第13話 フランケン事情
昼食を終え、俺とゼルシアはヘルナルに別れの挨拶をし、モンドリオに連れられて外に出た。
屋敷内から馬車で冒険者ギルドまで送ってくれるらしい。
俺は町並みを眺めながら、
「伯爵閣下のお屋敷に向かうまでもそうでしたけど……。町の中、けっこう賑やかですよね。国の端って言ってる割には」
端、などというと失礼かもしれないが、事実だから仕方が無い。
「そうですなぁ。ここから北は魔王が統治する魔族領、西は神勇宗国 オルディニアと懸念事項が多い町ではありますが、それゆえに人材を募ったり、商機を見出したりする者も多いのです。
人の多さ自体は、町としての大きさもヴォルスンド全土の中で五本の指に入りますから、当然と言えば当然ではありますがな」
神勇宗国 オルディニア。初めて聞いた名だ。
「その―――オルディニアとヴォルスンドは関係は良くないのでしょうか?」
ゼルシアがフードの下、口を開く。
「いえ、悪いと言うほどでも。一応は友好国となっています。ただ……」
モンドリオは馬車内だというのに声を潜めて、俺とゼルシアにしか聞こえないように言った。
「オルディニアは
勇者においても全員が全員、素行の良い者ではないので、その点が他国からは疎まれておりましてな」
「……なるほど」
モンドリオと初めて会った際にあのような態度を取られたのもそこからだろう。
(しかし、多くの勇者を召喚し、か……)
勇者召喚はそうほいほい出来るものではないはずなのだが。
そもそも、その勇者がどこから召喚されるかは術式にもよる。例えば、同じ世界から屈強なものがいきなり召喚されることもあるし、俺のように女神オーディアを通して、または通さないで呼ばれることもある。
その比率がどうなのかは、俺にもわからない。
「しかし、オルディニアでは他国について、どのように伝えられていたのです?」
「……えーと、どういうことですかね?」
「あぁ、いえ、申し訳ございません。あの要衝地に至るには、魔族領を通る以外の方法と言えば、ガイウルズ帝国というオルディニアの北にある国側から進入するか、オルディニアから入るしかありませんからな。帝国はそもそも人の出入りも厳しく制限していると聞きます。で、あれば、お二方はオルディニアからやってきたと思ったのですが……」
「あぁ! そうですそうです! ただ、オルディニアでも中心部には訪れたことが無かったので、そういった政治的な事情には疎くて。すみません」
「おお、そうでしたか。いえいえ、こちらこそ。人の事情などそれこそ人様々。失礼いたしました」
良かった。そこを穿られると答えに困る。
なにしろ、俺たちはあの要衝地の
『迂闊な事は言えないな、こりゃあ』
『そのようですね』
『次から気をつけよう』
表情や姿勢を崩さないまま、二人だけの会話で示し合わす。
モンドリオの方もあまり突っ込んでこないようで助かった。盗賊から助けたことがよほど効いているのか。昨日のゼルシアの判断はやはり正解だ。
「―――サキト様、ゼルシア様。見えてきましたぞ。あれが冒険者ギルド・フランケン支部でございます」
モンドリオが指差した方向、大きな建物がある。
三階……否、四階建てで、一階入り口周辺には多くの人が集まっている。あれが、この世界における冒険者なのだろう。
「大きいですね、他の町の施設やらと比較しても」
「ええ。施設内全てが冒険者向けのものとなっていて、一階は受付や食堂など、二階以上は宿屋となっているようですね」
モンドリオの言葉から、利用した事は無いが、と言う副音声を感じる。冒険者向けと言うのならば、一般の市民や商人は使用できない、もしくは割高なのだろうか。
一階辺りでたむろっている人間たちも、一見しただけでも、装備や容姿など、十人十色だ。
『剣に始まり、
『……かなり精巧な作りのようです』
魔力による視力強化で様子を伺ったゼルシアが目を細めて言った。
『……アルドスでもそうだったけど、服装の方もてんでばらばらだな。こうもばらばらだとこの世界の文明具合の把握も簡単じゃないな』
『先程モンドリオ様が仰ったオルディニアの他、『帝国』という人の往来を制限している国もあるほどです。高度な文明がある可能性も否定は出来ませんね』
『だな……』
「っと、ギルドに着きましたぞ。早速、冒険者登録をしに参りましょう」
モンドリオが馬車を降りようとする。
それを俺は止めた。さきに大事なことを確認したいからだ、
「モンドリオさん、ちょっといいですか?
……先に確認しておきたいんですけど、冒険者登録するのに料金とかって必要になりますか?」
金を得るのに金が必要とは元も子もないとは思うのだが、往々にしてこういうものには登録料金などというものがあったりする。
俺の言葉に、モンドリオが察したように言う。
「大丈夫でございますよ。登録自体にはかからないはずです。登録以降の施設利用等については色々規約もあるようですが、その辺りの事も含めて受付の者に確認すれば宜しいかと」
ふむ。金はかからないらしい。
まだ俺たちは無一文から脱出できていない。
「そうですか、了解です。それじゃあ行きましょう」
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