第30話 兄に誘われたようです

ジェード様の不思議な行動を目撃した次の日、兄を迎える為に玄関ホールへ赴くと本人がいた。

昨日の事を尋ねてみたいけれど、今日は他にも出迎えの侍女や侍従達が居るためそれも叶わない。

ちらりと視線を向ければ、それに気がついたジェード様はほんの少しだけ口許を緩めて微笑んでくれる。



良かった…嫌われた訳じゃなかっんだ。



あれから一人悶々と考えては見たけれど、自分のどこが悪かったか分からない…知らないうちに怒らせたのか、嫌われたりしたのかと考えては落ち込んだがその心配は無用だったようだ。

私が安堵したその時、兄の乗った馬車が到着した。

「「「お帰りなさいませ、ダニエル殿下」」」

「お帰りなさいませ、お兄様!」

一斉に頭を下げる出迎えの人々と一緒にスカートの裾を摘まんでお辞儀をすると、馬車を降りた兄は真っ先に私の元に歩いてきた。

にっこりと微笑み私の頭を優しく撫でる。

「ただいま、私の可愛いアリス!皆も出迎えご苦労様」


迎えてくれた人達への労いも忘れない、さすが第一王子!さすがお兄様!

今日も素敵にパーフェクトです!


「父上にも顔を見せにいかないとな……アリス、一緒に来るかい?」

「はいっ!」

差し出された手を繋ぎ、両親が公務をしてる執務室へと向かう。ついてくるのは兄の護衛であるジェード様だけだ。

私の侍女達は今日も年始パーティーの準備に駆り出されている。当日まで私の傍にいる時間は少なくなる為、なるべく私も城からでないようにして手がかからないように気を付けていた。


私の歩調に合わせて歩いてくれる兄と一緒に執務室に入る。

両親は休憩していた様で紅茶を飲んでいた。私達の姿を見た母が侍女に私達の分も淹れてくれるように頼んでくれる。


「父上、母上、ただいま戻りました」

「お帰り。さ、二人とも座るといい。ダニエル、学校の話を聞かせてくれ」

父に薦められ私達は各々向かい合って座っていた両親の隣に座る。

私が母の隣に座った瞬間、父が少し悲しそうな顔をしていたが見ないことにする。


私に婚約の話が出たことを、ジェード様に話した為、年始パーティーが始まるまで必要以上に口を利かないことにしてた。

父は単純に応援のつもりだったらしいけれど、余計なことはしないで欲しい。

母に告げ口したところ「娘の恋路に首をつっこむと嫌われますよ」と言われたらしく大層凹んでいたようだ。


紅茶を淹れてくれた侍女に礼を告げ紅茶を飲もうとしたけれど、思った以上に熱くふぅふぅと冷ましていると父が口を開いた。

「…あれ以降、学校はどうだ?」

あれ以降、と言うのはジュリアの件を言っているのだろう。

「特に問題もなく過ごせています。気にかけてくれる友人も出来ましたし」

少しだけ照れ臭そうに口にする兄に母が嬉しそうに目を瞬かせる。


「まぁ、それなら何よりだわ。この人ったら心配してたのよ『ダニエルに友達が一人もできないで引きこもるようなことになったらどうしよう』って」

「そ、それは言わないでくれと言ったじゃないか!」

「あら、そうでした?気のせいですわ」

「私はそんな風に思われていたのですか…」

わたわたしている父に、引きこもり予備軍疑惑をかけられていた兄が肩を落とす。


「お兄様はそんな事しませんわ。お父様は実の息子が信用ならないのです?お兄様はたくさんの方に慕われている素晴らしい私のお兄様なのですから」

少し意地悪してやろうという気持ちが芽生え声に刺を含ませて告げると、母も楽しそうに笑う。

「そうね、素晴らしい私の息子ですもの。そんなダニエルを引きこもりだなんて……アリス、お父様ったら酷いわよねぇ」

「お母様の言うとおり、お父様ったら酷いです」

「「ねー?」」

私と母が声を揃えてそう言うと父はあわあわした後にしょんぼりと肩を落とす。

「………す、すまない…」

「冗談はさておき」

「冗談!?」

さらりと切り替えた母に父が視線を向けるが母はそしらぬ顔で話を続ける。

私と母に翻弄される父に兄は苦笑していた。


「充実した日々を過ごしているのなら何よりよ、貴方が学んだことは人生の宝になるわ。色んな経験をして立派な国王になってね」

微笑みながらそう告げる母に兄はこくりと頷く。

「勿論です。私はまだ未熟ですが、必ず父上の様に国を愛する国王になって見せます」

そう言って胸を張る兄はとても格好良かった。



その後、両親は使用人達と年始パーティーの打ち合わせがあるというので私達は執務室を出た。


「アリス、これから城下町へ行かないか?」

廊下に出た所で兄に誘いを受けた。

行けるのなら行きたいけれど、兄も護衛のジェード様も忙しいのではないだろか。ただでさえパーティーの準備で人が足りないというのに。

悩んでいると苦笑浮かべた兄に頭を撫でられた。


「年始には城下町でも祭りのような催しがあるから、その視察も兼ねてるんだ。元々行かなければならないものだから迷惑だとか気を使う必要はないんだよ?」


私の心を読まれていたらしい。

そんなに顔に出ているだろうかと慌てて頬を両手で押さえるとくすりと笑われる。

兄はそんな私の正面で片膝をついては手を差し出す。

「私に姫君をエスコートする栄誉を与えていただけませんか?」

その姿はまさに乙女ゲームの攻略対象であるキラキラした王子様。

世のプレイヤー達はこの笑顔に悶えるのだろうか、そんな事を思いながら私は兄の手に自分の手を重ねた。

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