寛容の代償

愛創造

ふんづまり

 咽喉の奥には脈動が溜まる――そんな『詰』まらない幻想に圧し潰され、死に絶えて終いたい。僕は奇妙な想いに苛まれ、眠らない夜に足を運んだ。世は地獄の生き写しで、金と快楽の堪り場だ。我慢のできない糞餓鬼どもが、自分の汚物を拭かずに嘲笑う。もはや。僕は現実に飽きたのだ。此処には可愛い純粋など存在しない。此処には綺麗な蝶々など存在しない。の鱗粉だけがノウノウと撒き昇るのみ。肚が煮える。されど糺すべき方法も無い。僕は幽霊なのだ。肉体の在る、魂が解らない、酷く滑稽な器だけの何か――さあ。皆々。夜を行進しよう。月が十字に裂ける事も在らず、円筒が人間を攫い尽くす何て有り得ない。星々も害悪な雲に隠されて、揃う術も忘れて去った。僕の人間で在る証明は、素晴らしき感情にも消えたのだ。神様。如何か。殺された僕を助けてください……叫んでも無音。兎角。僕には空の僕以外に愉悦が無い。なので今回も僕は、僕で遊ぶ事にした。誰もが遊びを嘲る、進化した世界に僕だけは『僕』で遊べるのだ。素敵な事柄だろう。きっと――君ならば解る筈だ。君達ならば判る筈だ。先ずは思考を集めよう。先ずは感情を集めよう。簡単な方法で蒐集可能な、人間を餌で釣るのだ。例えば。ホラ。其処に視得る蒼褪めた貌。虚ろに走る、鉄の暴力に身を委ね、最期を渇望する『人間』だ。神様に頼んで魅せようか。殺された僕と同じ場所へと導くのだ。天からの光が。虚空からの招来が。牙を剥く不可視の抱擁が。彼方の蒼褪めたぞ。冷たい感覚。啜られる心地。悦びと共に『人間部分』が吸い尽くされる――やった! 僕のような、のうなしが増えたぞ!

 やってしまった。僕はもはや僕も失った。違うな。僕はもはや僕以外に成れず、彼等も永劫に彼等の侭だ。喰らうものどもは栄養分を吸収せず、留める性質を持つらしい。もう一度――咽喉の奥には脈動のうが溜まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る