第三十九話 クラスメイト
王立学園の入学式は平和に終わった。
国王は本当に出席したけど、自分の息子、娘が入学するのだから当然だった。
何だよ、最初から僕の為に挨拶するんじゃなくて、子供の為に来る予定だったんじゃないか。
僕を名指しでのお祝いやら呪いやらは無かったし、すっかり騙された。
それにしても、校歌斉唱で新入生も歌えって、どうすれば良かったんだよ。
歌詞が分からなくても、あー、でいいから歌いなさいって、言われてみんな困ってた。
そして、国王はここまで聞こえるいい声で歌ってた。
卒業生なんだろうか。
入学式が終わったら、教室に入りホームルームになった。
この王国内の他の学校は入学式もホームルームも制服すら無いのが普通だ。
だけど、この王立学園だけは特別のようで、図書室があるのもここだけだった。
「みんな、入学おめでとうございます。このクラスの担任のエーレルトです。これから3年間このみんなと一緒に仲良くやっていきましょうね」
ああ、この先生は剣術試験の時に僕の目を回復してくれた人だ。
剣術の先生かと思ってたけど、魔法学科の先生だったんだ。
「今年の新入生は剣術学科が1クラス、魔法学科が4クラスになります。今年は魔法を選択した生徒が多いですね。先生、嬉しいです。去年は1クラスしかありませんでしたから……」
へぇ、年によってかなり偏るんだな。
1クラス20人くらいだから、魔法学科は80人前後いるのか。
「このクラスは変わりも、、、特殊な、、、個性豊かな子達が集まっていますね。先生、このクラスを押し付けられ、、、任されましたので、気が重、、、ワクワクしています」
本音がダダ漏れの先生だ。
それに、変わり者って言おうとしてたけど、僕もそれに含まれるのか………。
「あと、出来ればいきなり切り刻んだりしないでくださいね」
あ、僕もこのクラスで妥当でした。
入学試験で試験官を切り刻んだように見せるような奴は変わり者であってます。
「さ、さあ、気を取り直して、お楽しみの!自己紹介コーナーいってみましょう!」
何それ?みんな楽しみなの?!
そんなの聞いてないよ。
自己紹介って何すればいいのさ。
名前を言えばいいの?
「じゃあ、一番端のあなたから、どうぞ!」
「うえっ!いきなりあたしから?ええっと、ティアナ・トイフェルです!レックリングハウゼンから来ました!小さい町から来たから王都の人達がとってもオシャレでビックリしました!カワイイアクセサリーとかが好きなんで、同じ趣味の人がいたら話しかけてね!」
自然と拍手が起こる。
ど、どうしよう。こんな気の利いた事、言えない!
「はい、よく出来ました。次どうぞ」
「は、はい、ベベベベ、ベルン・ミューエででです!マルブランシュ共和国出身でふ!わたわたわたしは!ひ、人族です!嘘じゃないです!」
「分かってますよ?どう見ても人族ですよ?緊張しちゃいましたね。じゃあ、次の人にいってみましょうか」
だ、ダメだ、こんな風になったら心が耐えられない!
ス、スキルだ!何か自己紹介スキルとかないか!
(じこしょうかい)
みつかりませんでした
(あぴーる)
みつかりませんでした
(ぷれぜんてーしょん)
みつかりませんでした
ぬおおおお!
何か解決方法は無いかー!
(わ、わじゅつ)
[わじゅつ]検索結果 1件
話術SLv1
[戻る]
こ、これか!?
これなら何とかいけるか?
1分で出来るし、とにかく作ってみよう!
次々と順番が回ってきて、あと一人という所でスキルが出来上がった。
これ、アクティブスキルだな。
発動してから10分間は話術が効くみたいだ。
(話術)
こ、これでよし。
「はい、じゃあ次の、あら、あなたは、き、切り刻まないでね?」
うぐっ、余計な事を言って難易度上げないでよ。
「はい。僕はリーンハルト・フォルトナーと申します。マルネの町の隣、ドルフ村という片田舎から参りました。右も左も分からない若輩者でございますが、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます」
ま、待て!何か違う!
自動で言葉が出たけど、スキルレベル1だと場の雰囲気に合わせてくれないのか!?
ど、どうしよう。クスクス笑われてる………。
「か、変わった自己紹介ね。フォルトナー君は剣術学科も合格していましたよね?確か特待生として学費免除だった筈なのに、どうして魔法学科へ来たのですか?」
な、何!学費免除だと!
い、いや、あの先生の下に付くのは耐えられない。
惜しいけど、魔法学科で正解な筈だ。
「はい、志望動機は、御社のビジネスモデルのグローバルでシームレスなスケールメリットやブレークスルーをもたらすソリューションに魅力を感じました。インキュベーション制度のアセスメントが高い事も好材料となったかと思われます」
うがあ!こ、答えたらダメだ!
何を言ってるのか自分でも分からない!
一度発動したら10分間は止められない。
もう黙ってよう!
「よく分からないけど、魔法学科を選んでくれたのは先生嬉しいです。剣を持たずに済みますものね」
言いたい事はあるけとここは我慢だ、ここで何か喋るとおかしな事を口にしてしまう。
次にいってもらおう。
「クラウディウス・ツェーリンゲンだ。王都上級貴族街に住んでいる。俺は平民だとか貴族だとかでは判断しない。実力が有るか無いかだ!平民でも力があれば歓迎する。だが口が良く回るだけでここに居るようなヤツは俺の視界に入る事は許さない」
試験の時の雷野郎か。
それ、僕の方を見ながら言うなよ。
さっきのはスキル選びを失敗しただけなんだから。
「では、最後にお二人にお願いします」
「ええ、で、ではわたくしから。み、みなさんご存知でしょうけど、わたくしはエルフリーデ・アーレルスマイアー、フォルクヴァルツ王国第1王女ですわ。ですが、できれば、王女ではなく、フ、フ、フリーデとお呼びくださいまし」
(………僕は…クリスト…フォルス……アーレルス…マイアー……です。……よろしく……)
フリーデの方は何とか頑張ったかな。
クリスは声ちっちゃ!
これは僕が友達作りを手伝ってあげないとだ!
今日は入学式とホームルームだけで終わった。
早く授業が始まらないかな。
帰る前に先生から教科書という物が配られる。
明日から始まる授業で使う教本のようだ。
しかし、この教科書は重い。
何冊有るんだ?
学園指定のカバンにはギリギリ入るけど、ずしっとした重さで持ち手の部分が壊れそう。
あ、そうだ、カバンに入れるフリをして、こっそりとストレージに入れちゃえ。
筋力を上げれば持てなくは無いけど、空っぽの方が歩きやすいや。
「おい、リンハッ!これ重いぞ!どうやって持って帰ればいいのだ」
その呼び方定着させるの?
自分でも言いづらいって言ってたのに。
「わたくしは普段から鍛えてますから、これくらい何とも無いですわよ?」
「ほら、フリーデは問題ないって言ってるよ?クリスも自分で持たないと」
「うっ、そうか。王宮ならみんな僕の物は持ってくれるのだが。リンハは厳しいな」
「友達なんでしょ?だったら甘やかさないよ?」
「そ!そうだ!友達だからな!そうだ、僕を甘やかしたらよくないな!うん、これは自分で持とう!」
ん?周りがざわざわしてるな?
と言うかみんなこっちを見てる。
何かおかしな事、話してたかな。
女性のはやっぱり持ってあげるべきなんだろうか。
父さんもしょっちゅう女の人に荷物を持ってあげるよと声を掛けていたっけ。
さあ、家に帰ろう。
「リーンハルト君。こんにちは。ああもう、やっと話せた」
「ああ、リーカ。同じクラスだね。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしく…です…。えへへ」
「こちらはどなた?」
「いや、さっき自己紹介してたじゃないか、クラスメイトのリーカだよ。えっと、クルルーカ・リーカ」
「ウルリーカ・クルルです!あ、王女殿下、王子殿下。お初にお目にかかります。ウルリーカ・クルルと申します」
クリス!友達作るチャンスだよ?
あれ?どこ行った?
ああ、フリーデの後ろで教科書を数え始めてるな。
ほ、ほら、こっちにおいでよ。
ん?意外と力強いな。
フリーデとリーカが仲良く話している間にクリスも加わって、ってフリーデ達も固まって黙ってる。
何だよ、ここに居るのみんな人見知りか!
そう言えばリーカも友達少なそうな事いってたっけ。
「あ、そうだ、ねぇ、みんなこれからこのメンバーでアーケードに行かない?そこで、何か甘いものでも食べようよ」
お互いこれで仲良くなれないかな。
あれ?三人とも固まって動かなくなっちゃった。
「みんなどうしたの?」
(学校帰りに買い食い?!ふ、不良ですわ!い、いいのかしら?いいのかしら?)
(と、友達っぽい!いや!これで友達も同然か?)
(殿下お二人と食事?!き、着ていく服が無い?!)
ブツブツ言ってるなあ。
まあ、似た者同士から上手くいけそうな気がする。
よし、このまま外に連れ出そう。
「お待ちを王女殿下。放課後は速やかに王宮へ帰還されたしと、国王閣下より承っております。即刻、ご帰宅を」
「ユーリア?いたのですか?」
「………私も同級生の末席に座らせて頂いております。その、先程は自己紹介も、、、したのですが。そうですね。殿下は私のことなど眼中に無い存在ですよね」
「い、いえ!分かっておりましてよ?ユーリアが居た事なんて始めから気付いてましたのです。もう帰ってしまったのかと思っただけですわ」
王宮の護衛、、、かな?
なんだ本職がいるんじゃないか。
やっぱり僕がわざわざ護衛する必要無かったんだ。
さっきの自己紹介だと、この人はユーリア・へふへんふさん。
家名なんだっけ。
「紹介致しますわ。この子はわたくし達の護衛をしてくださっている、ユーリア・ペーテルゼンです。小さい頃からずっと一緒に過ごしている、と、友達ですのよ」
「いいえ、王女殿下。僭越ながら二つ訂正させていただきます。一つは私の護衛対象は王女殿下お一人です。何処ぞの王子とやらは私には関わりのない事になります。そして、二つ目は王女殿下と私は友人関係にはございません。あくまでも護衛とその対象にございます」
「もう!クリスの事はどうでもいいけど、わたくしのお友達にはいつなってくださるの?ずっとお願いしているのに、なかなかいいお返事が頂けないのですわ」
クリス。僕がいるからね!
気を落とさないでね?
ってそんなに気にしてない?
クリスもユーリアさんもお互いが目に映ってないような振る舞いをしてるよ。
これ、いつもの事なのか。
「では、帰りましょう、殿下。閣下がお待ちです」
「ねえ、ユーリア、少しくらい寄り道してはいけませんか?せっかくお誘いくださったのに、無碍にはできませんわ!」
「あの、それならこの5人で行きませんか?本当に少しだけですから」
「むう。分かりました、仕方のないお人ですね。すぐに帰りますからね」
「嬉しい!だから好きよ、ユーリア!あ、いえ、オホン。好きでしてよ?」
ほうほう。フリーデは本当にこのユーリアさんと仲良くなりたいんだな。
んで、ユーリアさんは任務だからと頑なに距離を置いていると。
ここも何とかしてあげたいな。
結局、さっきの5人でアーケードに来ていた。
もうちょっとみんなの会話が弾んでくれたらいいんだけど、ここに来てから僕しか話していない気がする。
ユーリアさんはフリーデにべったりくっついているけど、あとの二人は少し距離をあけて歩いている。
ここで話さないでどうするのさ。
また何か話しを振ってあげるかぁ。
「きゃああ!私のカバンを返してー!だれか!」
何だ?前の方から男がカバンを抱えて走ってくる。
ひったくりか!
捕まえるか。身体能力を最大に引き上げようとしたけど、前にずいっと出てくる姿がある。
フリーデ?何してるの?キミ王女様だよね。
ちょっと下がっててよ。
くそ、間に合わないか。
せめて。
「ワハトヴュールの炎」
「ぐおお!何だこの火は!熱い熱いあつ、くない!なんだこれ!」
フリーデが混乱している男の胸元と袖を握り、クルンと男に背を向けたかと思った瞬間!フワリと男の体が宙を舞う。
フリーデは軽く体を跳ねあげただけで、男を投げ飛ばしてしまった。
そして、男は石畳みに腰を強打してのたうち回っている。
いくら、魔法の炎で男の視線を遮っていたとしても、こうもキレイに投げ飛ばせるものなのか。
護衛なんて要らないんじゃないのか?
って、その本職護衛は何処にいるんだ?
あ、僕の後ろにしがみ付いていたよ。
リーカ辺りかと思ったら、ユーリアさんだった。
何してるのさ?
そう思っていたらおもむろにユーリアさんが男に向かって歩き出す。
まだ腰を押さえて苦しんでいる男の腹に足をのせて、かかとでグリッと捻る。
ウグッ。痛そう。
男は悶絶して声にもならないみたいだ。
「召し捕ったり!」
いやいや、召し捕ったのはフリーデでしょ?
手柄を横取りしたみたいになってるし。
あなたは直前まで僕の後ろでちっちゃくなってたでしょ?
「やりましたね、ユーリア!流石わたくしの護衛ですわ!」
「ふう!これが任務ですから。王女殿下が倒して私がトドメを刺す。いつものいい連携でした!」
「ええ、ナイスコンビネーションですわ」
トドメってフリーデが倒してるなら、もう要らないんじゃないの?
いや、まあ、二人がいいなら何も言わないけどさ。
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