第九十七話 精霊退治

「か、壁を治すって言っても、一体どうやって?とても一人で治せるものではないぞ!」


マナの消費が半端無いけど多分いけるでしょう。


「レコンストラクション!!」


崩れた壁の残骸が浮かび、元の形に組み上がる。

それでも粉々になったり、熱で溶けてしまった部分は戻らない。

不足した分を補充する。


「レプレニシュメント!!」


これで小さな隙間も全て埋まっていく。

流石にこれだけの大きさの物を復元するとごっそりとマナが減った。


「ふぅ。あ、先生。壁、元通りに治しました」

「あ、ああ。なるほど。さっきのは幻影魔法だったのか!一度壁が壊れた幻影を見せて、それを治していくように見せれば、治したようにも見えるな!ははは。なかなかやるじゃないか!」


ああ、そういう事にして、お咎めなしにしてくれる、って事か!

先生、優しいな。


「すみません、先生。以後気をつけます」

「あ、ああ、今後は気をつけるように?」


最初に話をしてくれた、えっと、フリーデ王女とクリス大魔王、、、、王女と同列の呼び方でいいものか分からないけど、大魔王。あとは、リーカやベルシュ、ミスティルテインの所に戻る。


「ははは。ちょっとだけ、火力が強めだったかな、なんて」

「ちょっとどころではないわ!校舎を壊す程のマナ弾なんて聞いたことないわよ!」

「ダミー君なんて一瞬で蒸発してましたからね」

「ふっ。さ、流石我が友!わ、我には遠く及ばないが、力を付けてきたではないか!」

「クリス、震えているわよ」


良かった、皆んなは引かないでくれていた。

クリス大魔王は我慢してるのかも知れないけど、怖がっていないよ、と一生懸命にアピールしてくれている。

流石我が友だ。

足がガクガクしているけど。


人形の方は消耗品だから気にするなと先生に言われた。

いくら消耗品だからって、お金掛かってるだろうに。

やっぱり優しい先生だな。


「それで?さっきのあの魔法はなんだったの?壊れた壁を治す魔法なんて見たことないわ」

「その前のマナ弾を消したり物凄い速さで移動したり、あれも魔法なんですか?」

「魔法、、、って何?」

「「「え?」」」


何?皆んな知ってるの?!

ああ、記憶がないからボクはその言葉を知らないのかな?


「魔法を知らないって、あなた、先程使っていたのは魔法ではないの?」

「あれは、術式だよ。魔術式」

「魔法ではないのね。確かにあのような効果の魔法ともなれば複数人で何日も掛けて、それでも成功するかどうかというものですわね」

「あ、あれは、我でも出来るのか?出来るなら是非伝授願いたい、、、のだが、ダメだろうか、、、」


大魔王が下手に出てきた!

もっと威張った方が魔王らしさがでていいんじゃないのかな。


「残念だけど、あれはライセンスが必要だから、大魔王にはできないかな」

「そ、そうか、、、。そのライセンスとやらは、貰えないものだろうか」

「え?どうだろう、、、。この国だと何処で試験やってるんだろう」

「リーンハルト。あなた記憶が無かったのではないの?何故そういった知識があるのかしら。それに、その術式?というのも、今まであなたは使ったことはなかったわ。それは記憶に関係しているの?」

「え、、、あれ?そう言われればなんで当たり前のように使えてるんだ?さっきも自然と術式名が出てきたけど、どうやって使えるようになったのか覚えてないぞ、、、」


あの術式はずっと何年も前から使えていたような気もするけど、12歳程度で何年も前からっておかしいよな。


「あなたって不思議な人ね。とても10歳とは思えないわ」

「え?ボク10歳なの?皆んなも?学校って10歳からなんだ」

「わたくしは13歳ですわ。あなたと同学年になる為にお父様に無理やり1年生にしていただいたの」

「我は12歳だぞ!兄と呼んでもいいのだぞ!」


兄が大魔王とか嫌だよ。



午後は街に出てきて、校外授業となる。

午前の男性教師の他にもう一人、こちらも優しそうな女性教師が説明をする。


「最近、街の中に出没している妖魔や悪い精霊がだんだん増えてきているらしいのです。これまでもこうやって、妖魔退治をしてきましたが、高等部だけでは追いつかなくなってきましたので中等部でも退治に出る回数を増やすことになりました」

「ねぇ、リーカ。妖魔とか精霊って何?」

「精霊も忘れちゃったんですか。精霊は天使様の部下みたいなもので、普段は夜の街灯を灯したり、川の水を浄化したり、生活に関係しているお仕事をされています」


へぇ。お仕事かあ。それって人なのか。毎晩、街灯に火を付けて回ってる、、、のか?


「あとは妖魔ですね。妖魔は妖精が暴走してしまったものと言われてますけど、実際にはどう言ったものなのか、よく分かっていないんです。妖精は精霊が使役している自動人形の事です。あ、リーンハルトくんが作ってくれたシルフも妖精の一種ですね」

「ボクが妖精を作った?」

「ああ!すみません!記憶をなくす前の事でした」


とにかくその妖魔だとか精霊が街に現れて暴れていると。

それを退治してまわっているんだな。


「妖魔や悪い精霊は殆ど移動はせず一箇所に留まっています。だから、見つけてもすぐに攻撃はせずに、皆んなが集まるのを待ちましょうね」

「「「はーい」」」


何人かのグループに分かれて街の中を探索する。

妖魔や精霊を見つけたら先生から渡されている笛を吹いて他の人達に知らせる事になっている。



「この辺は居ない、と」

「先生に言われた程居ませんね」

「出るところにはまとまって出るらしいから、ここは違うのかも知れないわね」


これがいつものメンバーらしく、誰も何も言わずに、このグループが出来た。

フリーデ王女、クリス大魔王、リーカ、ベルシュ、ミスティ、そして、ボクだ。

ミスティルテインは長くて呼びづらいからミスティと呼ぶ事にした。

そう呼んだら、ミスティは「あ、ああ!とうとう我にも春が!お色直しは3回が希望!」と、よく分からない事を小声で叫んでいた。愛称自体は嫌がっていないようだから、そのままミスティで呼んでいる。


「あら、1年生もこの時間は外回りなのですね。わ!リーンハルトさん!ご無事だったのですね!」

「お、お前!今まで何処で何やってたんだよ!」

「え?ボク?」


誰だこの人達。

一人は大人っぽくてとても綺麗な人だ。

何故かボクをジッと見つめている。

いや違うか、そんな訳ないか。

女の子と目が合ったとか、若者の勘違いじゃないんだから。

あ、いや、若者だった、、、。


「リーンハルトさん?別の体で蘇生される筈と聞きましたが、元の体に戻られたのですね。わたくし、あなたが死んでしまったのを見て、その場で跡追いをしてしまおうかと思っていましたから、あの時は何とか耐えて良かったです」

「会長?!何を言って、、、そうなったらボクも跡を追いかけます!死ぬ時は一緒です!」

「えっと、死んじゃうのはダメですよ?お二人とも」

「はい。そうですね。死んでいたら今リーンハルトさんに会えませんでしたもの」

「ふ、ふん。ボクだってお前に死なれるのは嫌だからな。ボクも死なないであげるけども!」


それではわたくし達は、と言って二人は学校へ戻っていった。

一度休憩を挟むそうだ。

しかし、綺麗な人だったなあ。

ボクの知り合いだったみたいだけど、誰なんだろう。


「はああ、相変わらずお綺麗ですよね。生徒会長さん」

「生徒会長?あの美人さん?」

「はいぃ!頭も良くって、魔法も剣術も何でも出来るんですよ!それに、リーンハルトくんって生徒会長さんに気に入られていたんですよ?今だってリーンハルトくんにしか話していませんでしたよ」


そう言われればそうだけど、、、。


「あ、さっきその生徒会長さんが言っていた、ボクが死んでしまったって、、、何?」

「いやあ、、、そのう、、、前のノルド侵攻の時にリーンハルトくんって一度死んじゃってるですよ」

「へぇ、、、、え?!死んだ?ボクが?だって今生きてるよ?」

「え、ええ。その後、女の子の体に入って生活していたらしいんですけど、それが昨日、元の体が治ったので、元通りになったんです」

「え?何の話、、、」


とにかくボクは一度死んでから、生き返ったみたいだ。

本当かな。


ピィー、ピィー!


笛の音がした!

近くだ!


「皆んな行こう!」


笛の鳴った辺りに行くと、公園では戦闘が始まっていた。

仲間が来るのを待つようにって言われてたのに!


敵は人形のように見えた、、、けど、全身がドロドロの粘着質の液体か何かで覆われている。

足を引きずりながら、生徒達を追いかけている。


「あれは!妖魔と精霊が混じってる?!」


あれが、妖魔と精霊?


「あのドロドロが妖魔です!一定の距離に近づくと攻撃してきます。そして、あの人形に見えるのが精霊の、、、多分、死体なんだと思います」


つまり、妖魔って奴が精霊の抜け殻を操っているって訳か。


「きゃああああ!!」

「うわああああ!!」


人形から触手が飛び出して生徒達を攻撃するけど、、、良かった。思ったより傷は深くなさそうだ。


「リインフォース!」


身体を強化する。

学校から支給された諸刃の鉄剣を抜き、人形に近づく。


ボクに向かって触手が飛び出してくるのを剣で受け止める。

所持品の剣も同時に強化されているから、硬そうな触手の攻撃も問題ない。


触手が2本3本とどんどん増えてきた。

このままだと、捌き切れなくなりそうだ。


「コンクテーション!」


人形の動きを鈍らせる。

触手は既に10本くらい出てきているけど、鈍らせたお陰でボクの方が速い。

でも、触手を断ち切ろうとしても、強化しただけの鉄剣だと、上手く斬れない。

先は剣のように硬いのに蔓の部分は柔らかい上にドロドロしたもので覆われていて衝撃を吸収してしまう。


なら本体だ。

10本の触手を掻い潜って、人形本体に接近する。

腕や脚を斬ろうとしても、やはりドロドロが覆って斬りづらい。


「加勢しますわ!…………ファッケルの火!」


うおっ!何だ!?いきなり火がついた!

フリーデ王女すげえぇ!!

松明とか持ってないよな。

あ!これが魔法って奴?

魔法すごいな。


火がついた人形は熱に弱いのかドロドロが少し溶けていた。


「皆さん!火に弱そうですわ!囲んで一斉に浴びせますわよ!」

「「「はい!!」」」


リーカ、ベルシュ、ミスティも加わって、ほぼ同時に何かごにょごにょ言い出す。

さっきもフリーデ王女は言っていたけど、魔法を使うときのパスフレーズか何かだろうか。


「「「「ファッケルの火!」」」」


4人同時に放たれた火が人形に当たると、真っ赤な大きな火柱が上がる。

ドロドロは溶けて流れ出し、人形本来の表面が露出してくる。

その間も触手の攻撃は止まなかったけど、ボクが他の人に攻撃がいかないように防いでいた。


「ふははははは!!最後においしいところは貰うぞ!」


人形の背後から大魔王クリスが剣を振り下ろす。

人形を袈裟斬りして下まで振りきると、かたかたと人形は力をなくして、崩れ落ちた。

最後にはドロドロ部分も煙を出して溶けていった。


「これで倒せたのかしら」

「トドメを刺しておこうではないか!ふはははは!」


クリスがざくざくと剣を刺していた。実に大魔王らしさが出ている。

いつか本当に大魔王になれる日が来るといいね。


「さて、精霊なのであれば、最後にアマガエルで天に返した方が良いのだろうか」

「アマ、、、ガエル?」

「ふむ。忘れているだろうが、貴様が付けた名だぞ?」

「魔王の力です。精霊のような擬似的な生命体の中身を天に戻して無効化する魔王のユニークスキルです」

「………ちょっと待った。大魔王クリスって大魔王なの?」

「自分で大魔王クリスって言ってますよ?」

「いやほら、それはさ。この位の子供ってそう言うのに憧れたりするじゃないのさ。ちょっとカッコ付けてコーヒーをブラックで飲んだり、読めもしないのに難しい本を休み時間に読んでみたりさ」


この年齢の子だとあるよね?そういうの。


「この位の子供って、リーンハルトくんが最年少ですけどね。でも、クリス王子殿下はそう言うのではなくて!本物の魔王なんですよ」

「待ったあ!今なんて言った?」

「本物の魔王なんです」

「その前えぇ!クリス、、、、なに?」

「大魔王」

「いやいや、大魔王は黙ってて!リーカ!クリス何?」

「あ、近い、、、です、、、。皆んなの前だと恥ずかしいかも、、、」

「もう、そう言うのいいから!」

「むう。王子殿下ですよ?」


フリーデ王女ともう一人居る王子ってクリスなのかよー!

何で王子が大魔王なんてやってるのさー!


「大魔王」

「む?何だ我が友」

「キミも苦労してるんだな」

「うむ。理解者がいると言うのは、心休まるものがあるな。我は幸せ者だ」


あ、でも、本当に苦労してるのは、姉で王女のフリーデの方かもしれないな。

それに、あの王様も大変だな。

おお、それでボクのことを次期王様にしようとしてたのか。

なるほどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る