前!」
「うん。ボクはアリアージュ・ミヌレ。アリアって呼んでね。ハイジちゃん」
「ふんぬー!アーデ!アーデの事はアーデって呼ばないと、、、、泣く!」
うわあ、やり過ぎた。
もう半泣き状態だ。
「ごめんごめん、アーデって呼ぶね?」
「ぐすん、ぐすん。うん。アーデはアリアって呼ぶ」
「うん。ありがと。後ろの3人は、ディア、ユーリ、バカティアね」
「違うっす!カティアっす!」
「バカティ、、、?」
「カティって呼んでください!お願い!変な呼び方で覚えないで!」
「あははっ!面白い人!」
よ、良かった、危うくを泣かせるところだった。
いや、うん、泣かせてないよね?ダメかな。
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