第九十六話 不良リン

焼きソーセージ祭りって、どんな祭りだろうと思ったら、本当にソーセージばかりだった。

広場にはソーセージの屋台がいくつも並んでいて、様々な種類のソーセージを食べる事が出来た。


「食べ比べが出来るのもこのお祭りの醍醐味ですね」

「アツアツウマ〜イ」

「食べてるだけなのに、なんだか楽しいわね」


皆んな元気だな〜。

ボクは人が多くて、目が回って来たよ。


「ちょっと休憩していいかな」

「あ、そうですね。じゃあ、そこの路地に入って休みましょう」


細めの路地にも屋台は出ているけど、人通りはかなり少なくなる。

空いたスペースを見つけて座って休むことも出来るから、他にもそうやって座り込んでいる人達、、、主に男女のカップルがたくさんいた。


「オウ。目の毒デスネ」

「べ、別に座って食べてるだけですから、健全です!」


そうは言ってもイチャイチャしてるのが、目の端に見えてきて、ちょっと居づらい。


「もうちょっとあっちに行こうか」


少し人の多いところに移動する。

そこにある屋台にふと目がいく。

何故だろう。

まったく見覚えはないんだけど、ここの屋台のメニューには惹かれるものがあった。


「す、すみません。これ、一つください!」

「はい。ありがとうございます。銅貨2枚です」


買ったソーセージはバケットに挟まれていて、キャベツも一緒に入っていた。


「あ、そこのトマトピューレかマスタードのお好きな方を付けてくださいね」

「は、はい」


さっきまで食べていたソーセージとは違って、少し臭いが独特だ。

食べてみると、味もだいぶ違っている。

キャベツが酸っぱい。

何だろうこれ。

随分変わり種というか、他には無い特徴ばかりだ。

でも、これが何故か気になって仕方ない。


「それ変わったソーセージですね」

「ちょっとクサイ?」

「あ、これ、マルブランシュのソーセージよ?モツ入りだった筈。これはザワークラウトを挟んでるのね」


へぇ。どこか別の所の物なんだ。


「これは外国の物なんですか?」

「ええ、お客さんの言う通り、お隣マルブランシュの物なんです。私達、そこから来たんです。このメニューを考えた女の子の母国でこれを売りたいって思って」

「え?この国の人が考えたんですか」

「はい。短い間でしたけど、マルブランシュで友達になった女の子なんです。今はこの国に帰ってきている筈だから、会いたいんだけど、多分高貴な家の人だからこんな路地裏になんて来ないでしょうけどね」


そう、なんだ。

どんな人なんだろう。


「その人と会えるといいですね」

「はい。ありがとうございます」


路地裏から出てきて、大通りを歩く。

何故だろう。さっきの屋台の後はもう何も食べたく無い。

お腹いっぱいという訳じゃなくて、でも、あれで終わりにしたいって気持ちになっている。


「リーンハルトくん?大丈夫ですか?なんだか思い詰めている感じがします」

「そうね、あのお店からおかしかったわ」

「何か思い出せソウなの?」


ああ、心配させてしまったのか。

でも、そんなに悪い気分でも無いと思う。

寂しい気持ちと嬉しい気持ちが混じったような、そんな感情。

あと、誰かに何かを自慢したくなる時のような、、、そう、誇らしいという気持ち、かな。


あの人達は、ボクを見ても何も言ってこなかったから、知り合いという訳でもないだろうし、何も関係ない人達なのだろうけど、それでも、この国でああやってあのメニューを売っている事がボクには嬉しい。


よく分かんないけど、その気持ちを確認できたからボクはもうそれだけで満足だ。




お土産にソーセージとか甘い焼きアーモンドとかを買ってから家に帰った。


「ただいま」

「あ、お帰り〜。お祭り楽しめた?」

「うん。ちょっといい事もあったし」

「え?何々?お姉ちゃんにお祭りに無理やり連れられてきたけど、途中からちょっと楽しくなってきた可愛い弟くんでも居たたたたたた」


何?どうしたの?急に変な事を言い出したと思ったら、頭を抱えて何か痛がってる?!


「あの人はあれが通常なので、気にしない方がいいですよ」


リーカがそう言ってくれるけど、気にするって。


「お姉ちゃんは小さな男の子が好きなの?」

「や、やめて!そんな真っ直ぐな目で見ないで!なんとなく罪悪感が出てきてご主人を見れなくなっちゃう!」

「そこは、なんとなくなんですね、、、」





翌朝、起きてリビングに来ると、リーカが変わった服装をしていた。


「リーカはどこかお出かけ?」

「学校ですよ!学校!リーンハルトくんも行きますよ!」

「学校?勉強する所?ボクも行くの?」

「はい!私とリーンハルトくんは中等部の学生さんです」


そうなんだ。

と言うことはボクは今12歳くらい?


「あ、レティシアさんも外行きの服装。レティシアさんも中等部の学生?」

「何年も前はね、、、。でも、リンくんには私が中等部に見えるってこと!?まだまだ私もイケる?!」

「その言い方をしてる時点でイケてない気もするわね」

「お姉ちゃん達は学校には行かないの?」

「うっ。そ、そうね。行ける頭が無いって言うのもあるけど、私達は外にもあまり出られないから、仕方ないわね」


昨日もそうだったけど、フィアやお姉ちゃん、妹と弟の4人だけ、何故か外には出たがらない。

家の前くらいなら出るみたいだけど、町の繁華街のような人がたくさんいる所には行けないようだ。


行かないと言うよりは行けないと言う感じがする。


あまり、踏み込んで聞いたら良くない気がするから、何も聞けない。


「ほら、早く行きましょう!制服バッチリですよ!これからの時間は私の独占タイムなんですから!うへへへ。登校デートですぅ」


ううっ。一緒に行って平気なんだろうか。

お姉ちゃんとアニカに送り出されて、学校へと向かう。

レティシアさんは仕事場に行くらしい。

働いているんだ。大人だ。


「えへへぇ。久しぶりにリーンハルトくんと登校できます!前の日常が戻りつつあって嬉しいです」

「記憶はまだ全然戻らないけどね」

「ああ!すみません!不安ですよね。でも、大丈夫!お姉さんが付いてますから!」

「お姉さん?妹じゃなくて?」

「へ?リーンハルトくんの妹?私がですか?」

「違うの?フィアとかレティシアさんは血が繋がってはいないなって思ったけど、お姉ちゃんとリーカはボクの本当の兄妹だよね?」

「………そ、そうですね!私、忘れてました!リーンハルトくんの妹です!お兄ちゃん!」


あれえ?違ったか。

ボクの直感ってあまりアテにならないな。


「クラスメイトをお兄ちゃんって呼ぶのって、ちょっと興奮しますね!背徳感半端ないです!」


ああどうしよう、変なスイッチ入っちゃった。

でも、リーカが違うんなら、あのお姉ちゃんも姉弟じゃないのか。

だから、ボクがお姉ちゃんって呼ぶと鼻血を出したのか。

いやいや、そこは繋がらないな。

あの鼻血はやっぱり謎だ。


リーカに連れられて教室に入ると、何人かの生徒が一斉にボクのところに来た。


「リーンハルト!本当に帰ってきたのね!お父様から聞いてはいたけど、この目で見るまでは信じられなかったわ!」

「流石我が友!魔王の腹心ともなれば、一度死んでしまうくらい屁でもないな!」

「リン様!お帰りをずっとお待ちしておりました!」

「我が主人の帰還に歓喜!尻尾があったらぶんぶん振り回したい気分」


ど、どうしよう。

最初の女の子以外、まともじゃないような気がする。

特にあの男子?、、、悪魔?

肩からツノ生えてるし、マント着てるし、目の周りのあの模様は何だろうか。


「はああ、お父様ったら国王のくせに、リーンハルトの事を見つけられずに何日も掛かって、結局リーンハルトの方から帰ってくるまで、何もできなかったのですもの。あのポンコツ国王は早く引退してしまえばいいのですわ!」

「まあまあ、王女殿下。こうやってリーンハルトくんが帰って来たんですからいいじゃないですか」


ああ、最初の子も普通じゃなかった。

あの王様のお嬢さんだったんだ。


「我が友よ!この大魔王が付いていながら、あの時は死なせてしまってすまなんだ!友の仇はあの後すぐに取ったぞ!我のアマガエルにあの女も一瞬で天に召されたわ!」


こっちは王女どころじゃないなー。

自分で大魔王とか言ってる人なのかあ。

しかも、ボクの友達だったんだー。

何言ってるのか半分もわかんないし、前のボクは一体どういう交友関係を持っていたんだろう。


「リン様、リン様!私リン様と一緒に精霊と戦いました!だから、これから、エル、、、私の種族も認められるようになると思います!ありがとうございました!」

「え?う、うん。良かったね」


前のボクが何かこの子にしてあげたんだろうか。

感謝されてるからいい事なんだろうけど、種族全体に影響することってそんなにすごい事したのかな。


「我が主人。我には何もしてくれないのですか、、、、。共にアールブ族の悲願を果たしましょうぞ!それがダメなら我と主人で子孫を残してアールブを絶やさないようにするというのも手かと!」


この子は何を言ってるのかな。

一人でブツブツ言い始めたから、放っておいても良さそうだけど、ずっと後ろに付いてくるのはちょっと怖いな。


「あの、皆さん、リーンハルトくんはですね。ちょっと記憶が無くってですね。皆さんの事や自分の事も忘れてしまっているんですよ」

「王宮の方から聞きましたが、本当なのですね」

「むう。我の事も忘却の彼方へと置き去りか。だが、慌てても仕方なし!我とて物忘れはするものだ!少しくらい顔と名前が一致しなくとも問題なかろう!」

「そうですそうです!それくらいでリン様の魅力は失われないです!それに元々リン様って人の名前忘れまくってましたから、たいして変わりないですよ」


皆んなうんうんと頷いていた。

リーカなんて、首がもげるんじゃないかってくらい、縦に動かしていた。


そんなに名前忘れてたのかあ。

悪い事したなあ。



クラスの皆んなとも軽く挨拶をして、なんとかこの場に馴染めたように思う。


授業の内容は皆んな知っている事だったり、当たり前と思うような事ばかりだったから、少し退屈だった。

長く休んでいたボクに合わせてくれた訳ではないみたいで、これがこの学校の授業内容らしい。


次の時間は実技のようだ。

体操着に着替えて、広い部屋に集まる。


「今日はマナ弾を使った応用編です。マナ弾といえば当たると眩しい、で有名ですが、ちょっと工夫をすれば、、、このように、できます!」


ダンッ


少し離れたところに立っている人形?のようなものが音を立てて揺れる。

人形の頭の部分にマナの塊が当たったらしく、大きく仰け反ってからふらふらと揺れている。

マナの動きからすると、手の上でマナを圧縮してから、飛ばしたみたいだ。

応用というから、何かと思ったらマナの基本操作の一つだった。


やっぱり、今日はボクが復帰したから、今までの復習をしてくれているのだろうか。

それにしたって、基礎中の基礎をやっても仕方ないような気もするけど、、、。


「うおおおお!とおぅ!」


ボフ


クラスの皆んなも真面目にマナ弾を撃っている。

基礎練習は大事だもんな。

最初に会った時は変な人達ばかりだと思ったけど、意外にこういうのは真剣に考えているんだな。


「次、フォルトナー。お前は最近休学していたようだから、無理しなくてもいいからな」


やっぱり先生方はボクの心配をしてくれていたんだ。

ここは、全然問題ないって所を見せて安心させないとだな。


「行きます!むー!」


はじめは頭の大きさ程だったマナの塊を、手の上に浮かべながらどんどん小さくしていく。

きゅうううと音がするくらい小さくしていくと、胡麻くらいの大きさまで圧縮できた。

ああ、自分で思っていたより調子が出ないかあ。

以前は砂つぶサイズなら平気で出来ていたのにな。


「撃ちます!はっ!」


胡麻サイズのマナ弾を射出する。

手の上から放たれたマナ弾は人形の鳩尾辺りに当たると、ヒュボ、と音が鳴り、人形が消え去った。

あ、意外とこの人形のマナ抵抗係数が低かったみたいで、まだマナが残ったままだ。

射出の勢いもそのままで部屋の壁に当たってしまう。


ゴウウウウゥン


壁に当たった瞬間に圧縮されたマナが解放されて大爆発が起きる。

三階分の高さはあるこの部屋だけど、マナ弾が当たった壁は天井まで届く大きさの丸い形に綺麗にくり抜かれてしまった。

それでもまだ、マナ弾は半分程度を解放しただけで、速度こそ遅くなったけど、まだ壁の向こうを飛び続けていた。


「な、なな、何が起きてる?!お、おいフォルトナー!!あれはまだあるぞ!早く止めろ!」

「ええええ、、、。もう撃っちゃったものだしなあ」

「いいから止めるんだ!あの壁の向こうは教室がある!死人が出るぞ!」


そ、それは、マズイ!


「アクセラレーション!」


身体能力を加速する。


「プロテクション!」


身体を防御する。


加速により一気に駆け抜け、マナ弾を追い越して、進行方向に回り込む。


「ニュートラライズ!!」


手をマナ弾にかざし、中和をしていく。

分解されていくマナが熱と光に変換される。

青白い光が拡散されて眩しい。

中和しきれず圧縮から解放されていくマナが弾けて体に当たるけど、防御により防いでいく。


だんだんと解放する力より中和が上回って、光が弱まってくる。

マナ弾に押されていた力が無くなり、全て中和されたのが分かった。


「はあああ。自分で放ったマナを自分で消すのって、不毛な作業だな。ああ、この壁どうしよ」


まだ、加速が効いているから、同じ勢いで皆んなの元に戻ってくる。


「えっと、止めました、、、」

「………はっ。そ、そうだな。よくやった!いや!違う!フォルトナー、お前、何をしたら、あのダミー君を消し去れるんだ!いやいや、それよりあの壁は何だ!あれは、完全魔法防御の魔法が毎朝掛けられているんだぞ!」


それにしては紙のような柔らかさだったように思う。

でも、そうだとしても、建物を壊しちゃったのはマズかったな。

クラスメイトも驚いて、、、、いや、引かれていた。

ボクが見るとさっと目を逸らされた。


学校を壊しまくる不良だと思われた!?

それはマズイ!

前のボクはどんな生徒だったか分からないけど、そんなガラスを割りまくったり、校庭に馬で乗り込んだりとかする不良じゃないんだよって所を分かってもらわないと!


「先生!」

「ななな、何だね?!」

「あの壁、元通りに治します!」


壊したとしても、治すなら、不良とは思われない筈!

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