第三十七話 一日国王

国王に合格したら報告に来いと言われている。

不合格でも来いと言われてるけど。


仕方ないから行くとしても、せっかく謁見できるならその時にエルツ族の扱いを良くしてほしいと文句、、、じゃなくて、お願いもしてみよう。

あの国王だからエルツ族に個人的な恨みがあって、国民にこんな扱いをさせている可能性もあるけど、それでも話が通じない相手では無いはずだ。


せめてエルツ族だと知られても自由に街中を歩いたり買い物が出来るようになって欲しい。

そして、いつかフィアが学校にいけるようになって欲しい。


王宮の受け付けで謁見の申し込みをすると、また入城カードをもらって首にかける。

謁見の間に来ると、これまた結構な人数が待っているもんだ。

ひいふうみい、20人くらいはいるかな。

実は国王は人気者なの?

いや、逆に文句を言いに来てるのかもしれない。

いい国王なのかダメダメな国王なのか判断つきづらいものがある。


列の後ろに並んでいると、奥から宰相さんがやって来た。


「フォルトナーさん、お待ちしていましたよ!国王もここ最近ずっと、あいつはまだ来ないのかー、と話していましてね。さ、こちらへどうぞ。国王がお待ちです」

「え?まだ順番では無いですよ?」

「ああ、フォルトナーさんは一般の人とは違いますから。そう言えば前回も一般謁見で来られていましたね。貴方は英雄なのですから、特別謁見と受け付けで言っていただければ、最優先でお通しできますよ」


やっぱりまだ僕の事を英雄として利用するつもりなんだな。


「いいえ、僕だけ特別扱いしないでください。ちゃんとここで順番を待ちます」

「ええ?!そ、そんなあ、もう国王にはフォルトナーさんがいらっしゃってる事は耳に入っているので、早くお連れしないと私が叱られるんですよ」


ずるいなぁ。そう言われたら付いていくしかないじゃないか。

仕方なく宰相さんに連れられて、謁見待ちの人達の列をドンドン追い越していく。

うわあ、見られてるよ。

皆さんずっと待ってるだろうに、ごめんなさい。ごめんなさい。


大勢の人を追い抜いて、お先に入らせて頂きます。


「国王、フォルトナーさんをお連れしました」

「おお、やっと来たか!で、どうだった?やはり落ちたか?」

「いや、無事受かりましたよ………。なんで落ちて欲しそうなんですか」

「ちっ、まあいい。おお、そうだ!リーンハルト、合格したのならお前の入学式に出てやる。そこで俺が祝辞を述べてやるぞ。どうだ、嬉しいだろう!」


舌打ちしてるし。

国王の祝辞とかいらないな。騒ぎになるからやめてほしい。


「まあ、それは次の時にでもお願いします。それより国王にお願いがあってきたんですよ」

「次って、入学式はもう無いだろうに。こうなったら何が何でも祝辞を言いに行ってやる。名指しで祝ってやるぞ!」

「呪ってやる、みたいに言わないでください。それでフォルトナーさん、王へのお願いとは?」


本当に出席しそうで怖いな。

嘘の日付を教えておこうか。


「お願いというのは、この国のエルツ族に対しての扱いについてです。王都に来るのも自由に出来ないのはどうにかならないんですか?」

「今いるのか?王都に!クラウゼン!王都中を探せ!引きずり出して牢屋にブチ込め!」


は?何?急に国王の様子が変わった。


「ちょっと待ってください!何で何もしていないのに捕まらないといけないんですか!」

「おい、リーンハルト!お前まさか!あの悪魔を匿っているのか?出せ!今差し出せば罪には問わんでやる!さあ、どこにいる!」

「何言ってるんですか!エルツ族は悪魔じゃないです!れっきとしたヒトです!」

「何がヒトだ!アレがいるだけで周りに呪いがかかるのだぞ!アレのせいで国が一つ滅んだのだぞ!」


何なんだ?あの国王が怯えてるのか?


「国王!エルツ族がいるからって国が滅ぶなんてあり得ません!呪いなんて掛かる筈がないんです!」

「そんな訳あるか!実際に隣国の一つは過去に滅んだ。あの国がエルツ族を受け入れたからだ。神に逆らう魔族に我が国が取り憑かれる訳にはいかんのだ!」


違う。知識も認識も事実とかけ離れている。

これが今のエルツ族に対する扱いの元凶なんだ。


「国王。僕の話を聞いてください!国王は、いや国王だけじゃなく、王国みんなが騙されているんです!歪んだ情報に踊らされています!」

「リーンハルトよ、お前、エルツの呪いにでも掛かったのか?エルツ族に関わるとロクなことにならないというのは、王国民誰もが知る常識だぞ?」


くそっ、どう言えばいい?

これこそ呪いのように間違った常識に縛られているみたいだ。


「もし、エルツ族の呪いなんてものがあるなら、この前の砦奪還は失敗していましたよ。第2部隊の救出だってうまくいかなかった筈です!むしろエルツの祝福があったからこそ成功に導いてくれたんです!」

「な、何を。エルツの祝福、だと?」


ええい、もう嘘でも何でも良いから、まず国王の考えを改めないと始まらない!


「ええ、そうです。僕にはエルツ族の仲間がいます。あの奪還戦の時もそのエルツ族からの祝福を授けてもらったお陰で成功しました。考えてもみてください。敗北間違いなしのあの戦いが圧勝に終わったんですよ?僕一人が加わっただけで戦局がひっくり返る筈ないじゃないですか」

「う、うーむ。それはそうだな。確かにリーンハルト一人の手柄だと言われても不思議でならなかったのだ。そうか、その祝福があったからこそあの大勝になったというのか」


あの時ラナからメッセージを貰ってたし、あれが祝福なんだ。そう、あれが。見せろと言われても見せられない内容だけど。

でも、寂しかったのが和らいでやる気も出たから、僕にとっては祝福だ!


「それに、この王国にはずっと前からエルツ族はいました。ですが、この国はまだ健在で、滅んでなんかいません!それだけでも、呪いは無いという事の証明にならないですか?」

「む、むう、しかし、これから発動するという事もなくは無い訳だが」

「エルツ族は魔物と人族の子なんかでは無いんです!神と人族との子なんです!僕達と同じ祝福を受けるべき種族なんです!」

「なんと!魔物ではなく神との子、なのか?それは本当なのか」


どっちかと言うと、神様が神格を落としまったのを魔族とか、その子供を魔物と呼ぶ事が世の中に知られていないのかもしれない。

その事も二人に話すとやはり知らなかったようだ。


「にわかには信じがたい。クラウゼン、エルツ族について徹底的に調べるのだ。いつ、どのような経緯でエルツ族という種族が出来たのか。そして、魔族や魔物とはなんなのか。本当に神が変わった成れの果てなのか」

「はっ!大至急調査いたします!」


これで少しは進展したのかな。

少なくとも国王と宰相さんは信じ切っていた今までの常識を疑ってくれる所まではきた。

王宮として調べてくれるなら、僕が一人意見を言っているより余程説得力が増す。

思っていたよりいい方向に向かっているように思う。


よしよし!これで用は済んだ。

帰ろう帰ろう!


「リーンハルト。お前この後暇だろう?少し待っていろ。食事でも付き合え」

「まあ、時間はありますけど、でも、謁見の方達がたくさんいるじゃないですか。そんなに待ってられないですよ」

「お前国王の誘いをそんな理由で断るのかよ。謁見はすぐ終わる。大抵があれをこうしてくれとか、あれは何とかならないのかとかだから、サッと解決する」


そんなんでいいのか、国王の謁見って。

まあ、すぐ終わるなら待つのくらいはいいんだけど何してよう。


「そうだ、お前も謁見しろ。いや謁見されろ、が正しいのか。うむ、それがいい!将来の勉強にもなる」

「??言っている意味が一つも分からないんですが?」

「国王。時間もないので訳の分からぬ余計な事はお控えください」


宰相さんも言っている意味は分かっていないようだから、少し安心した。


「クラウゼン、椅子を一脚持って来い。リーンハルトはそこで一緒に謁見して、何か良い解決策があれば忌憚のない意見を述べるように」

「僕は特に国王では無いのですけど」

「ははははっ!当たり前ではないか!俺が国王だぞ!ん?それもいいな、今日はお前は一日国王だ!俺の代わりにここに座れ」


流石にそれは宰相さんが涙目になりながら阻止していた。

この人、心労で倒れないか心配だ。


だけど、僕も謁見される側になるのは宰相さんでも止められなかった。

何故か国王の隣にちょこんと座らされ、次々と王国民からの謁見を受けるという体験をする事となった。


「次の方、どうぞ」

「し、失礼します。??えっと国王様、と、お子様?」

「違う。この者は体験国王だ。気にするな。して、今日は何用だ?」

「は、はあ。そしたらお聞きしたい事があるんですけども。去年、雑貨屋を辞めて農家になったんですが、今年から急に作物が出来なくなったんでさあ。何かこの国の土地に呪いが掛かったんじゃねえのかってうちのモンと話してたんですけど、国王様しらねえですか?」


何だこの話は!

そんなの国王に聞く話じゃないよね。

国王はこんなの毎回聞かされてるのか!

いや、これは流石に怒って帰すか。


「ほう、呪いか?そんな話は聞かないからな。他の農家はどうなんだ?みんな出来なくなったのか?」


えええ?ちゃんと話聞いてあげるのか!

なんか凄いな、この国王。


「そう言えば隣の畑は豊作だったとか言ってたかなあ」

「なら、作り方が良くなかったんじゃないのか?」

「いんやあ。去年とおんなじ作り方を守ったんで、おんなじ物が出来る筈なんだけんどもな」


こんなのすぐ終わる、とかにはならないよね。

仕方ない。

ずっと黙って目立たないようにしようと思ってたけど。


「あの、それって連作障害じゃないんでしょうか?」

「れ、れん?なんだそれは?」

「連作障害です。去年は何を作ったんですか?」

「イモだ。ジャガイモ」

「今年も?」

「ああ。今年はノルドのイモが戦争で入ってこなくなったから、南のを使ったんだ。ああ!それか!それがダメにしたんか!」

「ち、違います。えっと、同じ畑で同じ種類とか同じ科の野菜を育てようとすると土の栄養が足りなくなって育たなくなるんです。翌年は別の科にしたり、連作可能な物にした方がいいでしょう。もし、どうしても変えられないなら膝上くらいまでの深さを掘り返して底の土を表に出すとだいぶ良くなると思いますよ」


こんなの国王に相談する話じゃないよね。

って言うか何だよこの知識。やけに細かいな。

科って何だよ!科って!


「それよりもまずは農業ギルドに相談された方がいいと思いますよ。今の話だって、ギルドならすぐに教えてくれる筈ですから。それと、周りの農家の方とも交流を持つといいですね」

「そ、そうかぁ、どうも人付き合いが苦手でねぇ。頑張ってみるよ。ギルドかぁ、お金かかるんだよなぁ」

「作物が台無しになるよりいいでしょ?安く肥料も分けてくれたりしますから」

「わ、わかった。相談してみる。ありがとうな、ちっちゃい国王様」

「いや、国王、違うから」


ふう、何だこれは。国王はこれを一日何十人とこなしているのか!

思わず尊敬しちゃったよ。


「リーンハルト、お前やっぱり面白いな。変な知識を持ってやがる。次だ、早く次を呼べ!」

「は!次の方〜、どうぞ」


やっぱり全員付き合わないといけないのね。


「国王様!ボクは貴族のお嬢さんに恋をしてしまいました!平民のボクがどうすればあの子と結ばれるでしょうか!」

「むう、それは難題だな!まずはお前が貴族になるというのはどうだ?」


友達の相談かよ!

そして、国王も親友かよ!

宰相さんも先にこう言うのは断っておいた方がいいんじゃないですかね。


「彼女から話があったんです!彼女が死んだふりをして霊廟に運ばれるので、そこで落ち合って二人で逃げようって。迎えに行けばうまく行きますかね!」

「ダメー!!それ、二人とも不幸になる話だから!あ、いや、お話しじゃないのか?と、とにかく、その彼女さんが本当に死んでしまったように見えても、大丈夫ですから!ちゃんと生きてますから!短剣で自分を刺したりしないでくださいね!いいですね、彼女さんは必ず息を吹き返すので待っててください!絶対ですよ!」

「は、はい、分かりました」


ふう、悲劇を回避できたかな?


「なあ、リーンハルトよ、今のはそうなる事を知っているかのような助言だったな。何だ?未来を見通せるのか?」

「違いますよ。そう言うお話しがあるっていうだけ、、、いや無いのか?ちょっと僕にも訳が分からないんですけど、まあ、そういう知識があるんですよ」

「自分が知らない知識があるのか?矛盾してないか?」

「してますけど、してないんですよ」

「そ、そうか。お前も結構大変なのだな」


そうこうして、国王にするにしては納得のいかない相談事を自分でもよく知らない知識でどんどんと解決してしまった。

大抵は「ちゃんと誰かに相談して!」というのが殆どだったけど。

この国の人達は誰かに相談するって言うのが足りないんだよ。

いきなり国王に相談とかって飛ばしすぎだよ。



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