僕の血は火星のあか

@killjk

プロローグ

僕は夢を見た。


燃えるような真赤が僕の身体を包み、目の前には海の底のような瞳を持った少女が居る。


お互いに、言葉は発しない。

ただ、見つめ合っているだけだ。



「そんなロマンチックなシチュエーションだと思わないでくれる?地球人はやはり気色が悪いのね、お母様の言う通りだわ。」


「はい?」


喋らない、と思っていた少女が突然辛辣な言葉を僕に投げつけてきた。


表情と声色は変わらず、少女は続ける。


「まあ、リンク先に貴方が選ばれたのには納得がいく。だって、貴方、綺麗さっぱり空っぽだものね。」


可哀想に、と付け足す。


「いやごめん、初対面の、恐らく同い年の女の子にそこまで言われる筋合いは無いんだけど…」


「残念ながら、貴方よりは地球からブラックホールの距離くらいの年月を生きているのよ。これでもね。」


「…ハハハ、ご冗談を。」


「まあ私の年齢はどうでもいいのだけれど、時間が差し迫っているから、手短に終わらせるわ。」


そう言って、彼女はおもむろに僕へ近付き、首元に顔を埋める。


「少し痛みを感じるかもしれないけれど、地球人は我慢強いと聞いているから、きっと大丈夫よ。」


「いや、申し訳ないけど痛みに弱い地球人もいる──」


僕がそれを言い切る前に、鎖骨付近でグロテスクな音が鳴り、とてつもない痛みが脳天を突き抜けた。


「ん…ごめんなさい…どうしても、この作業が必要なの、」


先程と同じく、表情ひとつ変えずに、彼女は水を飲み干すかのように僕の血液を吸っている。


痛い、痛すぎる。

もはや痛いという表現では足りない。


連続する鈍痛。

朦朧とする意識の中、彼女は最後に言う。


「明日からの人生、ロマンチックなことなど何ひとつ起こらないと、覚悟していてね。」

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