第十三話 姉と弟
色々聞きたいことはあったけど、もう会う事もないだろうし、無事昇段もできた事だし、もうあまり気にしないようにしよう。
もうお昼になった事だし、疲れが溜まっている事もあって、今日はクエストはせず、買い出しとか、体を休ませるようにしようということになった。
フィアは買いたいものがあると、1人行ってしまった。
買い物くらい付き合うのにな。
買い物は仲良しさんと行くものですから、とか言われたら、無理矢理付いて行くとかできるわけないよ。
仕方ないので、1人寂しく町を散歩していた。
ここへ来てからクエストばかりをしていて、町をゆっくり歩くなんてしていなかった。
ソーセージの串焼きを買い食いしながら、町を散策する。
ラナを助けるという目標の為には、あまり休んでいられないけど、たまにはこういうのも良いかもね。
しばらく歩いていると、広場の辺りから騒がしい声が聞こえて来る。
「おい、誰か早く憲兵を呼んでくれ!コイツらの親も隠れてないで、早く出てこいよ!子どもらに責任押し付ける気かよ!」
男性が怒って怒鳴り散らしている。
屋台が倒れて積んでいた食べ物がばら撒かれて、台無しになっているようだ。
そして、石畳みには男女2人の子どもがお互い抱き合って座り込んでいる。
ん?あれは…。
よし。
「あのー。すみません。この子たちが何かしてしまったんでしょうか」
「ああん?何だお前さん。コイツらのにいちゃんか何かか?コイツらオレの屋台の串焼きを盗んで食べようとしやがってよー。挙げ句の果てに暴れて屋台ごとひっくり返しやがって。にいちゃんなら弁償してくれるんか?かあちゃんかとうちゃん呼んできてもいいんだぞ」
金が無くて盗もうとしたら、このおじさんに捕まりそうになって暴れたと。それでこの惨劇か。
仕方ない。
「僕が弁償します。これくらいでどうでしょう」
そう言って手元にあった、ライヒェン金貨1枚を渡す。
「お、おお。これなら、まあ、いいけどよ。こんだけあるんならコイツらにちゃんと飯食わせてやんなよ。ほらもういいから、連れていきな」
2人を連れてこの場から移動する。
細い路地を通って、人目につかない落ち着いて話が出来る場所まで来た。
「さあ、ここならもう安心だよ。これ食べるかい?」
ここに来る途中で串焼き肉やソーセージ、焼きトウモロコシを買っておいた。
2人は相当お腹が空いていたみたいで、ガツガツと夢中で食べていた。
さて、勢いでここまで連れてきちゃったけどどうしよう。
レティになんて言おうかな。
僕は困っている人全てを助けるつもりはない。
何故助けたか。それはこの子たちの髪と瞳の色が、特別だったからだ。
蒼い髪に、銀の瞳、そうエルツ族だ。
この2人はどちらもエルツ族の子どもなんだと思う。
フィアとは関係ない子たちかもしれないけど、エルツ族の特徴を知る人に見つかれば、この子たち危険に晒される。
フィアと同族の子たちだから、やっぱり助けたいと思う。
「僕はリン。冒険者だよ。キミたちの名前を教えてくれるかな」
「……。マルモ。この子は弟のブロン」
姉がマルモで、弟がブロンか。
名前の感じからすると、マルブランシュ共和国の名付け方にも似てるけど、多分これは愛称で、本当はエルツ族の名前があるのだと思う。まだ、そこまでは聞けないか。
「パパかママはどこか近くにいるかな?」
ここまで放っているって事は、この辺りにはいないと思うけど、一応聞けそうな事は聞いておこう。
「パパはいない。ママは2人」
あれ。思ってた答えの斜め上がきたぞ。
パパがいないっていうのは、今は何かの理由でここにいないのか、もしくは亡くなられているかだ。
だけど、ママは2人ってどういう事だ?
あ、弟と母親が違う、腹違いの姉弟ってことか。
「マルモのママはどこにいるのかな?ブロンのママでもいいよ」
「どっちもいない。お星様になったって」
そうか。
エルツ族の国に戻しても、身寄りはいなさそうだな。
よし。レティの所に連れて行こう。
部屋に帰ってきたけど、まだレティはギルドで仕事中だった。
2人を中に入れて、濡らしたタオルで顔や髪を拭いてすっきりしたら、ストレージに入れたあった、砂糖がたっぷりとかかった焼きアーモンドを出してあげた。
ストレージは中に入れた物の時間が止まるから、まだ焼き立てホカホカだ。これ食べ始めると止まらなくなるんだよね。
2人も食べだしたら、両手を使って無我夢中で食べてる。
落ち着いた頃を見計らって、話を聞いてみる。
「マルモはフィアお姉ちゃんって知ってる?あとはラナお姉ちゃんとか」
んーん、と首を横に振る。
知らないか。あ、愛称じゃないかも。
「ザフィーアとかグラナトとかはどう?」
「しらない」
ふむ。後は…。そういえば。
「ディアマントさんは知らないかな?」
「そのひとはしらないけど、ディアお姉ちゃんなら知ってる」
お、これはもしかするぞ。
フィアとは直接の面識は無いけど、フィアの友達のディアマントさんなら、この子たちと関係があるかもしれない。
どういう子たちなのか、分かる取っ掛かりになりそうだ。
「ただいまー。リンくんお待たせっ。愛しのレティシアさんが帰ってきたわよー」
ちょっと、この子たちがいる時に限って、変な事を口走りながら登場しないで!
「え。子ども?わ、私たちの?」
何故そうなる。落ち着け。
「そんな訳ないでしょ。ちょっと訳ありで、困っていたから、保護したんだ。勝手に部屋に入れちゃってゴメン」
「あ、いいわよ、それくらい。そうよね、まだ子ども産んでないものね。ちょっと焦ったわ。こんにちは。私はレティシアよ。レティって呼んでね」
「レティお姉ちゃん…。えと…マルモ」
「うひゃあ!かわいいー!マルモちゃんね。よろしくね。こっちはマルモちゃんの弟くんかな?」
「うん。弟のブロンセ、あ、違うの、ブロンって言うの」
「え?あ、ブロンくんね、カッコいいお名前ね」
「うん。ありがと、レテーおねーちゃん」
んー?ブロンセが本名かな。
フィア風に言うなら、真の名。ふふっ。
何となく、魔物に付ける名前っぽい響きになるな。
うひゃーん、かわいいよー、とか言いながらマルモとブロンの頭を撫で回しているレティお姉ちゃんはほっておく。
しばらくこの部屋に泊めてもいいと了解を得てホッとした。
明日、フィアとこの子たちを引き合わせて、ディアマントさんとの関係を聞いてみることにしよう。
翌朝、いつものように、ギルド前で待ち合わせをする。
今日はマルモとブロンも連れて来ている。
一応目立たないように、フード付きの服を着せて、髪の色がわからないように、深く被らせている。
「おはようリン。今日はクエストに行く……。その子たち誰?もしかして、レティとの子?」
みんな、どうしてもレティとの子にしたいのか。
「違うよ。それより、ほら、髪と瞳、見て」
少しフードを上げて見せてみる。
「え…。この子たち…。どこで見つけたの?親は…、あ、この状況ならいないわよね」
「うん。この町って言うか、この国に2人だけで来たみたい。両親はもう……。この子たちの事でクエストの前に少し何処かで話したいな」
僕はちょっと路地に入って、人のいないところで話そうと思ってたんだけど、フィアがここがいいと言って、カフェに来ていた。
フィアは朝からアイアシェッケとコーヒーを頼んでいる。
アイアシェッケは、クッキー生地の上に、カスタードクリームの層、クリームチーズの層、スポンジケーキの層と何層にも重なった、ベイクドチーズケーキだ。
このお店のは、チーズ層にレーズンが入っていて、上には粗く砕いたアーモンドが敷き詰めてある。
マルモとブロンにも、アイアシェッケとホットミルクを一つずつ頼んだ。
僕は朝から甘いものは入らなさそうだから、紅茶だけにしている。
「それで、この子たちはどうやって見つけたの?」
昨日の広場での出来事を説明して、2人の名前と、あとはディアマントさんの知り合いじゃないか、という話をする。
「ディアの知り合い?マルモ?あなた、ディアのことを知っているの?」
「ディアお姉ちゃんはママのお姫さま」
わからん。マルモの母親の姫様。どういう関係だ?
「ディアは、エルツ族が約100年前に作ったシュタール王国の第一王女よ。ゴルト=ツィン=シュタール=ヘルグリューン国王の娘、ディアマント=ツィン=ヘルグリューン王女。この子たちは、王女付き侍女の子どもなのではないかしら」
フィアの友人はエルツ族の王女だったのか。
国王3つも家名があるな。
もしかしてフィアも、王族関係者なのかな。
「わたしは、王族護衛騎士の娘だったから、ディアとは生まれた時から一緒だったの。小さい頃はディーちゃん、フィーちゃんって呼びあってたわ」
「エルツ族の関係者って言うのが、分かっただけでも良かったよ。しばらくはレティの借りている部屋に泊めて良いってことになっているから。フィアはディア王女とは連絡付かないの?」
ん?急にフィアが睨み始めたぞ。
何か変な事を言ったかな。
「ディアと呼んでいいのは、わたしだけ。あなたは、ツィン王女と呼ばないとだめ」
そういう事ね。
「それと、連絡は難しいわね。わたしは、ラナを取り戻しに単独で来ているから、人伝てで伝えるのはできないし、手紙をシュタール王国に送れば、人族に検閲されてしまうわ」
人族はエルツ族に対して良い感情を持っていないようだから仕方ないか。
「しばらくは、僕たちで2人の面倒を見るしかないかもね。僕がクエストをこなしてくるから、フィアはこの子たちを見ていてくれるかな」
「何を言っているのかしら。私の姉を助ける為なのだから、私がクエストをしてお金を稼ぐのが当然。あなたは、この子たちの子守りをしてて」
理屈ではそうなんだけど、レベルとかスキルとかを考えると、僕が行った方が効率が良いんだよな。
困ったな。
この子たちを守りながら、魔物討伐に行く…とか。
無理か。危険過ぎるな。
レベルが高ければ良いんだろうけど、レベルがわからないかな。あ、そうか、普通の人ならステータス・ウィンドウで自分のレベルはわかるのか。
窓無しが当たり前になってたから、忘れてたよ。
「ねえマルモ。君とブロンのレベルはいくつか分かる?」
マルモは何を言われているのかわからないと言った顔をしている。
ああ、そうだった。10歳までステータス・ウィンドウは開けないんだった。色々ボケてるな僕。
解析でわからないかな。
エラー:人物の解析にはスキルレベルが足りません。
ありゃ。スキルレベル2じゃだめか。
SPはだいぶ溜まって来たからスキルレベル上げておこうかな。
解析スキルをアップグレードしておく。
あとは、この子たちのレベルを上げる方法はないか探してみる。
経験値譲渡 SLv1
自分が取得した戦闘経験値の20%を同行中の登録パーティメンバーに均等に譲渡する。
効果時間:3600s
リキャストタイム:300s
これだ。
これなら、僕が持っている経験値+500pと合わせれば、レベルを2つくらいなら上げられると思う。
んー。登録パーティメンバーってクランならいいのかな?
パーティ
部隊編成により作成した部隊の一つ。
部隊編成はスキルかな?
これでパーティというのが作れるみたいだ。
部隊編成 SLv1
パーティを作成、解体ができる。
よし、このスキルでパーティを作ろう。
そして、経験値譲渡でみんなのレベルを底上げすれば、一緒にクエストもできそうだ。
あ、さっき解析をアップグレードしちゃってるけど、同時にスキル作成もできるのかな。
……。おお、作成出来た。
これなら経験値譲渡も並行してできるか?
って、これはだめだった。
同時に作業できるのは一度に2つまでみたいだ。
「さっきからあなたは何してるのかしら。頭打った?」
急に黙って手だけ動かしていれば、そりゃ不気味だよね。
スキルができるまで、ゆっくりお茶をしていよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます