花が成長を止めないように

カゲトモ

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 いつもよりBGMが大きく聞こえた。例えるなら音が壁に跳ね返って響いているような。気のせいではない。物理的に、店内に人がいないからだ。

「・・・」

 まぁ店をやっているとこういう時もある。むしろ常時混んでいるバーのほうが何か嫌じゃない? いや、嫌じゃないか。売り上げと言う点から見ればやっぱり常時繁盛していたいと思うけどさ。

「ふぅ」

 頭の中で新しいカクテルのレシピを考えながら深く息を吐く。別にため息を吐きたかったわけじゃない、勝手にそうなっただけだ。

 さっきお客様が店を去ってから三十分はこうしている。いや、もっと長いかも? 折角だから試作品でも作ろうか? そして来店したお客様に試飲してもらったりして? なんてね。

 ガポッといつもなら気にならない冷凍庫の扉を開けて中に入っている食材をチェックする。

 考えていたのはフルーツ感のあるフローズンタイプのカクテルだ。女性受けが良さそうだけど、男性が頼んでも恥ずかしくないやつ。

 フローズンカクテルってなんでか可愛いのが多いんだよな。フルーツを乗せても沈まないし、盛りやすいから。それでも男性が頼んでも格好いいようなスマートなフローズンカクテルを作れたら・・・ってかこういうのってもっと早めに考えておくべきだよな。毎回出足が遅れるの、悪い癖だわ。

 なんて自己反省していたらやっと待ち望んでいた音が耳に届いた。ノブが回された小さな金属音。扉が開き切る前に即座に立ちあがった。

 かろん。

「いらっしゃいませ」

 待ちに待っていたとしてもきちんとベルが鳴ってから声を掛ける。

「・・・こんばんは」

 躊躇ってから踏み出した一歩。ノブを握ってから離すまでに掛かった時間で彼女が重い脚を動かしたことは明らかだった。

「いらっしゃい、志麻ちゃん」

“いつも通り”

 なんでか頭の隅にそんな言葉が浮かんだ。いや、なんでだよ。俺はいつ、どんなお客様にだって真心を込めて接することをモットーにしているだろ。

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