第59話 浸食2(ルパート視点)

花が咲いた。


白くて美しい大きな花がたくさん花壇に並ぶのを見て、口許がつい緩んでしまいそうになるのを堪えながら俺は花瓶にその花を活け屋敷の至るところに飾る。



「あら、その花は?」


廊下の一角に花瓶を飾っていると通りかがった侍女に声をかけられた。

「異国の花です。フィオナ様が咲いたら屋敷に飾るようにと」

「まぁ、そうでしたの。素敵な花ですね」

「えぇ、フィオナ様にも早くご覧頂きたいものです」

そう言って微笑むと侍女の顔は嬉しそうに綻ぶ。この屋敷で彼女の名前を出せば大抵の事はすんなりと納得してくれるのでとても有り難い。



やはり、あの子を一番最初に洗脳して正解だった。

彼女は不思議な事に回りへの影響力が大きい、そしてとんでもないお人好しで純粋だ。

そんな彼女を手駒に出来たのだから幸先が良い。



「良ければ一輪、部屋に飾りませんか?」

そう言いながらこれから飾る予定の花を侍女に差し出す。

「いいんですか?ありがとうございます、是非飾らせていただきますね」

嬉しそうに花を持ち帰る侍女の後ろ姿に、またも口許が緩みそうになる。



ここの屋敷の物達には警戒心が無さすぎる、恐らくフィオナのお人好しが伝染したのだろう。

そのせいか、国中に人相書きが配られたと聞いてしばらくたつが一向に怪しまれる気配もない。

恐らく俺が育てたこの花や、仕込んだ蜜による影響もあるのだろう。



この花は異国に行った時に見つけた、魔法のような花だ。

花の蜜には幻覚作用があり、人の精神を不安定にさせる事が出来る。そこに装飾品を作成する際に使われる鉄分を混ぜると効果が強くなる事を知ったのは本当に偶然だった。

いつかなにかに使えるであろうと、大量の種を異国から持ち帰って来た甲斐がある。

不思議なものでこの花の効力を使った後、その対象人物に声をかけると皆俺の言うがままに動いてくれる。心や行動を操る事など容易い。


自分でもこんな事に使うとは思っていなかったけれど、どんな卑怯な手を使っても……犯罪者になっても彼女の事を手に入れたいと望んでしまったのだから仕方ない。



愛しい愛しい、俺のアリス。

俺の人生で唯一、俺自身を認めてくれたまだ幼い可愛い人。


きっと彼女は俺が迎えに来るのを待っているはずだ。



この公爵家を支配して彼女を迎えにいくことが成功したら、森の奥深いところで彼女と二人きりで暮らそう。

聞いた話によると、この公爵家の領地には深い森があるらしい。そこには森を管理するための小さな塔が立っているそうだ。アリスを手に入れることが出来たらそこに行こう。

誰にも邪魔されないように、そして素直じゃない彼女が逃げ出したりしないように鎖を準備して。

彼女が気に入っていたぬいぐるみも用意しよう、きっと喜んでくれるはず。

それからドレスに装飾品、もちろん俺の作ったものを。

女の子は甘いものが好きだというからお菓子も作れるように勉強して、料理の腕も磨いておこう。

俺の全ては彼女の為に。


二人きりで過ごした短い時間を永遠にさせるために、俺はどんな手段も厭わない。


無意識に口角が上がっていることに気がつき、俺は慌てて顔を戻す。

花の蜜で作った香水を辺りに吹き掛けると、甘い匂いが空気中に漂ってきた。

この香り、俺には効果がないらしく精神が不安定になることも幻覚をみることもない、きっと俺には耐性がついているのだろう。


そう考えながら次の場所に花を飾るべく、切り取ったばかりの花たちを抱えて俺は屋敷の廊下を歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る