勇者→魔王→勇者→魔王の順で転生してきた勇者、疲れたので役目を放棄する

黒黒

プロローグ

第1話 勇者→魔王→勇者→魔王→?

「いい加減にしてください」


 始まり―――否、正確に言えばの始まりの中で、俺はこう言った。


 目の前には不機嫌そうな女性。


(一触即発のこの状況を作ったのは、俺か―――いいや……)



●●●



 軽く自己紹介からはじめよう。


 俺の名前は冬紙とうがみ 咲斗さきと。今はサキトとしか呼ばれないので、よろしく。


 さて、唐突にをする。


 所謂、普通の男子高校生である冬紙 咲斗は高校からの帰り道、前方不注意の自動車に撥ねられ、その命を落とした。


 これからやりたい事、やらなければいけない事がいっぱいあったのに、とか、家族や友人の事とか、そんな事を思っている暇もないままに視界はブラックアウト。意識も落ちた。


 のだが。


 次に目を開けると周囲は白い壁の荘厳な広間で、まるでゲームの世界かと思ったぐらいだ。そして、目の前には女性が座っていた。なんか立派な椅子にだ。


 それが女神、オーディアだ。


 この女神、話を聞いてみると、魔王を討伐する勇者が必要な世界があって人材を探しているところに、ちょうど俺が死んであの世に行くところを横から引っこ抜いたらしい。


 つまりはこれ、勇者召喚とか異世界転生のソレだ。


 こちとら普通の日本男児。魔王とかそんなのと戦うすべなど持たないし、無理無理とお断りしたら、四つだけスキルとか色々付与するから大丈夫、と言われたのだ。なんだその中途半端な数、なんか詐欺臭くない? と思ったのは覚えている。


 まあ、しかしながら。


 この手のお話で能力を付与してくれるのは大体一つのみだし、四つも叶えてくれるのならば……と、安易にこの話に乗った俺も悪かった。仕方が無いよ、見た目美人の女性の人に言われたらね。


 と、そんなこんなで四つの力を付与してもらった訳だが。



●●●



 まず一つ目が、身体強化。


 せっかく能力付与して転生しても、簡単に物理でグシャァとかされたらお話にならないですよ。でも、俺は帰宅部で残念ながら強そうな体型ではなかった為に、これを叶えてもらった。


 跳躍力とか腕力とか、一括して向上したので、妥当な具合。ちなみにマッチョにはならなかった。



●●●


 二つ目。


 次に俺は武器を考えた。


(――まー、オーソドックスに『剣』じゃね? 剣とか握った事無いけど……)


 このいい加減な思考が後に俺を苦しめるのだが、その話は後にする。


 もらった剣は『神剣』。


「名前は?」


 と聞いたら、


「『神剣』」

 

 と言ってきたので、こっちで名前を改めて『神剣アルノード』にした。は若干異なっているが、それも後だ。



●●●



 三つ目。ここで俺は欲望を少し出した。少し、ね。


 勇者ヒーローには女の子ヒロインが必要だ、あくまで個人的な意見だけど。


 普通、そのような存在とは転生した後に出会うものが定石なのだが、俺はそれを省略した。


 何でも言う事を聞いてくれる、とは言わないが、勇者となる俺をちゃんとサポートしてくれる娘が居てほしいのである。人間、一人だと生きられないし。


 という旨をオーディアに伝えると彼女は少し考えた後に指を鳴らした。すると間もなく、一人の少女が光と共に現れた。


 背に純白の翼を生やした銀髪の少女。外見年齢は俺とほぼ変わらないだろうか。陳腐ではあるが、表現するならば、まさしく天使だった。ちなみに巨乳だ。


 オーディア曰く、


「名はゼルシア。天使の中でも屈指の美を誇る娘です」


 とかなんとか。



●●●



 そして、最後に。


 これだけはかなり悩んだ。叶えてもらえる願いはあと一つ。


 今の状況は、銀髪巨乳美少女天使を侍らせた筋力全振り素人剣士が一人出来上がっている。


 しかし、魔族との戦いでは物理ではどうにもならないこともあるだろう。


 よって、最後はスキル系を、と思ったのだが、残り一つしかない枠でどうするかで困った。計画性無さ過ぎる俺。


 具体的に出てこないのだが、文字通り、今後の俺の一生を左右するものだ。適当は良くない。


 どうしたものか、と考えているとき、ふと思い浮かべた。神様システム的に有りなのかはわからないが、言うだけ言ってみる。


「―――ユニークスキル、俺に合わせて成長、変異するものが欲しい」


 かなり抽象的で、最初はオーディアもなんだそれは、という表情をしていた。しかし、少し目を閉じて考えた後、一度頷いて了承した。


 この時、オーディアは気付いていたのか知らないが、このスキルは裏を返せば、スキルだということだ。


 スキル:《進化する者エボルター》。これが後に俺を大いに助けになった。



●●●



 というわけで、勇者として転生、というよりは勇者召喚と言う形で異世界に行ったのだが、その後が大変だった。

 

 先程も言ったと思うが、元々日本の未成年だった俺だ。


 戦う術や親の庇護から外れて生きていく術など、知っている訳が無い。おまけに神様由来の剣を持っているが、剣の使い方などもわからない。


 ステータス全振りのレベル1勇者の誕生だった。


 ―――――かなり苦労した。


 自分を鍛えながら、他人との交流を図り、生活していくのは。


 最初は事務的だったゼルシアとも日々の中で徐々に打ち解け、少しずつながら強くなって魔族を追い詰めていき、最後はめでたく魔王討伐。


 女神からの使命も果たし、その後の人生はゆっくりゼルシアと二人で生活していこう、と思っていた。







 







 とある日。ふと、光に飲まれたと思ったら、目の前にオーディアが座っていた。ここは俺が最初に彼女と会った場所だ。二度目の謁見。


「何の御用ですか?」


 と聞いてみると、彼女はとんでもない事を言い出した。







「今度はさらに別の世界で、魔王になって世界を支配して欲しいのです」


「――――は?」







 魔王討伐を為した勇者に今度は魔王をやれとか正気か、と思ったが、相手は女神。こちらに拒否権はほぼ無い。


 だから、言われるがままに魔王になった。


 ゼルシアは俺の魂に紐付けされているらしく、魔王となった俺とともに異世界に召喚された。だが、純白の翼を漆黒となり、まるで堕天使だな、とかそんな話をした事を覚えている。





 さて、魔王となって世界を支配する過程はここでは省略する。


 なにせ、そっちでもかなり苦労したからだ。


 自分で言うのもなんだが、俺は自分の根は善人というかお人好しと言うか、あまり悪い事ができない性質だ。


 魔王となれば、大勢の人を殺すことになるだろう。


 まあ、最終的には相手が人間だろうと魔族だろうと、命は一緒だし、そこで区別するのは単なる意識の差だ、という感じになってしまい、使命は果たした。つまりは世界征服。


 その後は魔王軍の部下に後任し、今度こそは辺境でゼルシアと暮らそうかと思っていた。




 しかし、オーディアはそれを許さなかった。

 



 またまた呼び出された俺とゼルシアに言い渡されたのは、また勇者をして欲しいという要請。


 本当に断りたかったのだが、彼我の力の差はまだまだ有り、言うことを聞いた。


 だが、ここからが信じられない、というよりは呻くような現実を突きつけられる展開だった。

 




 再度勇者となった俺は最初の頃とは異なり、戦い方をはじめとして、様々な力をつけていた。


 なにしろ、スキル:《進化する者エボルター》の進化変異スキル、《記憶する者リメンバー》のおかげで、前回の勇者人生と魔王人生で得たものが全て備わっていたからだ。それは良かった。


 だが、勇者となり、話を聞いていくうちにとある事実を知ることになる。


 それは、『この世界の魔王は、魔王人生時代の俺の後任』ということ。つまり、過去にこの世界を支配した魔王こそ、俺だった。


 あまりに残酷ではないか。オーディアは俺に、魔王時代の部下を―――仲間たちを相手にし、世界を救えと言っているのだ。魔王にして世界を支配させておきながら、だ。


 この時から、俺はオーディアに対して不信感をかなり強めた。





 故に。


 俺はそのままでも魔王である元部下を討伐できる力を持ちながら、できるだけ魔王討伐を遅らせた。


 目的は一つ。女神に対抗しうる力の育成。


 それができるのは、おそらく、神剣アルノードだけでは無理だ。《進化する者エボルター》の更なる進化が必要だろう。


 とは言え、この世界に俺より強い者はまず存在しない。魔王である元部下とて、例外ではない。傲慢ではなく、事実は事実として捉えねばならない。


 だから、《進化する者エボルター》を進化、育成する事に力を注いだ。


 さらに魔王討伐を実行することは無く、人と魔族に和平を結ばせた。これもまた簡単なことではなかったのだが、そこだけは譲れなかった。それを譲れば、俺の前世が意味の無いものになるからだ。


 そして、また会うことになるだろうオーディアが次に言ってくる事も予想していた。


「今度は、また魔王をしてほしいのです」


 ここで俺は注文をつけた。二度も勇者を経験した身だ。生半可な勇者相手では役不足だと。


 つまり、わざと強者がいる世界に転生した。


 それを倒すことで、俺の《進化する者エボルター》はさらに進化する。


 送られた世界は、様々な魔王が存在し、派閥を強める世界。勇者はそれを倒していくという世界だ。


 そこで、俺はある行動に出た。魔王ながらにして、他の魔王を討伐、吸収していったのだ。強い勇者の育成のことも考えると根こそぎ刈り取る事はできないが、それでも勇者を待つだけとはだいぶ異なる。


 俺自身、オーディアの力を知らなかったが、そこはゼルシアの知識が俺を助けた。


 そうして、魔王が俺一人となった時、勇者と相対した。多数の魔王を倒していった俺にとっては簡単な相手であり、あっけなくその世界で俺が頂点となった。


 結果として、俺は神と対峙する程の力を手に入れていた。





 そうして、俺は、勇者→魔王→勇者→魔王と転生して、今またオーディアに呼び出されたのである。

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