第五十五話 ダミーさん

ダミーさんが喋った。

これはあれだ。夢だ。

そうだよ。ツィスカさんとかが学園に来たり、リーカが勇者候補だったり、ダミー君がダミーさんだったり、喋ったり。

僕はずっと長い夢を見ていたんだよ。


「ああ、そろそろ眼が覚める頃かな?」

「何の話かな?ツィスカはびっくりし過ぎて、あまり突っ込めないからね?」

「こりゃたまげたなぁ。回復し過ぎて命を持ったのか?」


回復し過ぎって何さ。

元に戻るのが回復なんじゃ無いの?

本当に元の状態より回復しちゃったのかよ。


「わたしはアニカと言いマス!元精霊のアニカデス!訳あってダミーさんをしてマ〜ス!」


元精霊?精霊がダミーさんになったの?

訳が分からない。


「お父サマに特別な回復をして貰ったので、ダミーさんから半分くらい精霊に戻れましたデス。以前、精霊の力を封じ込められてダミーさんにされたデス」

「そ、そう。何でお父サマ?それって、僕の事?」

「ハイ!生まれ変わらせてくれましたので、お父サマデス!」


まあ、ダミーさんの事考えて、生まれ変われ!って念じたからね。

僕が生みの親的な感覚なのかな。

それならお母様じゃないのかな?


「いやいや、この歳でお父サマは嫌かな」

「ええっと、ではお兄サマ!デスネ!」

「う、うん、まあそれでいいか。それで、元精霊って言うけど、今までも意識あったの?」

「ハイ!中の人はあっちの世界デスから、アバターがダミーさん化しただけデス。だから、わたし本体はさっきまでゴロゴロしてましたデス!」


何だ中の人って。

クロ達のいる世界にアニカの本体があってこっちに意識だけ来てるのかな?

クロやカルがこっちに来て話をする時に似てるか。


「その話し方は?デスとかマスとか精霊の話し方なの?」

「???話し方おかしいデスカ?わたし、マルブランシュ共和国の精霊だったんで、フォルクヴァルツ語の発音はチョット苦手デスネ」

「ああ、そういう」

「あのよ、小隊長。いまいち話が掴めないんだが。精霊なのか、この、、、女子?」

「そうですね。アニカの話からすると、元々精霊として働いていたのに、誰かに力を封じられてダミーさんとして第二の人生を過ごしてた、というか、本人はダラダラしてたみたいですね」


しかしまあ、ダミーさんの見た目で動いたり話したりするのは、違和感ありまくりだ。


「元の精霊の姿には戻れないの?」

「さっきの魔法をもう一度掛けてくれれば、治るかもしれまセ〜ン。お願いできマスカ?」

「うん、いいよ。ヴェルリーズンの反転!」


しゅわしゅわ音がして煙が出てくるけど、一向に変化がない。


「変わらないね〜」

「精霊からダミーさんに変化したのを元に戻す必要があるのかもね。先生、このアニカはどうしましょうか。もうダミーさんじゃなくなってしまったと思うんです」

「そうねぇ。さっき跡形も無くなってしまったものね。この方はもうダミーさんではないみたいだし、、、」


元のダミーさんは事故により消失。

アニカは見た目はダミーさんだけど、精霊として扱う事になった。

特別授業も続けられなさそうという事で中止になり、僕とリーカ以外は教室に戻ってもらった。

ここには、僕とリーカ、アニカとヴォーさん、ツィスカさんだけになる。


「さて、アニカとしては、元の姿に戻りたいんだよね?」

「ハイ!モチロンデス!3ヶ月前にダミーさんに変えられてしまって、今は労災がおりているので、暮らしていけてマスけど、あと1ヶ月でそれも終わるところだったんデス。だから、早く元に戻って仕事に復帰したいデス」


あっちの世界にも労働保険とかあるのか。

戻し方は真実の書の知識には無いみたいだから、母さんが読んだ部分には書いてなかったんだろう。

ラーシュ写本があれば、何か手掛かりが見つかるかもしれないけどな。

カル辺りなら何か知ってるかな。

後で聞きに行ってみよう。


「アニカ本体はそっち?の世界にいるんなら、このアバターとかを新しくするっていうのはダメなの?」

「トンデモナイ!アバターは皆んな自費で用意するんデスけど、精霊のアバターでもわたしの年収の2年分くらいシマス!5年ローンで買ったんデスからほいほい買い換えられないデスヨ!あ、でも、残価設定ローンなので、毎月のお支払いは少なめデ〜ス」


そんなにするんだ。

それを勝手にダミー化されちゃったら、たまったもんじゃないな。


「ちなみに、天使のアバターは家一軒分はシマスネ。高性能、高品質デスから。神様のはもっと凄くて、億はシマス、、、。手や足など至る所から神の奇跡を射出できマス」


ふあぁぁ。そんな高いのか。絶対クロは持ってないと思うよ。

あの貧乏女神には程遠いものだ。

だから、僕のような遣いっぱしりを用意してるんだろうけど。


「ヴォーさん、ツィスカさん。僕に女神の知り合いがいるので、精霊に戻す方法が何か無いか聞きに行ってみますね。アニカも一緒に来てくれるかな」

「ツィスカは神様に知り合いがいる人って聞いた事無いんだけど」

「まあ、小隊長だ。大魔王の知り合いくらいいてもおかしくないぜ」

「流石に大魔王の友人はいないかな」


ギベオンベアーのリュリュさんという魔物の友人はいるけどね。


「ああ、そうだ。最近、この辺りの魔物が暴走して、小さな村に被害が出てるらしいんだ。ギルドのクエストにも討伐依頼は出してるけど、それだけじゃなあ。てな訳で騎士団としても、そんな場面に出くわしたら討伐を手伝うって事になってる。小隊長もまだ一応軍に席が有るんだから、協力してくれよな」


うえっ。あまり協力したくないな。

魔物と一度仲良くなってしまったら、討伐とかしづらくなってしまったよ。

そんな場面に出くわしたら、逆に助けてしまうかも。


「ああん。まだリンくんと話したかったのにい!もう帰んないとだあ!」

「王都にはしばらくいるんでしょう?遊びに行きますよ。エデルさんやエズルさんにもよろしく言っておいてください」

「絶対だよ!遊びに来てよ!じゃないとツィスカはリンくんのお家に突撃訪問しちゃうよ?」

「分かりましたよ。必ず行きますって」

「まあ、小隊長はまだ軍人なんだから、遊びに来られても困るんだがな」


それは仕方ない。席だけ置いてるようなものだから。

ヴォーさん、ツィスカさんは軍に帰ってしまった。




リーカとアニカを連れて、また教会図書館に来ていた。


「カル〜。来たよ〜。話できるかな」


ん〜、留守かな。


「カル〜?居ないの?仕方ない、帰るか」

「…………居ますけど………」


あ、居たんだ。

ん?何か不機嫌そうな表情だな。

中身はカルだけど、外見はまた前と同じ人だった。


「カル?怒ってる?」

「別に?私はリンくんの恋人でも何でも無いですし?会いに来てくれる約束もして無いですし?来るたびに新しい女子を連れて来ても仕方ないですし?」

「あ、なかなか会いに来れなくてごめん。それと、女子が毎回違うのは何というか、その都度用事があって、それがたまたま女子だったっていうだけで」

「用事が無いと私には会ってくれないんですね」


困った。かなりご立腹でいらっしゃる。

それはそうか。

多分だけど、僕に好意を多少なりとも持ってくれている女性の所にたまに現れたら、いつも他の女性を連れて来るなんて嫌だろうな。


「あのさ。今度、カルのアバターで何処かに遊びに行かない?ふ、2人っきりでさ」


こうやって、いつも逃げてしまうからいけないんだと分かってるけど、女性が怒るようなことになったり、悲しまれるのは嫌だ。


「ふ、、、2人きりで、ですか?し、仕方ないですね。ちょ、ちょっとアバターをメンテナンスに出してきます。私のアバターは奮発したので、結構な美人さんなんですよ?」


値段で容姿が変わるのか。

そして、カルはアバター持ってたよ。

クロとは違って信者が居れば、億単位の自家用機を持てるのか。


「おほん。それで、用事があって、来たのですよね?まあ、私に会いに来る理由はそれくらいしか無いのでしょうけどね、、、、。あ、ごめんなさい。また、そういう話になっちゃって」

「ホント、今度はただ会いに来るから。それで、この、こっちの子なんだけど、今はこんな見た目だけど、実は元々精霊なんだって。それが、誰かのせいで綿が詰まった人形になってしまったんだ。それを元の精霊アバターに戻したいんだけど、何か方法を知らないかな」

「あぁ、変わったアバターと思ったら、錬金術でコンバートしたんですね。それなら、またコンバートして元の姿に戻せますよ」


おお、流石カルだ。

すぐに解決方法が分かったぞ。

後で錬金術かコンバートで探せば、何か見つかるかな。


「あ、あの、カルサイト様デスカ?わたしデス!アニカデス!ベニトアイト様の元で働いているアニカデス!」

「ええっ!アニカちゃんなの?そんな格好しているから気が付かなかった………。でも、何で?ベニトアイト君ならアニカちゃんがこんな目に遭ってるのに助けてくれなかったの?」

「ハ、ハイ………。と言うより、わたしがこうなったのは、ベニトアイト様のせいなのデス………」


おお?僕の勲章の一つ、ベニトアイト神が出て来たぞ。

まあ、勲章は人族が勝手に名前を使ってるだけで、ベニトアイト神本人は無関係なんだろうけど。

それに、カルはベニトアイトと知り合いだったんだ。

僕の完全なワガママな気持ちなんだけど、何となくベニトアイトを君付けにしてるのが、少し悔しい。

何だこの気持ち。


「ベニトアイト君のせい?あの人がそんな事する筈無いと思うんだけど。本当にアニカちゃんのアバターを変質させちゃったの?」


ううう。結構ベニトアイトの事を信頼してるみたいだな。

いや、分かってるよ?

別にカルは僕の恋人でも何でも無いし?

カルが僕の事が好き、とか勝手に思ってるけど、ただの勘違いかもしれないし?

本当はベニトアイトの方が好きだったりするのかもしれないし…………。

ああああ!何なのさ!僕はこんな醜い性格の奴だったのか!


「あの、リンくん?どうしました?何か怒ってます?」

「ううん、ううん!僕に怒る資格なんて無いんだ!勝手に嫉妬してるだけだから!」

「へ?し、嫉妬、、、ですか?わ、私に?え?今の会話で?あ!もしかして、ベニトアイト君との関係を疑ってますか?違いますよ!私、ベニトアイト君なんて、何とも思ってませんから!私はああいう筋肉で考えてるような人は苦手ですから!私はリンくんの事がす、、、、何でも無いです」


そうなんだ。何とも思ってないのかぁ。

そっかぁ。

うわぁ、僕のこの気持ちはあまり良く無いよね。

カルの気持ちにちゃんと答えられてないのに、一方的に嫉妬しちゃってさ。

それで、勝手にホッとしちゃってさ。


「あ、でも、私に嫉妬してくれたんですね。嬉しい………。もしかして、まだ諦めなくても良かったりします?」

「ああ!おほんおほん!リーンハルトくん!話が進まないんですけど!これじゃあアニカさんの事が解決しないんですけど!!」

「あのその、わたしはいいんデス。お2人がいい雰囲気なのを邪魔する気はモートーないデスから」

「アニカさんが良くても私は良くありません!!」


いかんいかん。

ちょっと雰囲気に流されてしまった。

カルの事は後でちゃんと自分の気持ちも考えよう。


「は、話を戻そう。そのアニカのアバターを勝手に変えちゃった犯人はやっぱりスファレライトだったりするの?」

「エ?スファレライト様はそんな事しまセンヨ?ムシロ、そういった封じられた精霊を解放して回ってマスネ」


あれえ?

意外といい奴?

そんな筈無いんだけどな。


「あ、スファレライト君って、自分の精霊を増やして何か企んでるんです。だから、助けている訳ではなくて、駒を増やしているんじゃないでしょうかね」

「そういうことか。そうだよね。そんないい奴な訳ないか。それにしても、カルはスファレライトも君なんだ………」

「わっ。また、嫉妬してくれたあ!はうううん!嬉しいぃ!」


ちょっとね。ちょっとだけだよ?

だって相手はスファレライトだよ?

君とかいらないでしょ?


「私も、スファレライト君!とか言っちゃったりして!」

「どうしたのリーカ。前はすー様とか言ってたし、それもやめたんでしょう?」

「ううう。扱いが違う気がする………。私にも妬いてほしいです」

「あ、そうか、えっと、あいつに君とか付けんなよ〜。こんな感じ?」

「………はい。それでいいです……もう」


スファレライトの仕業じゃないとしたら、一体だれのせいなんだ?

神様か天使か?

それに、そのダミーさんにしたのが神様だとしても、それが学園にあるのも納得がいかない。

普通に備品として使っているし、当たり前の物として大量に置いてある。

先生はその正体を知らなかったみたいだけど、学園ぐるみか、最低でも学園長あたりは関係していないと、こうはならない筈だ。


誰か黒幕はいるとして、そいつが精霊を封じて、それを学園が引き取って利用しているという事は間違いないと思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る