第六話 稼ぐ方法
何かお金を稼げないか。
「それなら、うちの保存庫に出る虫退治をしてくれたら、小遣いをやるぞ。フォルク銀貨1枚だ」
村の大人たちに聞いて回っていたら、ゲルトさんがそう言ってくれた。
フォルク銀貨はここフォルクヴァルツ王国が発行している貨幣でフォルク貨という。
フォルク銀貨1枚で1,000フォルクだ。
フォルク銅貨だと1枚10フォルクになる。
銀貨1枚だと、となり町での二人分の食事くらいだ。
昨日家に帰ってから、ラーシュ写本を読むために必要なお金を計算したみた。
往復の馬車代が2万フォルク。
13日の食事代が1日500フォルクだとして、6,500フォルク。
途中の町の宿は少し安くて往復分の二泊で1万フォルク。
メールスは大都市だから、倍はするだろう。二泊で2万フォルクとしよう。
合計で、5万6,500フォルク、二人分なら11万3,000フォルクにもなる。
余裕を持ってフォルク金貨1枚に大銀貨2枚は稼がないといけない。
虫退治を113回分か…。そんなに虫いないよ。
隣の国が発行しているライヒェン貨でくれないかな。
フォルク貨は民衆の貨幣と呼ばれ、庶民たちに使い勝手がいいと好まれている。
ライヒェン貨は国家の貨幣と言われ、質が良く信頼性もあるので、大商人や貴族たちがよく使う。
裏金の意味を込めて、贈り物の貨幣という呼び名も付いている。
発行国のライヒェンベルガー公国はフォルクヴァルツ王国とは友好国なので、ライヒェン貨もこの辺りで使えるし、高い買い物をする時は大抵の場合、信頼度の高いライヒェン貨を使うようだ。
フォルク貨の1.68倍の価値になるから、高額支払いの時に、かさばらないで済むというのも理由の一つだ。
目標には程遠いけど、今は少しでもお金を集めるために、虫退治でもなんでもやってやる。
僕はこの仕事を引き受けた。
ゲルトさんちの保存庫の扉を開けて中を覗き込む。
そこら中からカサカサと音がする…。
目線の端には黒く光る何かが動いている気がするけど直視できない。
これはだめな気がする。
急いで扉を閉めた。
この中に入って駆除するなんてとてもできそうに無い。
こんな時はスキルだ!
何かこれを乗り越えられるスキルを探そう。
精神強化 SLv1
パッシブスキル
これに頼ろう。
スキルを作ってみたけど、何かまだ足りない気がする。
これを更に強化してみよう。
毎回スキルを意識して使用しないと発動しないアクティブスキルは、使うたびに経験値がたまっていき、いずれスキルレベルが上がって行く。
パッシブスキルの場合は、常に発動していて、経験値というものは溜まらず、そのままではスキルレベルを上げられない。
そのかわりアップグレードという方法でスキルレベルをあげるようだ。
というのも3回目のスキル作成の時に、スキル作成スキル自体のスキルレベルが3になった。
スキルレベルも2になるには経験値が200p、レベル3になるのは全部で800p必要らしいけど、スキルを使用しても経験値は一回で0.1pしかたまらない。つまり8000回使用しないとアクティブスキルは3にレベルアップしないのだ。
でも、経験値+500pを1回目で作った僕は、最初こそ0.1pだったけど、その後は500pずつ溜まったから、全部で1000.3pになった。そのおかげでスキル作成スキルもレベル3になれた。
そのレベル3でスキルアップグレードができるようになったのだ。
精神強化SLv1をアップグレードする。
このSLvというのがスキルレベルを表している。
やっぱり数分かかったけど、このままではこの中に突入はできないから必要なことだ。
ふと、あの音を思い出してしまい、勢い余ってスキルレベルを5まで上げてしまった。
保存庫の扉を再び開ける。
音も虫の姿も気にならない。
すごいな。
そこからはさくさくと虫を駆除して、保存庫の中には蠢くものはいなくなった。
「えぇ?アレを退治できたのか?そ、そうか。俺ちょっとリンのこと見直したよ。尊敬するわ。はい、これ報酬の銀貨1枚な」
できると思っていなかったのかよ。
そう言ってゲルトさんは、ライヒェン銀貨を1枚手に乗せてくれた。
あれ?フォルク銀貨って言ってたのに。
「まああれだ。悪かったな、アレを本当に退治できるとは思わなかったから、適当に言ってたんだよ。だからこれはそのお詫びだ」
おお。ちょっと上乗せしてくれたんだ。
これで1,680フォルク稼いだことになるけど、まだまだ遠いなー。
ラーシュ写本を読むためにこれからすること、かかる費用、稼いだ金額、これらを忘れないようにスキルを使って備忘録を付けようと思う。
情報操作 SLv1
メモを記録することができる
これだけだと記録するだけで、あとで見返せない。
情報表示 SLv1
メモを表示することができる
これとマナリンクすることで、記録したメモを見ることができた。簡単なスキルだから、消費SPも少なく済んだ。
他にもリンク次第で色々な使い方ができるみたいだけど、今はこれで十分だ。
メモにこれからの予定と今までの経過を記録して行く。
残り111,320フォルク
まだこれからだけど、頑張っていこう。
今度はもう少し、気持ちに余裕のある方法で稼がないとやってられない。いくら精神強化スキルを得て平然とできても、嫌なものは嫌だ。
村で薬師をしているミレンダさんが話しを持ちかけてくれた。
「最近村の外に出るのがおっくうになってね。薬にする草花を取ってきて欲しいのよ。赤レッシェナルベの花びらとフェアバント草をお願いね。レッシェナルベの花は偽レッシェナルベと区別つきづらいから、もしわからなかったら、みんな取ってきてくれたら、私がより分けるよ」
赤レッシェナルベの花は花びら1枚で大銅貨1枚。
フェアバント草は一株で銅貨5枚で買い取ってくれるそうだ。
赤レッシェナルベの花は5弁の花だということだから、たくさん取ってくればいい稼ぎになりそうだ。
偽レッシェナルベの花と間違えて取って時間を取られないためにも、ここはスキルで効率よく行きたい。
解析 SLv1
植物または無生物を解析する
解析結果は情報表示スキルなどにマナリンクで送られる
村の北にある、一日中、陽の光が射す明るい森に目当ての草花が自生している。
ミレンダさんに聞いた特徴と照らし合わせながら探す。
それっぽいものがあれば、解析スキルで正しいか確認してから採取する。
[解析結果] 1件
偽レッシェナルベ 真偽判定69.7%
毒性あり
危険部位 花弁
これも違うか。意外と偽が多いな。3連続だ。
いや、この辺に偽が密集しているだけか。
スキルレベルが低いからか解析の結果の確率が低い。
今はスキルレベルが2になって、ようやくこの確率だ。
最初は20%と出てしまい、全く信用できなかった。
[解析結果] 2件
レッシェナルベ 真偽判定82.6%
花弁に傷消し効果
レッシェギフト 真偽判定35.7%
花弁に毒消し効果
根に消臭効果
あれ?近くの花も一緒に解析してしまったみたいだ。
真偽判定低いな。
名前は似てるけど、判別しづらい花なのかな。
これも取っておこう。
レッシェナルベの花と偽レッシェナルベは本当によく似ている。それでも、いくつか採取していくうちに、スキルを使わなくてもなんとなく区別がついてきた。
スキルで正解が出せるからすぐ覚えられた。
でもこのレッシェギフトの花は偽レッシェナルベの花にそっくりだ。
本物のレッシェナルベの方ではなく、偽の方によく似ている。
それなら偽の方の名前は、偽レッシェギフトの花なのではないかとも思うけど、この花に名前を付けた人がレッシェギフトを知らなかったのかもしれない。
ああ、もう、ただでさえ偽があって名前がややこしいのに更に似たような名前が似ていて、偽の方に似てるなんて訳が分からなくなるよ!
とにかく僕はスキルで分かるんだからまだいい方だ。
真偽の判定は低いけど、これも見つけたら採取しておいた。
だいぶ取れたので、ミレンダさんの家に戻って、採取した草花をみせた。
「よくまあ、たくさん見つけてきたね。それにどれも状態のいいものばかりじゃないか。偽物もないようだし、リンちゃんは草取り名人だね」
ちゃんはやめてほしいです。
名人もいらないです。
別の袋に分けておいた、レッシェギフトを出してみる。
「あの、これも取ってきたんですけど、買い取ってもらえますか?」
「あらあら、やっぱり偽物も取ってきちゃったんだね。でもこれは使い道がないから………。おや、これは……。ちょいと待ってて。検査薬で調べてみるから。……、あらまあ、これは消臭薬になるレッシェギフトじゃないかい。よくまあこれだけの数を。わかって取ってきたんだとしたら、名人どころか達人だね」
名人と達人のどちらが上かは置いといて。
毒消しより消臭効果の方が重宝がられているみたいだな。
結局、レッシェギフトは花びら1枚あたり大銅貨5枚で買い取ってくれることになった。
レッシェナルベの花を12株取ってきたから、5枚の花びらで、6,000フォルク。
フェアバント草が30株で、1,500フォルク。
レッシェギフトの花びらが8株で花びらが5枚だから20,000フォルク。
合計で27,500フォルクになった。
一回でなかなかの稼ぎになったぞ。
後で分かった事だけど、ミレンダさんは相場よりかなり高額で値段を付けてくれていたみたいだ。
本当なら半分にも満たないらしい。
「リンちゃんありがとうね。これで、暫くは薬の素材に困らなくて済むわ。また、足りなくなったらたのむわね」
そうか、これだけ稼げても、継続して手に入らなければ意味がないな。
今回はちょうどミレンダさんが欲しがっていたから、お金になったけど、この村では暫くは薬草は足りてしまう。
他にも何かお金になる仕事があっても、この小さい村だとすぐに、必要とする数になってしまうだろう。
こうなったら、となり町に出稼ぎに行くしかないな。
さて、どうやって、となり町に住み込みで働きに行くことを両親に話すかだ。
そういえば、いま村長さんの娘のレティシアが、となり町から帰省しているんだっけ。
何かいい働き口がないか聞いてみよう。
となり町に連れて行ってもらって、仕事を紹介してくれないかな。
早速、村長さんの家に向かうとしよう。
「こんにちはー。レティいるー?」
村長さんの家には度々来ては村長さんの書物を読ませて貰っている。
賢者様が活躍するラダマイア冒険記も村長さん蔵書だ。
あれ?勇者が活躍する話だったっけ。
なので勝手知ったる何とやらだ。
いつものように、奥にどんどんと入って行く。
大きな居間に村長と奥さんのパウラさん、そして、レティがいた。
「あ!リンくーん!久しぶりー。暫く見ないうちにかっこよくなっちゃってー」
相変わらず明るい人だ。
レティシア・バルシュミーデ。
我が国、フォルクヴァルツ王国風の名前なら、レテッシアとなる所を、この国の南にあるマルブランシュ共和国風の名前が流行りだ、と村長さんがつけたらしい。
今年でたしか20歳、となり町の冒険者ギルドの受付をしている。冒険者のなかではかなり人気があるらしい。
その割には結婚できないーと会うたびに嘆いているような気がする。
この国の結婚適齢期は17〜18歳だから、ちょっと焦るお年頃らしい。レティはかわいいと思うんだけどなー。
早速、レティにお願いをしてみる。
「レティ。僕をとなり町に一緒に連れて行ってくれないか!まだ僕は若いけど絶対うまくやっていける!レティに頼るばかりになっちゃうけど、僕はそこで暮らしたいんだ!」
あぁ、ちょっと言い方変だったかな。まあ言いたいことは伝わったからいいか。
「あの、わ、わたし、急なことでびっくりしちゃった。
あの、その、こ、こんなわたしで良ければ「いかーん!」
おぉっ?村長さんがいきなり叫んだぞ。
どうしたんだ?
「お父さん…。なんで?年の差はあるけど、わたし幸せになってみせるわ!」
「リンはまだ10歳じゃないか。い、いくらなんでも早すぎる!レティは誰にも渡さーん」
ちょっと待って。話しがおかしい。
「あの、何か違う話しになってませんかね。僕はとなり町でお金を稼ぎたくて、レティにどうやったらやっていけるか聞きたかったんだけど…」
「えっ?……。そ、そうよ、なに行ってるのよお父さんってば!リンくんがわたしなんかをそういう目で見るはずないじゃない……。そうよ…誰も…見ないわよ…。ううっ」
ああっレティが涙目になってきた。
村長さんはオロオロしてるし、パウラさんはずっとさっきから笑顔のまま、固まっている。
「ごめんレティ。紛らわしい言い方になっちゃって。あの、でも、レティのことは、そういう目で見てるから!大丈夫だから!」
ホント?とレティが上目遣いで聞いてくる。
あぁっ。またフォローを失敗したかも。
「でもほら。今は違う話しだったんだよ。そういう話はまた後日にね!今はとなり町の暮らしのことを聞きたかったんだ!」
こんな言い訳で誤魔化せるかよ!
「そ、そうだよね!わたし、焦っちゃってたから、やだー、恥ずかしいなー。その…また今度話すのよね?あ、となり町に暮らしたいって話ね!任せて!わたし色々知ってるからなんでも聞いて!」
あれ?誤魔化せたな。
なんだかレティには悪いことしたな。
今度埋め合わせするよ。結婚以外で。
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