第七十話 魔法円クラフト

レティはなかなか機嫌をなおしてくれなかった。

アニカが私もですから平気ですよ、と言っても聞く耳持たなかった。

だからコッソリとレティの耳元で、


(レティに怪我をさせたくなかったんだよ)


と言ったら、機嫌が良くなった。

これ、他の皆んなには聞かせられないし、ギリギリの綱渡りなんじゃないのか?


「ふふ。リン君ごめんね。ちょっとリン君を困らせてみたかっただけなの。最近私の立ち位置、端に追いやられてるし、私の存在、忘れられてないかな、、、とか思ったりして」

「何言ってるのさ!忘れた事なんかないよ?」

「そう?私、ギルドで近頃噂を聞くの。騎士団の中でも、とびきり可愛くて、剣も物凄く強い女の子が、魔法使いの英雄と婚約したって噂」


ブフォッ。

ななな何でそんな噂がギルドに?!

もうそこまで話が浸透してきているのか!

国王!早くして!

僕のいろんな立場が危うくなってきています!


「へええ、そ、そうなんだ〜。えっと、それはさて置き、魔法円クラフトの続きでもしよっかな」


皆んな噂について聞いてこようとはしないけど、聞きたがっているのは分かる。

でも、もう少し、もう少しだけ待ってほしい。

婚約が無かったことになれば、全部話せると思う。

なんだか最近、僕はいろんな人に嘘をついたりとか内緒にしてる事が多いような気がする。



1つ目のクラフトは家の外を監視する仕組みだ。

「映像入力」「回転台」「映像合成」「映像切替」「映像出力」これらを組み合わせる。

木で作った箱の先端に「映像入力」の魔法円を描く。

それを円盤状の板に「回転台」魔法円を描いてからのせる。

「回転台」は単独で定期的に首振り運動をするように設定をする。

それを12セット作り、家の外壁など庭や外の風景が見やすい位置に満遍なく設置していく。

「映像合成」2つと「映像切替」の板と「映像出力」は大きな板に書いてリビングの壁に掛ける。

スクリプトで「映像入力」から12本の線を「映像合成」に6本ずつ繋ぐと横3つ縦2つの6つの映像が並ぶように設定する。

その2つの「映像合成」を「映像切替」に繋ぎ、5秒間隔で2つの合成された映像が交互に切り替わるようにする。

その「映像切替」を「映像出力」に繋ぐとパッと外の風景が映し出された。


「わああ!お外の景色が見えますね」

「面白いわね。これ今見えている風景なのよね」

「うんそう。実際の景色と時間差はほとんどない筈だよ」


5秒経つともう一つの「映像入力」から見える映像に切り替わる。

これだとどれが何処の景色なのかが分からなくなりそうだから、「映像入力」の設定で映像名を設定して、「玄関前」とか「裏庭」とかを付けていく。


「これで、何処から誰が来たのかわかるでしょう?」

「そうね。でも、攻めてくる敵にはあまり意味はないんじゃなの?」

「まあ、これは皆んなが心構えをする為だったり、敵が居なくなった後に安心する為のものだから」


次は本格的な防衛システムを組む。

まずは人形を作ります。


「急にお裁縫になったわね」

「リン君こういうのは下手ね」

「やったこと無いからね、イテっ、針を刺した〜」

「ほら、貸してみなさいよ。お人形さんならなんでもいいんでしょ?」


おお、ラナは器用だな。

チクチク凄い勢いで人形を縫っていく。

レティもこういうのは意外と得意みたい。

2人でいくつもの人形を作り上げていく。


「あの、ごめんなさい。私もこういうのはあまり得意じゃなくて」

「いや、いいんだよリーカ。ずっと手伝ってくれてるんだから助かっているよ」

「わたしは何もしてないけど、いいのかしら」

「フィアは、、、手伝ってくれるの?」

「別に、、、姉さん達がここまでしてるのに、わたしだけ何もしないのは、少し、、、気がひけるわ。わたしだって、リンの役に立ちたいと思っているのよ?」


う、嬉しい。この家に来てから、フィアとの距離が近くなったり遠ざかったりしてるけど、今のだってラナ達に悪いからってだけかもしれないけど、会ったばかりの時よりは全然トゲトゲしさもなくなって話しかけてくれる。


「リーンハルトくんはフィアさんが好きなんですか?」

「グフォッ!リ、リ、リーカ!?何を急に言い出すのかな?フィア!これはその、、、え?」


フィアが真っ赤になっている。

そ、そんな馬鹿な、、、、。

今までどんなシチュエーションでも赤くなるどころか、少しも照れなど見せたことのないフィアが、、、。


「あの、、、フィアさん?」

「何かしら、、、。わたしは今息を止めているの。あなたと同じ空気を吸わないためよ。だからこの顔なのだわ」

「そうだよね………。僕のことやっぱり嫌いだよね………。いいんだ、分かってたから……ごめんあっちに行くね」

「あ、、、違うの。嘘。今のは嘘よ。リンのこと嫌いではないわ」

「そうなの?じゃあ、息吐いてもいい?」

「いいわ。存分に吐いてちょうだい。わたしも思い切り吸うわ」

「何の話してるんですか、2人とも。フィアさんだってリーンハルトくんの事、大好きなのに何でいつも冷たい態度とるんですか?」

「何を言ってるのかしら?この子は何を言ってるのかしら?頭にウィントの盾の風でも吹いてるのかしら。わたしがいつリンの事をだ、、、、ぃ、、きなんて、、、、ウルリーカさんあなたはわたしに怨みでもあるのかしら!」

「え?何ですか?大?なんて言いました?」

「くっ。わたし、この子は苦手だわ」


フィアが僕の事を、、、、んな訳ないか。

いやあるのか?今までの態度からは無い無いと思ってたけど、いつのまにか、好感度上がってた?!


フィアは顔を真っ赤にしたまま隣の部屋に行ってしまった。

ちょっといい感じだったから、もう少し話をしたかった。



ラナとレティがチクチク縫ってくれたお陰で13体の人形が出来た。


「妹とご主人がいい雰囲気になっている横で、黙々と人形を作る私達。悲しくて目から血の汗が出るわ」

「私達って、私も含まれてるのね。まあ、否定できないけど」

「あの、本当にありがとう。2人にはいつも助けられてるよ。そうだ、今度、美味しいザッハトルテのお店にでも行こう」

「リーンハルトくんは何処に向かおうとしてるんですか?ハーレムでも作るつもりなんですか?」

「10歳の子供になんて事を言うかな。ここに居るのは皆んな家族!だから、そう言うのは無しね!いい?」

「10歳でそこまで考えた上での行動というのも、ある意味すごいですけどね。ま、私は運命の人ですから、問題有りませんけど?」


その話まだ生きてたんだ。

すっかり忘れてたよ。



人形に魔法円を付与したいんだけど、これは簡単なものにはならないから、まずは魔法円を大量に描いてスクリプトを組んだものを予め作っておく。

出来た物を人形に埋め込んで、スクリプトが動作するように調整する。


「コア」「映像入力」「音声入力」「蓄マナ源」「アバター操作」「妖精の羽根」「汎用魔法出力」「マナ変換器」「IFF」これらを組み合わせていく。


「コア」はあらゆる入出力魔法円からの情報を統合的に処理するもので、これが無いと複雑な事はさせられない。

他の魔法円を全てこの「コア」魔法円に繋いでいく。

実際には薄い金属の板に描かれた各魔法円を重ねて、一纏めにしているだけだ。

映像と音声を認識して人形を動かす、というのが基本になる。

それに加えて「妖精の羽根」があれば宙を浮く事ができるので、小さな人形でも移動が素早くできる。


人形が動く力というのは、普通なら僕から繋がっているマナだけになるけど、これは僕が近くにいないと補充されない。

僕がいなくても、ずっと動かすにはそれだと足りなくなるので、「マナ変換器」が空気中に漂っている自然マナを、利用可能な循環マナに変換して「蓄マナ源」に蓄えておいてから使うようにする。


「後は敵と認識したら汎用魔法出力で、その敵に最も適した魔法を放つようになるんだ」

「ふへぇ。さっきの監視の仕組みより、なんだか急にとてつもない代物になりましたね」

「まあね。これくらいしないと、安心して任せられないからね」

「このIFFというのは何に使うんですか?」

「これは敵味方識別装置だね。フォルクヴァルツに住む人に敵意を持っている人かどうかを判断する。これが無いとこの家に近づく人は皆んな攻撃しちゃうから」

「そんな判断どうやってするんですか?」

「………まあ、そこは魔法円だから」

「………原理は分からないんですね」


大体、円を描いてマナを流すだけで映像が表示されるのだってどうやってるのか分からないんだから、IFFの仕組みが分からないのも同じだよ。


ようやく1つ出来たけど、これと同じものをあと12個作らないといけない。

でも、こんな複雑な物をチマチマと12個も作ってられない。

そこでこのスキルが活躍する。



魔法円の複製と貼り付け SLv1


魔法円とスクリプトを複製し貼り付ける事ができる。



説明そのままだけど、魔法円を大量に作る為だけのスキルだ。

魔法円クラフトスキルを探している時に一緒に見つけた。

昔はこのスキル持ちが居れば魔法使いは楽ができたと思うけど、今はこのスキル持ちになった人はとても苦労してるのに違いない。


スキルを起動するとウィンドウが3つ表示される。

ウィンドウと言うよりボタンそのものが3つ表示されている。

「制御」「C」「V」と書かれたボタンだ。

複製したい魔法円が描かれた板の集まりを右手で触り、左手では「制御」を押しながら「C」を押す。

何も起きないけど、これで複製出来たはずだ。

そして、今度は何も描かれていない板を同じ数だけ重ねて、また右手で触れてから左手では「制御」を押しながら「V」を押す。

これ、絶対「制御」ボタンって要らないよね。

「C」と「V」だけで充分だと思うんだ。

同時に押すのってちょっとやりづらいし。


そう考えてある間にただの金属の板にはさっき作った魔法円とスクリプトが貼り付けられていた。

ちゃんと僕のマナにペアリングされていたし、スクリプトもウィンドウで確認したらさっき入れたものが全て入っていた。


「わあ、これ楽ですね。じゃあ、私は人形にこれを埋め込んでいますね」

「板を揃えるくらいナラ、わたしでもできマス!」

「ありがとう、リーカ、アニカ。よし、どんどん貼り付けていくぞ」


アニカが板の数を数えてまとめると、僕が「制御」と「V」で魔法円を貼り付けて、リーカが人形に埋め込む。

実はこの中では僕が一番楽な作業だったりする。


「あっという間に出来ましたね」

「やっと役に立ちマシタ!」

「皆んな手伝ってくれてありがとう」


13体の人形がズラッと並んでいる。


試しに人形の1体に僕のマナを流し込んでいくと、半透明の薄ピンク色の羽根が背中から生えてきて、ふわふわと浮かび上がってくる。

目線の高さまで来ると、少し考えているような動きをして、手をすっとこちらに向ける。

あれ?この動作って。

火の玉が人形の手から生まれ、僕に向かって飛んでくる。


「どぅわっ!メールの水塊!」


ぼふうん、と火が消えて僕の出した水塊と対消滅する。

急いでウィンドウから人形とのマナの接続を切る。

人形は、妖精の羽根が消えて、ぽてっと床に落ちて動かなくなった。


「あ、危なかった」

「今、ご主人を攻撃してなかった?」

「ちょっと見てみる、、、、ああ、IFFの繋ぎ方がいけなかったみたいだ。これどっちでも繋がるけど、逆にしちゃうと敵味方の識別が逆の信号になるみたいだな。なんでこんな設計なんだよ。逆の識別とか危なすぎるよ」


結局、13体全てのIFFの繋ぎ方を逆にしないといけなかった。

全部に貼り付ける前に気付きたかったよ。


これで、今度は上手くいくかな。

さっきも1体だけにしておいて良かった。

そして、最初に人形が見た相手が僕で良かった。

念のために他の皆んなは離れてもらって、1体だけにマナを注ぎ込む。


人形はまた同じように羽根を生やしてから浮かび上がると、今度は宙に浮かんだまま何もしなかった。

その後はキョロキョロして辺りを索敵し始め、ラナ達を見ても攻撃しなかったの、これで問題なさそうだ。

他の12体にもマナを注ぎ、全て正常に起動を確認できた。


「この魔法円の中心に置いた「コア」って言うのは簡単な学習ができるんだ。マナ提供者の僕は最上位の命令者として認識してるから、まずは僕が色々覚えさせるね。ハイ!シルフ!全体に命令!」

「ちょっと待って!その言葉は何?」

「え?ああ、この人形を使った魔法円のクラフトはシルフって言う名前が付いているんだ。そのウェイクワードが『ハイ!シルフ!』なんだ」

「それ、言わないといけないの?」

「うん。まあ、変えることは出来るけど、他に設定できるのは、『ねぇシルフ?』と『やあ、妖精さん』だね」

「………さっきのでいいわ」


僕としては『やあ、妖精さん』が良いんだけどね。

皆んなも変えなくて良いと言う表情だから、まあ今のままでいいか。

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