第百六話 二人二役

「さあ、学校に行きますよ!」

「うぇ。いいよ、行かなくても」

「そんな訳には行かないです!元気なんですから、行きましょう!」


リーカが学校に行こう!行こう!と張り切ってる。

今はアリアの方が旅をしてるから、リンの方は休みでもいいと思うんだよなあ。

それにさ、今更気づいたんだけど、もう学校に行く理由も無くなっちゃってるんだよ。

入学した目的の勇者は目の前に居るんだし。

面倒だからもう学校辞めちゃおうっかな。

と、思ったけど、、、フィアが学校行きたいのに、行ける僕が行かないのは、悪い気がするから、やっぱり行くか。

早くエルツの立場が良くならないかな。


フィアとだったら一緒に登校したいもんだね。

いやほら、リーカと一緒というのも楽しいんだけどさ。

フィアと同じ制服を着て一緒に登下校って、、、良さそうじゃない?

それに、マルモやブロンも初等部に行かせてあげたいし、ラナだって上の学年に行くのもアリだと思う。

皆んなで学校に行くって言うのを目標にするなら、まだ学校に通っていても良いかな!

よし!行くか!


「うぃー。じゃあ行くかあ」

「あれ?さっきまで凄いやる気のある顔してませんでした?一瞬でやる気が消え去りましたね」

「行こうとは思うんだけどね。面倒なのは変わらないから」

「行ってしまえば、楽しくなりますって!」

「うう。、、、行ってきまあす」

「いってら〜。だらけて歩くと危ないわよ〜」

「お気をツケテ〜」


リーカと学校に向けて歩くけど、これ、結構大変だぞ!

歩きながら、リーカと会話をしながら、あっちでは、馬車の中でディア達とも会話をする。

ほぼ同時進行で二人分の動きをしないといけないんだから、頭使いそうだ。





「あ、もうトリーアの町が見えてきたっすよ!やっぱ早いっすね!馬さんも全然疲れて無いっぽいっす!」

「むしろ、私達が疲れた」

「うん、お尻痛いね」

「流石にこの速度で走りっぱなしはきつい物があるな」


半日程度でトリーアまで着いてしまった。

まだ、往路で、しかも、今回は最初からステータスをいじって、疲れ知らず、怪我知らず、で来たから効率よく来れたようだ。

馬もやり甲斐があるらしく、休憩しようとしてもすぐに走ろうと催促してきたくらいだった。


女の子4人はちゃん付けで呼ぶ作戦が成功して、最初の頃のぎこちなさが無くなった。

カティちゃんもユーリちゃんもディアの目を見て話せるようになったし、ディアから話し掛けても緊張もせず、和やかな雰囲気で会話出来るようになった。


御者台にいる、ファルコさんとヘルマンさんがたまに後ろの様子を伺っている時に羨ましそうな顔をしていたけど。


トリーアの町に入り、ここから向こうはマルブランシュ共和国になる。

出国手続きやら、買い出しやら時間がかかるので、今日はこの町に泊まることになった。


「それでも、1日でここまで来れてしまったのは、とんでもない早さなんすよ」

「料理、作る暇なかった」

「アリア様。俺は宿を手配してきます。ヘルマンは馬車を停車場に止めてきてくれ」

「あいよー」


男二人は手続きに行っている間、少し暇になってしまった。


「アリアちゃんお腹すきましたっすよね?顔に出てますよ!お腹空きすぎーって」

「まあ、減ってはいるけど。カティはボクのせいにして食事したいだけなんじゃないの?」

「えへ。バレました?そしてついに呼び捨てになりましたっすね?」

「うん。なんかこう、話しているうちに、バカティアって感じが、分かってきたからね」

「ええ、ひっどーい!ユーリちゃんと同じ事言ってるー」


やっぱりそう思ってたのか。

ユーリはカティとずっと同じ部隊だったそうだから、苦労してそうだな。


「あれ美味しそう!ポテトにチーズ!」

「ポンフリ。食べよう」

「揚げ馬鈴薯か、食した事はないが、ずっと気にはなっていた!」


女子3人はポンフリとかポメスとか呼ばれているフライドポテトにチーズをかけた物を食べに行ってしまった。

女の子なら甘いもの!とか思ってたんだけど、違うのか!

やはり分からんものだ。

父さんの苦労話しが今になって実感してきているよ。


「ほら、アリアちゃんも食べましょうよ!」

「あーん」

「いや、自分で食べるよ」

「これは止まらんな」


ここは観光地って程でもないから、女子4人でキャッキャとお喋りしながら、食べ歩きしているのは目立ってしょうがない。

周りはどっちかって言うと、商人とか本格的な旅人が多い。

なので、僕たちは、何だこいつらは的な視線を浴びていた。

でも、この3人はそういうの気にならないみたいで、僕だけがコソコソとしている。


「あんら!聖女様じゃないの!」

「おう!本当だ!聖女様!また腰を見てくんないかな」

「聖女様がご降臨されたぞ!」


またかっ!

まずいぞ。そう言えば即席治療院を開いたのはこの町だった。

一日中、お爺ちゃんお婆ちゃんの腰痛や神経痛を治していたのを思い出してしまった。


「き、今日は別の用事で来てますので、また次の機会に」

「ええ〜聖女様お願いしますよ〜。腰痛くってしょうがねえんですよ」

「虫歯になっちゃって、食べらんないのよ」

「彼女が出来ないんです。イケメンにしてくだせえ」


うがああ、もう!


「分かったから。分かりましたから、ちょっとお静かに。また大騒ぎになるようなら、中止しますよ?時間がないからここにいる人だけです。イケメンはあきらめて」


皆んなでしーっしーっと言い合いながら、コソコソと集まりだす。

それでも、かなりの人が集まってきている。

まずいまずい早くしないと、今度は人だかりで気付かれてしまう。


翼は非表示にして、しかも、第六の翼で治しちゃえ。

治すのと同時に腰痛の人にはスキルに「腰痛知らず」を追加する。

虫歯なら、「虫歯知らず」だし、なんでも「知らず」を付けてスキルに入れちゃえば、この先ずっとその事で困る事は無くなるだろう。

状態に書いても同じだけど、そっちは回復魔法でリセットされそうだから、スキルにの方が確実だと思う。

スキルは回復魔法では変化させられないからね。


しかも、回復魔法より文字を書き換えるだけだから、治すスピードもこっちの方が早いな。

病気や怪我の種類や程度によっては、1分とか、下手をしたら10分とかかかって治す場合もあるけど、ステータスを書き換えるなら中身に関係なく同じ速度で治せる。

ただ、その分これはマナの消費が半端ないんだよな。


マナが足りるかをステータスでチェックしながら、次々と治していく。


「うおおお!やっぱ凄いな聖女様は!!あっという間に治っちまったぜ!!」

「しーーっ!声、大きい!」


もうやめてよね。

その声でまた気付いた人が列に並んじゃうじゃないのさ。


「アリアちゃん?何してるんすか?新しい宗教?」

「違うよ!!カティ、これ何とかして!」

「うわっこれをっすか、、、。えっと、、、。そのセリフはつまり、、、自分はいいからキミは逃げろ!的な?」

「何でだよ!逆だよ!ボクを置いて逃げたらもう話してあげないからね!」

「そ、それは嫌っす!はーいはいはい!皆さんこのお方はもう行かないといけませんので、ここで終わりにさせてもらいますね〜。いいえ、ダメっす!このお方は本当はとっても偉いんすよ?いえだからその待って押さないで、うわあああ、ちょっと!ア、アリアちゃん、助けてえ!」


やっぱりダメか。

バカティアならこんなものだな。


「国王様より特命を受けている。これがその書状。これに邪魔立てをするなら反逆とみなす」


ユーリが何か羊皮紙を見せながら、そう周りに話す。

それを見た人々は流石に国王に逆らおうとまでは思えないらしく、すごすごと引き下がって行ってた。


「ありがとう、ユーリ。そんな国王との書状なんてあったんだね。助かったよ」

「これ、家の近くにある、温泉施設の会員証。それっぽいから見分けつかない」


そ、そうですか、、、。

堂々と出せば、案外気付かれないものだな。


「お待たせしました。って何かあったんですか?」

「宿も取れましたぜ。なんか行列できてましたな」

「ううん。何でもないから、平気平気。さ、宿に行こ」


ファルコさんとヘルマンさんと合流して宿に入る。

後で外に出るときは変装でもしておこうかな。


「ふぃ〜。やっと落ち着いたあ」

「やっぱ我が家が一番っすねぇ」

「それは家に帰った時のセリフじゃないのかな?」

「やっぱりバカティア」

「ふむ。これがこの国の宿か。なかなか面白いな」


そういうディアはつまり今までこの国では宿にも泊まらず野宿で過ごしてきたんだろうか。

いいのか?一国の王女がそういうので。

まあ、他国までたった一人で来ちゃってるんだから、それどころじゃないんだけど。


「あれ?ファルコさんとヘルマンさんが居ないね」

「そりゃあ、男性は別の部屋すからね。男女同じ部屋とかあり得ませんって」

「ああ、そうか、そうだよね。あはははは」


はははは。

まずいまずいまずいまずい!!

僕、男子だよ!!

1日でここまで来ちゃったから気付かなかったけど、泊まりがあるなら、この姿はまずいじゃん!

このままだと、僕はこの女子部屋で寝ることになる。

カティもあり得ませんって言うくらいなのに、これだと、女装して潜入してるみたいじゃないか!

だからって、このまま男性の部屋に行くのもおかしいし、それにこの姿であっちに行くのは、僕がとても嫌だ。


これ詰んでない?!


もう僕の正体をカティとユーリにバラしてしまうか。

ディアは僕の事を知ってるだけに秘密にしたままというのもダメだ。

中身が男だと知って貰ってもう一部屋取ってもらうか。

もうこの際だから自腹でいいし!


「あのさ、、、今まで黙っていて悪いんだけど、、、そのあの、、、ボクはさ」

「分かってますって!」


え?分かってるの?

もしかして誰かにもう聞いてたの?

何だよ早く言ってよ〜。


「アリアちゃんはちゃんと隣のもう一部屋っすよ。宰相様がそのようにしなさいって。アリアちゃんはすごくデリケートな性格だから、誰かと寝泊まりするのは出来ないって聞きましたっす!大丈夫っす!私、そういうのちゃんと理解出来るので!」

「う、うん。ありがと、、、」

「温泉もあるけど、家族風呂、借りた。アリアちゃんだけで使って」

「至れり尽くせりで、何だか、すみません、、、」

「我より高待遇だな」


でも、助かったよ。流石、クラウゼンさん!ありがとうございます!

でも、女子同士でも一緒に寝れない性格って、物凄く神経質な人だと思われただろうな。





「リーンハルトくん。今、いやらしい顔をしたあと、ホッとしたようなガッカリしたような顔をしませんでした?」

「リーカ?何その、具体的過ぎる表情は。それに、僕は別にいやらしい事は考えてません!」

「ふーん。女の子に囲まれて超楽しい、的な顔もしてましたけど?」

「してません!」


意識を細かくリンとアリアで行き来して、ほぼ同時に二人とも動かす事には慣れてきたけど、どうやら、意識があっちにいる時にはこっちの顔は僕の心境が表情にうっすら浮かんでいるらしいな。


主従契約してるからか、何か察知する繋がりがあるのかも知れないけど、リーカとラナは僕のそういうの見破るのが上手いから、気を付けないといけないな。


「国境近くの町に着いて、さっき宿に入ったよ」

「そう。ディアちゃんは、元気?寂しがってない?」

「今朝、別れたばかりでしょ?まだ、何ともないよ。フォルクヴァルツの宿が初めてらしくって、珍しがってるよ」

「ふーん。そう言われると私もこの国の宿って泊まったこと無いわね」


もう学校から帰ってきて、リビングで寛いでいる。

フィアとラナは、ディアが無事なのか気になっているらしく、さっきから数分も経たない内に、ディアの様子を聞いてくる。

昨日、ディアと部隊編成を組んで、チャットを出来るようにしておこうと試してみたけど、チャットが出来ない今は部隊編成も出来なかった。通信とか関係なさそうなのにダメらしい。


だから、今は僕だけがあっちの状況を知る手段になるから、こうやって逐一報告をしていた。


「ねぇねぇ、この国の皆んなが変わってエルツが外にも出れるようになったら、旅行して宿に泊まるとかも出来るわよね!いいなあ。温泉宿とかに泊まって、美味しい料理と温泉とお土産コーナーに行くのよ!」

「姉さんの行きたい宿は渋そうね」

「いいじゃない。そういうの。あ、でも、朝食はビュッフェスタイルなのも良いわね。つい食べ過ぎちゃうのよね、あれって」

「そして、お昼ごはんが入らなくなるのよね」

「そうそう」


いいね。楽しそう。

でも、それが実現できそうになってきたから、こういう話を楽しそうに話せるんだよな。

よし!もう一つ、目標ができた!

皆んなで旅行に行って温泉宿に泊まろう!

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