第四十七話 図書館塔
「明日、図書館塔に行ってみるよ」
「そうしてね。もう写本を見に来てるかもしれないからね」
「うん。じゃあ、今日はこれで帰るよ。教えてくれてありがとね、クロ。お金、掛けさせちゃって、ホントに、ごめん」
「まあ、今回はカルちゃんに借りちゃったから、いいけど。あ、ちゃんと後で返すよ!」
「そうか、カルもありがとう。今度何かで必ず返すよ。そっちのお金は無いから別のになるけど」
「……………」
あ、あれ?カル?
動かなくなった?
寝てる?
「今のはカルちゃんには刺激が強すぎたね〜。もうちょっと待っててね。すぐ回復すると思うから」
「こほん、リ、リンくん。また近いうちに会いましょうね」
あ、復活した。
「うん。また来るよ」
「あ、あの、このアバター、、、この体の人は私ではありませんからね。この人のイメージをあまり持たないでくださいね。その、私はこんなにスタイル、良く無いですから………」
そう言われてどう返事しろと!
回答に困るよ!
「あ、えと、その人の話し方でどういう人なのかは大体わかるから、平気だよ。ほら、クロなんてこの話し方だからさ。それがその人の魅力でもあるんだから。いま僕はカルの事、とってもステキな人だなって感じてるよ」
「……………」
あ、また固まった。
大丈夫かな。
「大丈夫、大丈夫。多分、今は鼻血を拭いてるだけだから」
「違います!」
結局、あのまま剣の作り方なんて調べてたら怒られそうだったから、何も調べずに教会図書館は出て来てしまった。
しかし、他の女神も居たんだな。
クロがいるんだから当たり前なんだけどさ。
えっと、クリノクロア。
ようやくクロの真の名を覚えたぞ。
別名、セラフィナイト。
色は落ち着いた翠。緑じゃなくて翠。
銀色の羽根を待つ。
え?クロって羽根生えてるの?
クロのくせにカッコいいな……。
平穏や癒しの女神。
人を安心させる。
まあ、そうだね。
クロと話していると自然と安心する。
硬度はかなり低い。
カルより低い2だ。
柔らか女神達だね。
水や光が苦手。
自分の部屋から出たくないって言ってたからね。
そう言えば前に貰った勲章も神様の名前を借りてたな。
ベニトアイト神は優しさと正義の神。
色は輝く美しい青。
硬度は6。
人を導き、人を前向きにする、爽やか貴公子みたいな神様だ。
カーネリアン神は迷いを払う勇気と勝利の神だ。
色はオレンジがかった赤。
硬度は7。
戦いを好み、血の気の多い、武闘派の神様だ。
どっちもあの女神ズと比べるとかなり硬いな。
硬度派が好みそうな神様だね。
神様同士でも硬度が違うと仲が悪いんだろうか。
というか、神様の硬さってなんだよ。
そう言えば勇者の運命を僕から抜き出した神様はなんて言ったっけ。
翌日、お昼の食事の時間に図書館塔に行ってみる。
図書館塔は中等部棟だけでなく、他の建物からも同じ距離にある。
つまり、図書館塔を中心にして、各棟が円を描くように建てられていた。
図書館塔は他の建物より遥かに高く、上を見上げても最上階がどこにあるのか分からないくらいだ。
塔の中に入っても特に受け付けもなく、誰でも自由に入れるようだった。
中は誰もいない。
静かだ。
小さな高窓から外の明かりが入る。
塔の下層は一般図書がほとんどだ。
物語や詩集、歴史書、宗教、魔法、などなど色々な種類の書籍が並ぶ。
塔が円形をしているため、書架も壁沿いに中心を向くように付けられていた。
一階分の高さ一杯に本が並び、上の方の本を取るには移動式のハシゴをぐるっと壁の周りを動かして来て取ることになる。
入り口から入って左右に上階へ上がる階段がある。
どちらから上がっても二階の通路へと繋がる。
これ、ずっと上まで行くのか。
重要な図書は上層にあるらしいから、それを見たければ階段を上がるしかない。
二階は下と違って床の面積は少ない。
塔の中央部は一階のみしかなく、上の方までずっと吹き抜けになっていた。
なので、二階以上の各フロアは壁付近に、すれ違いがなんとか出来る程度の幅の通路が設けられているだけだった。
この辺りに今は用がないので、すぐ上の階へ上がる。
体力的には問題ない。
身体能力を少し上げて、疲れにくくしつつも、出来るだけ早く階段を上がれるようにする。
どれくらい上がっただろうか。
下を見ると高度感があって少し怖い。
上の階層に来ると段々とフロアが狭くなってきていた。
十数階まで来ると一階の半分程度になる。
その分、通路は幅広くなり最後は吹き抜けではなくなった。
書架もこの階だけは変わっていた。
まず、背表紙がこちらを向いていなかった。
どの本も小口、つまり開く側を見せて収納されていた。
これだとどの本か分からないよね。
一冊取り出して見ると、鎖がジャラジャラ付いていた。
鎖は書架の奥にある鉄の棒に繋がれていてもう一方は当然取り出した本に繋がっている。
つまりこれはあれだ。
チェインドライブラリーという奴だな。
貴重な本を盗まれないように鎖で繋いでしまっているわけだ。
鎖もこの本棚の前にある書見台までの長さしかないから、読みたきゃここで読め!ということだ。
取り出した本は元に戻して、目当ての本を探す。
そう、真実の書の写本、の写本。ラーシュ写本だ。
でも、この背表紙が見えない書架で、どうやって探せばいいのだろうか。
あ、本棚の下に目録が貼ってあった。
どの棚のどの位置に何の本が収まっているか、これで探す訳だ。
さあて、ラーシュ写本はどこかな〜。
えっと『ドリーオハトの書』に『グローとミァン』か、なんだか分からない本が多いな。
『精霊の秘密の詩』。これは詩集かな。
『宝石と鉱石のすべて 神の宿る石』。こ、これは神様の解説本って事?それともただの宝石の本?
凄く見てみたいけど、今は我慢だ。
あれえ?無いなぁ。
この階の本は全部見たぞ。
この上は階層はあるみたいだけど階段が無いから行けない。
もう一階層下かな。
ええ、写本とはいえ真実の書だよ。
この階で鎖に繋がれていて良いものだよね。
「何を探しているのですか、騎士さん?」
「わっ!あ、、、レ、レクシーさん?」
「ふふっ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたね」
こんな所でレクシーさんと会うなんて。
もしかして、レクシーさんが勇者候補?!
ちょっと探って見るか。
「レクシーさんこそどうしたんですか?ここってあまり読みに来る人っていないですよね」
「ええ、ですので、気になって付いて来たんです。貴方が中等部棟を出て、この図書館塔に入るのを見て、、、よく考えたら、私ったらこんな所まで追いかけてきた変な女ですね」
理由としてはそれ程違和感は無いけど、咄嗟に答えた嘘かもしれない。
「僕はある貴重な本が見たくて来たんです。でも今は無いみたいですね。鎖を外して誰かが持ち出していたりして」
「………そう。もし、そうだとしたら大変ですね。私はあまりこの階層に来ることは無いから分かりませんが」
んんー?分からないな。
どっちだ?
核心をついてみるしかないか。
「ラーシュ写本って、レクシーさんは見た事、ありますか?」
「え?ええ、ありますよ。2年の授業で読みました。でも何が書いてあるのかさっぱりでしたね」
あ、そうか!レクシーさんは今3年だから去年読んでいるのか。
それに勇者候補って今年入学したはずなんだから、レクシーさんな筈無かったよ………。
無駄に疑っちゃった。
でもそれなら何でこんな所まで来たんだ?
僕に用事があったとか?
「リーンハルトさん。あなたに学園でまた会えたら、言おうとしていた事があるんです」
「え?は、はい。どうぞ」
何?何?これは、こ、こくは、、、、いやいやいや。
「私、、、貴方の事が、、、、欲しいんです」
うええええっ!
告白以上?!
逆か!貴方の事ってお命頂戴って事!?
いきなり豹変して襲いかかって来る?
「すみません。慌てて言葉選びがおかしかったですね。少し落ち着きます」
そう言ってレクシーさんはスーハーと深呼吸をする。
その光景はまじまじと見てはいけない気がして、目を逸らし、そして、横目で見る。見ないという選択肢は無い。
「私は今、この学園の生徒会長をしているのです。そして、貴方が、リーンハルトさんが生徒会のメンバーとして欲しいんです。入っていただけませんか?生徒会に。副会長になっていただきたいのです」
ええええ?!
そういう話だったのか。
つくづく予想が外れるな。
「そう言っていただけるのは嬉しいんですけど、何で僕なんですか?まだ2回しか会ってないですよね」
「ええ。ですが、以前から貴方のことは知ってはいたのです。実はエルフリーデ王女殿下とは家の繋がりでお話をする機会が良くあるのです。先日、今度学園に通う事になるので、その時はよろしくと、お言葉を頂いたのですが、その時に貴方のお名前が出ました」
なるほど。でもそれだけで?
「その後、色々と調べさせていただきました。王女殿下だけでなく、国王陛下からも一目置かれていると聞かされては、どんなお人なのか知りたくなってしまいました。私は駄目ですね。知りたくなると周りが見えなくなる性分のようです」
「調べたって、どんな事ですか?」
怖いな。レクシーさんって見た目に反して結構攻めてくるタイプだな。
「軍に入隊して活躍された事、勲章を同時に二つも受けられた事、国王陛下と口喧嘩をしても許される程、陛下に認められている事。今、お二人の殿下以外で学園内では誰も知らない事ですが、派手な人生を送られていますね」
お恥ずかしい。
特に最後の。
何となくあの王族の連中には、ズバズバと言ってしまうんだよね。
何か、こう、あの国王とは何十年も前から知り合いだったみたいな、感覚がする。
10歳が何言ってるんだって話だけど。
「入学試験の話や最近ではシャッハの試合でのご活躍も耳にしています。貴方の事は知れば知るほど、分からなくなる事が増えるのです。ですので、それであれば一緒に生徒会に居れば、何か分かるのではと。あ、いけない、本音の方を話してしまいました。貴方のその実力を生徒会で発揮してもらいたい、、、と、もう遅いですね」
本音が隠せない性格?
それとも、信頼を得ようとわざと言った?
「評価してくださったのは嬉しいですし、生徒会に誘ってくれたのも光栄です。でも、僕にはやらなければいけない事があって、それには生徒会は手に余ってしまうと思うんです。だから、その、すみませんが」
「そう。残念ですね。そのやらなければならない事というのは、先程話に出たラーシュ写本が関係したいるのですか?」
「はい。そうなんですけど、どうにも見つからなくて。ここにあるはずなんですけどね」
単純に僕が見たかったというのもある。
村を出るきっかけにもなった写本だ。
ここにあるなら見てみたい。
「この図書館塔にある事は確かです。ですが、どこにあるのかは誰にも分からなくなってしまっているのです」
「え?どういう事ですか?」
ここにあるのは分かっているのに、どこにあるのか分からないの?
なぞかけ?
「このフロアの蔵書はすべて鎖が架けられていますが、もう一つ、魔法でも封じられてもいます。その魔法が掛けられた本をこの塔から持ち出そうとすると、警報が鳴り響き、扉や窓は全て閉じ、外からも内からも出入りする事が出来なくなります。写本が見当たらなくなってから、そのような事は起きてませんので、少なくともこの塔内に写本はあるのでしょう」
「そうなんですね。でも見つからない、と」
困ったな。僕自身も読んでみたいし、写本が見つからないとなると、勇者候補が見にこなくなる。
最悪、王都内の図書館や教会に読みに行ってしまうかもしれない。
「分かりました。この塔の何処かにあると分かっているならすぐに見つかりますよ!僕が探してみます!」
「ふふ、頼もしいですね。また一つ騎士さんのすごいところが見れそうです。今度は聞いた話ではなく、目の前で見れるのですね」
え?ずっと見てるの?
それはそれで緊張するから困るな。
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