第6話 第二工程・食糧自給

『こんなので本当に、二百人が食べていけるほど野菜が採れるの?』

 偶然同じ持ち場に着くことになったライラが、フォー・アームスの中で首を傾げた。

 すべての人員が同時並行でいくつもの作業に携わりながら、流動的に担当を行き来するマリウス・チューブでは、そこかしこで知り合いができては別れ、別れては再会するということを誰もが繰り返しているのだった。

「コンテナ栽培を見た事がないのか? 野菜だけじゃなく、種さえあれば稲だって麦だって信じられないほど生産できる。千葉ではこいつを五百倍に引き延ばしたような工場が三百万人分の食生活を支えてるよ」

 箱状のユニットを機械の腕力を活かして連結させ、しっかりと結合したのを確認してから「指」を放す。可能な限り月面上での作業を簡略化するためにユニット単位で扱えるように設計されているとはいえ、マイナス百七十度の月の極寒に晒してしまえば一発で中身は使い物にならなくなるだろうから、慎重にもなる。

 顔を上げれば、何十という青い金属質の箱(ユニット)が連結された食用作物生産プラントがマリウス・チューブ底部の一角を占領していた。

 ユニット一つが2m四方ほどの正方形のキューブなので、今連結されている分だけでもちょっとした貨物倉庫のような様相を呈している。頑丈な合金の外装の内側には二十三種の食用作物を促成栽培するための、寒天に似たキットが詰まっているはずだ。

『故郷では普通の農業がほとんどだったし……スタンフォードに実験用のミニチュアがあったりはしたけど。すごいね』

 工業用ライトの光を浴びて鈍く光るコンテナプラントを眺めて、ライラが目を丸くした。

 全長五十キロという長大な洞窟の、一部分とはいえ広大な敷地を開発するのには人手がいる。しかし人数を増やせば増やすほど、輸送だけでなく維持するためのコストも際限なく膨れ上がることになる。

 特に食料と水の問題は悩みの種であり、一度は遠隔操縦する無人機械にAIを乗せて行う、完全無人の基地開発すら検討されていた。

 それをどうにか解決したのが、濃縮栄養剤さえあれば無制限に食料生産サイクルを維持できるコンテナプラントと、もう一つの発見だ。

 月の水源――ただし、液体でもなければ固体とも言えなかったが。

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