第百九話 ご先祖様
アーデが落ち着いて来たので、場所を変える事にした。
ちょっと騒ぎ過ぎたので、他の占い師さん達に睨まれてしまったからだ。
路地裏を出て、近くのカフェに雰囲気の良いテラス席があったので、そこに5人で座った。
「すみません。メニューください」
店員さんがメニューを持ってくると、皆んな食い入るようにメニューを読み始める。
「甘いの、、、食べたいっすよね?アリアちゃん?」
「え?いや、別に、、、ボクはクロックムッシュとかでいいかな」
「そ、そんなあ!アリアちゃんが食べないのに、私達だけ食べるなんて出来ないっすよう!」
「そんな縛り無いよね?食べ物くらい自由でいいんじゃないかな?」
「ダメなんですう、、、。勝手に甘いの食べたら怒られるんですう」
「カティアは任務中によくスイーツ食べ歩きをして、何度も怒られてる」
自業自得じゃん。
「分かったよ。ボクも食べるなら、いいんだね?」
「はい!はい!アリアちゃんもディアちゃんも食べるなら、違和感が出ないように同じようなものを食べて良いと言われておりますです!ビシッ!」
ああ、こんなにキレのある敬礼見たこと無いなあ。
しょうがないか。何か甘さ控えめな物を選ぶとしよう。
でも、メニュー見てもマルブランシュのケーキはよくわかんないな。
皆んなは悩みながらも、すぱすぱと決めて行く。
うわどうしよう。
「ああっと、じゃあこれください」
どんなのか分からないけど、まあ、変なのは来ないでしょ。
「甘い〜、、、。何これ、砂糖のかたまり食べてるみたい」
「そういう伝統的なケーキは結構甘いっすよね。最近のは軽くて甘さ控えめなのが出て来てますけど。アリアちゃん甘いの苦手なんすか?」
「うん」
「何故それをチョイス」
「分からなかったんだよ」
「我のと交換するか?これはあまり甘くないぞ?」
「ううん。平気。ありがと。す、すみませ〜ん。カフェイン抜きのエスプレッソくださ〜い」
もう苦さで中和するしかない。
「アーデは何でこんなに野菜食べてるんだろう、、、」
アーデはお金がないという理由でサラダを頼んでいた。
別に僕が出すよって言ったんだけど、サラダが食べたい気分だからって言って、それを注文していた。
やって来たサラダは想定以上のサイズだった。
なんかもう、馬の食事?ってくらいボウルに山盛りのサラダが来て、アーデは顔半分埋まりながら、もしゃもしゃと食べていた。
「食べても食べても減らない、、、」
「ね、ねえ!ボクのと交換しないかな!」
「い、いいの!?だって、それすごい高いケーキ、、、」
「いいのいいの!お互い無理して食べる方がもったいないよ!」
「そ、そう?それなら、交換する!」
助かったあ!
あの砂糖丸かじりより草食んでた方がよっぽどいいよ。
「そう言えば、お金無いって言っても、さっきの金貨があるじゃないのさ」
「あれの行く先はもう決まってるの」
「えっと、借金って事かな?」
「ふっ、借金って額が小さい時はビクビクしてたけど、ある金額を超えると、急に気持ちが楽になるの。金貨なんていくつあってもすぐ無くなる物って最近思えるようになって来たし」
それは、自慢気に話す事なのだろうか、、、。
「その指輪は、あの商人のおじさんにあげたんじゃなくて、取られたのかな?」
「取られた、、、んじゃ無くて、持っていかれたの」
「同じじゃ無いの?」
「ううん。おっちゃんが試してみたいっていうから貸したんだ。色々試していたら欲しくなっちゃったみたいで、欲しい欲しいって言ってたんだけど、一個しかないしダメって言ったの」
「ふんふん。それで?」
「この指輪は私にぴったりだ。こんな相性のいい物は他に無い。だから、これはもう私の物といってもいいんじゃないか、、、とか、そんな言い方だったかな。そしたら、その後はよく覚えてないけど、最後には、それはおっちゃんのものだあ!ってアーデも言ってた」
な、なるほど?
何でそこからあげるってなるんかな。
あ、あげるんじゃ無くて、もうおじさんの物っていう話になっちゃったのか。
私の物といってもいいんじゃないのか?から、私の物だ!までが話の中で変化していったのか。
それで、指輪してたからその効果でアーデもその言葉をそのまま信じちゃったんだ。
やっぱり厄介な指輪だな。
まあ、持ち主に戻ってよかったよ。
最初はそんな指輪をホイホイあげないようにって注意しに来たんだけど、別の注意が必要だね。
「アーデ。キミはこの指輪の話はもう誰にもしたらダメだよ?」
「もうダメ?」
「うん。話の流れによっては、また同じように取られちゃうし、その人が悪い人だったら、他の物も全部取られちゃうよ?」
「そ、それはダメ!!ホーキが無くなったらアーデは魔法が使えなくなっちゃう!」
ホーキ、、、魔法器の事か。
それが無いと魔法が使えないって、言う事はアーデは魔法が使えない?
あれ?もしかして。
「ねぇ。アーデ。魔女って皆んな魔法が使えなかったの?」
「そんなの当たり前だよ。魔法が使えないから、使えるようになりたくて、ホーキを作ったんだもん」
「つ、つまり、キミのお母さんって」
「うん。魔法が使えたから、魔女じゃなかったの」
そっかあ。魔法を使える魔法器を作れるのが魔女の資格なんじゃ無くて、魔法が使えなくて魔法器を生み出せるのが魔女の条件なのか。
僕のスキル作成スキルとステータスウィンドウが共存出来ないのと同じで魔法そのものと魔法器作成スキルが同時に習得できなかったんだろう。
「でも、キミは魔法器で上手く稼げていないみたいだね。借金いっぱいあるんでしょ?」
「最後の魔女が亡くなって、魔女がもう居ないってなってから、皆んなホーキ離れになったの。ホーキは消耗品だから、もう作れる人が居ないなら、アテにできないって、他の魔道具とかに軍とかもどんどん変えてっちゃって」
今更魔女が居たと分かっても、もう変えてしまった物をわざわざ戻す必要もないと言うわけか。
その魔女もたった一人しか居ないなら誰も余計なリスクは取らないよな。
「だからもう前みたいに、、、おばあちゃんがやってたみたいに稼げそうにないの。だから、魔女のご先祖様に会いたいんだ。その人のお陰で、魔女でも魔法で生活できるようになったんだけど、できればもうちょっと稼げるホーキが欲しいなって。それをちょいちょいってご先祖様に教えてもらいたいんだ」
たまにこの子は意味不明な事を口走るよな。
ひょっとして、危ないポーションでも飲んでるの?!
「ご先祖様に会うって、死んで?」
「死んだら会えないよ?」
「そ、そう。そうだよね〜。女神と会うのとは違うよね〜。えっとそれじゃあ、、、あ、時間を遡るとか?」
「そんな事できるの?アリアってスゴイんだね」
「くっ、、、。負けるなボク。それじゃあご先祖様ってどこに住んでるのかな?隣町とかだったりして〜」
「フォルクヴァルツ王国って所に住んでるって聞いた事あるの」
本当に実在するんかい!!
あれか!ご先祖って珍しい家名でもあるのかいね!!
「えっと、そのご先祖様って、い、生きてるのかな?それとも、死者蘇生とかで動いてるの?」
「アリアってたまに変な事言うよね。もう少し勉強とかした方がいいと思うよ」
「そ、そうだね〜。うう。ディア〜。ボク頑張ったんだよ〜」
「う、うむ。アリアちゃんは悪く無いと思うぞ?」
「そ、そうっすよ!私も意味分かんないんで同じっす!」
「バカティアと同じとか、、、、」
「気をしっかり」
「あれ?余計落ち込んだ?!」
まだ、諦めたらダメだ。
よく考えるんだ。
カティと同じになんてなったらいけない。
「あ、そうか、長生きな種族なのかな?」
「うん?まあ、そうかな。アーデは今年で852才だし、長生きな方かな?」
「充分長生きだよ、、、魔女って長生きなんだね」
「魔女だからじゃなくて、アールブ族が長生きなんだよ」
「アールブ族?えっと、、、何処かで聞いた事があるような、、、何だっけ、、、」
最近のようなずっと前のような、、、。
アーデのシワシワの顔を見ながら、思い出そうとするけど、思い出せない。
まだ、記憶に曖昧な部分があるんだろうか。
二体分の記憶容量があるんだから、足りてるだろうに。
シワシワ、、、。
「ねぇ。そろそろ、元の顔を見せてくれないかな?その話し方で、ずっとおばあちゃんなのは違和感バリバリだよ」
「ふえっ!ちちち違うもん!これがアーデのホントの顔だもん!」
そんなに顔を見せるのが嫌なのかな?
丁度、お昼の休み時間だしリンの方で少し調べてみようかな。
「ねぇ、リーカ。魔女ってどういうのか聞いた事ある?」
「魔女ですか。そうですね。おっきな鍋をグツグツ煮ていて、うひひひ、って鍋をかき混ぜながら笑うんです」
「随分偏りのあるイメージだね、、、。他にはある?」
「それから、ホウキに跨って飛んでたり、あとは、、、変なポーション作ってたりとかでしょうかね」
まあ、そんなもんか。
「魔女がどうしたんですか?また、増えるんですか?」
「フィアみたいな事言わないでよ、、、。いま目の前にいるんだけど、シワシワのおばあちゃんだよ。歳も相当上みたいだし」
「あ、それなら、問題ないですね。リーンハルトくんにしては、珍しく守備範囲外の人と知り合ったんですね」
「別に僕の趣味に合う人以外とは仲良くならない訳じゃないからね」
今回だって、実際シワシワのおばあちゃんだし?852歳とかかなり年上だし?嘘は言ってないよ。
「あ、そうそう、アールブ族とかって言うのも聞いた事あるかな?」
「まだ記憶、全部戻ってないんですか?アールブ族って言ったら、ミスティルテインさんの種族じゃないですか!たった一人の生き残りですよ!」
あれ?そんな名前の種族だったっけ。
いかんな。
思い出せない。
他にも忘れている事があるかも知れないな。
「ミスティ。ちょっと話しをしてもいいかな?」
「構わぬ。いや待つのだ。告白なら校舎裏に行くべきでは。もしくは、正門にある、あの大きな木の下ではないのか?」
「告白じゃないからここでいいかな?魔女のアーデルハイトって知ってる?」
「告白ではないのか、、、、。そのような名前の者は知らない」
「えっと、、、。違うのかな。でも、ミスティはアールブ族なんだよね」
「いかにも」
「そのアーデルハイトもアールブ族らしいんだけどさ」
「アールブの民は我一人しか残っていない。他にはいない、、、、筈!」
そう言えばそんな事を言っていたな。
「アーデはアールブ族なんだよね?」
「うんそう」
「ミスティルテインさんって知ってる?」
「それがご先祖様!アリア知り合い?」
「うん。やっぱりそうか。何でミスティの方は知らないんだ?」
「ミスティ、、、、。アリアはご先祖様と結婚したの?」
また変な事言ってるなあ。
あれ?それとも、同じ名前の別人だったり?
「ミスティ。やっぱり、知り合いみたいだよ。アーデとかハイジとか聞き覚えない?」
「うーむ。済まない。知らない名前。アールブの民の名でもない。どっちかって言うとフォルクヴァルツ人」
そう言われるとそうなんだけどさ。
やっぱり、名前が同じ別人なんだろうか。
「魔女と言えば、200年くらい前の封印されるちょっと前に人族の持っている『真実の書』を盗んで、そこに載っているいくつかの技術を魔女に教えた。確かその者の真名は終焉の追跡者」
それは名前なのか?!
というか、昔から色々やらかしてるな、ミスティは。
「盗んだって、人族に怒られなかったの?」
「見つかって、しこたま怒られた。正座5日間はキツかった」
そんなんで許されたのか。
「えっと、アーデ。し、終焉の追跡者って名前知らない、、、よね。いや、いいんだ、何でもない」
言ってて恥ずかしくなる名前だ。
「それ、おばあちゃんの名前だ!何で知ってるの?」
「本当に名前だったよ、、、、。ミスティに聞いたんだ。それじゃあ、なんでアーデの事は知らないんだ?」
「アーデはご先祖様には幻夢の堕天使って呼ばれてた」
そう、ですか。
これ、あっちでボクが言わないといけないんだよね。
なんて辱しめなんだ。
「ミスティ、、、、。えっと、げ、、、、幻夢の、、、堕天使って知ってる?」
「おお!懐かしの真名!我が主人は幻夢の堕天使を知っているのか?」
「それで普通に呼ぶんだね。恥ずかしがった方が負けだなこれは。そう、ようやく繋がったよ。幻夢ちゃんとはさっき知り合ったばかりだよ」
「さっき?ここにいる?」
「あ、いや、さっきって言うか、ちょっと前に、、、かな?それよりさ。また、魔法器の使えそうなのを教えて欲しんだって。何か良いの無いかな?」
「ま、魔法器、、、だと!?」
うっ。
何かマズかったか?
真実の書絡みだし、魔女って言うのも、秘密が多いみたいだし、あまり首を突っ込むと、僕が消されてしまうかも、、、。
「魔法器、、、って何?」
「知らないのかよ!!魔女の道具の事だよ!ホーキとかそう言うの!」
「なんだホーキの事か。初めからそう言えば良いのに」
この話の通じなさは、アーデと同じだ。
やっぱり二人とも同じ種族で間違いなしだよ。
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